精霊達の専門分野その1
それから、俺達は食事を続けた。
・・木の実だけだが。
俺が二つで、ルミアが一つ。
少ないと思うかもしれないが、カロリーの高い果実である。
それを平らげて、リュックの紐をきゅっと縛り、リフウに問いかける。
「リフウ、そろそろできたか?」
「できたよぉーあるじぃいい!
見て、このできまえを!!」
リフウがふわっと、なびかせて、出来上がった彼女の服を見せびらかした。
「---・・・」
「・・なかなかやるな^」
「えへへ、森の皆と頑張ったんだよ!」
ルミアはぼぉーと無表情にそれを見る。
いつものように見ているようで見ていない虚ろな瞳。
俺は感嘆を上げた。
彼は照れ隠しに森の精霊達とくるりと回ってみせる。
ふわっとなびくのは、白い絹糸で作られたワンピースだ。
飾りは、地を司る精霊達の民族衣装のような柄で、丁寧に刺繍されている。
・・ついでに下着類もつくられてた。清楚な淡い白で少し可愛い。
地を司る精霊は、こういうものを作るのも得意で、
自然の恵みを最大限に生かしているのが見て取れた。
「よし、早速ルミア、着てくれ。
リフウ、森の精霊達と手伝って着させてやってくれ」
「・・----」
俺は彼女を抱き上げたまま、サッと立ち上がると彼女を下ろした。
倒れないように腰を引き寄せながら、リフウと向き合う。
ルミアは、俺とリフウの服とを交互に見合わせていた。
「了解!」
リフウは、ルミアを風の力でふわりと浮き上がらせた。
ふよふよ
彼女の足が浮き、自然と俺も彼女に腰に回していた手を放す。
「ぁ!・・---!!」
ルミアは目を見開いて、俺を見た。
俺と距離を作る風に対して、戸惑っているようだ。
離れたくない、と思わせるような視線が自分に向けられる。
彼女の瞳は虚ろであったはずだが、俺を瞳に映してた。
無感情で無表情な彼女にしては珍しい。
「ルミア、心配するな。リフウに従ってくれ。
着替えるだけだから」
「・・--」
彼女は名残惜しそうに素直に頷いた。
俺としては、嬉しいような少し困るような。
だってーー着替えてもらわないと困るだろう?
目のやり場が困る。・・・。
「じゃあルミアちゃん、お着替えだよぉー!」
小さい子供に教えるようにリフウが言った。
それと同時にルミアを森の精霊が囲い始めて
ふわっと、俺のマントが下に落ちてくる。
--ふわわっ、パスッ、バサッ
俺はそれをキャッチして、羽織った。
「大丈夫だよ~ルミアちゃん。
そんな不安そうにしなくても。すぐだから」
頭上でそんなリフウの甘やかす声が聞こえた。
それを聞きながら、ルミアのことについて考えた。
「--」
ルミアは、感情が喪失している。眼差しも表情も虚ろだ。
そして幼い時の記憶を保持している。
きっと、俺よりも明確におそらく、覚えているはずだ。
だとしたら、やはり、心は成長してないのだろうか。
八年間は・・空白のまま?しかし、魔物ことは覚えてる・・。
彼女は精神的な面でも大きなダメージを追っているかもしれないと
そう思いあたったとき、
「主ぃいい!終わったよーー!」
リフウの声と共に、
ふわっと、彼女が舞い降りてきた。
「あぁ、ありがとな」
俺はルミアをやんわり抱きとめて、上を見上げる。
リフウは森の精霊と、俺たちを見下ろす形になる。
「いえいえ、役に立ててうれしいよ、主!
それにしてもほんとにルミアちゃん、感情がないの?
すごく不安そうに下ばかりみてたけど?」
「下?」
下って・・まさか、俺をか?
「そうそう、主を探してたみたい。
ルミアちゃんの目がきょろきょろして揺らいでた。」
「そう、なのか?ルミア」
抱きとめた彼女を見下ろし、問いかけると
「・・・---」
わずかに沈黙して俺の胸元に顔を摺り寄せた。
・・こ、こんな行動・・初めてだ。ーーー不安、だったんだろうか?
「ルミア・・。」
ぽつりと彼女の名を呟いた。感情が喪失して、
言葉に表現することも忘れてしまったのかもと、思い至る。
「リフウ、ありがとな。もう、戻っていいぞ」
「了解。また近いうちに呼んでね!」
「あぁ」
俺の言葉に彼はリングに戻った。
そろそろ、出発するか。俺はそう考えていた。
ここは森でも奥のほうだった、
川沿いに一日中歩いても、森の入り口くらいまでしか行けないだろう。
「ルミア、」
俺は彼女の名を呼んだ。
「--?」
彼女は、少し先ほどより安堵した眼差しで俺を見る。
まだ無表情で虚ろだが、マシにはなった。
「これから、森の入り口まで歩く。
ルミアはまだ歩けないだろう。俺が抱き上げて連れて行くから。
それに、裸足だしな」
彼女の足をちらりと見て、言った。
歩けたとしても歩かせるわけにはいかない。
足が汚れるし、川原は痛い。
ーー森を抜けたらどこかで靴を買わないと。
「・・--」
彼女はコクンと頷いた。
うん、とか、わかったとか、
言わなくなってしまっていることに俺は気づく。
だが、まあいいか。と思い始めた。
女の考えることは複雑だから。
「じゃあ、いくぞ。出発だ」
リュックをひょいっと担いで、
そして、彼女を抱き上げて、俺は歩き始めた。
少し、むっつりな王子様
「--!!」
あ、でも、ルミアちゃんの着替えを頼んだのは
正解だったよね。
「あ、あれは・・!!」
あーはいはい。分かってるって。
俺も男の端くれ。男の性くらい分かってる!
また彼女の裸みることになるもんね!
「っ!!」
今度こそは抑えられんと思ったんでしょう?
「あーもう、うるさい!!黙れ!!」
赤面しまくり。どこが冷酷無慈悲なのやらww
ご愛読、引き続き、よろしくお願いします。作者より