契約した精霊たち
考えはまとまった。
あとは、王城に報告だ。
彼女を連れて帰らねば、ならない。
あと、ルミアにも事情を話す必要がある。
感情のないルミアのことだ、素直に従ってくれるとは思うが。
「ルミア、俺は今まで、お前を探してた」
「・・--」
ルミアはただ俺を虚ろな瞳で見上げたまま。
「ーーで、お前をみつけた。
ルミアは俺の許嫁だ」
「・・--」
コクンと彼女は頷いた。無表情に俺を見ている。
聞いたことと確認してることに対してだけ、彼女は頷くようだと俺は分析する。
「俺はお前を王の命令でつれて帰らねばならない。
俺と一緒に王城まで来てくれるか?」
「・・--」
コクンと彼女は何を思ったのか頷いた。
もしかしたら、決定権がないからだけかもしれないし、
置いていかれても構わないのかもしれない。
いや、幼い時の彼女の性格から言えば、
義務だといえば、困らせないように頷くかもしれない。
「よし、決まりだな。
俺のことは、殿下じゃなくて、リオミヤだ。
リオミヤと呼べ。いいな?」
「・・---」
コクンと、彼女は再びうなずいた。
「じゃあ、呼んでみてくれ、ルミア」
「リオミヤ」
彼女は素直に自然に俺の名を口にした。
無感情だが、不快ではない。
「いつでもいい。俺に何かしてほしいときや、
聞きたいとき、俺を呼んでくれ。わかったか?」
「・・--」
コクンと、彼女は頷いた。
「そうだ、俺がわかったか?と聞いたときや、
いいか?と聞いたとき、頷くだけじゃなくて、
わかったとかうんとか言葉で伝えてほしい。いいか?」
「・・わかった」
彼女はそう淡々と呟き、頷いた。瞳に感情は宿らない。
だが、どうやらしっかり俺の言葉を理解できているようだ。
言ったそばからしっかりできている。
「よし、それでいい。
これから、伝書鳩を送って報告して
ルミアをつれて帰りたいが・・--」
俺はちらっと、彼女をみた。
俺のローブを着ているだけで、はずせば裸だ。それに裸足だし。
さすがにそれで町はうろつけない。数日以上はかかるのだ王城までは。
「---?」
「精霊を呼ばないと駄目だな」
「・・?」
彼女は不思議そうに俺をみる。しかし何も聞かず黙っている。
ーーやはり、感情がないと、自分から問いかけるようなことはしないのか。
少し残念に思いながら気長にやるしかないといい聞かせ、
両手の中指にはまったリングを見た。
右手のリングには両者の合意の下で契約した精霊が入っている。
そして左手には、俺が封印と契約を施し、服従を誓わせた精霊が入っている。
なかなか手ごわい気難しいやつだ。数々の精励を打ち滅ぼした闇の精霊だからな。
しかし、右手のリングの精霊に今回は助けを求める。
精霊によって専門分野が違うのだ。
「地と風を司る精霊リフウよ、我の前に姿を現せ」
俺は右手をかざしてそう唱えた。
シュゥウーー!
リングから煙が出てきて、その中からピカッと一筋の光が走り、
精霊が現れた。
「主、よんだぁ?」
なんとも明るい性別はオスにあたる精霊である。
人間の姿をしているが、耳はとんがり、左右色の違う瞳を持つ精霊だ。
片目は地を司る、緑色。もう片方は風を司る薄い水色の混じる紫だ。
髪色は濃い茶髪で、名をリフウという。
ふよふよと彼は浮いて楽しげにそう問いかけてきた。
「リフウ、紹介する、許嫁のルミアだ。
感情が喪失している、お手柔らかに頼むぞリフウ。
ルミア、これが俺の契約した精霊リフウだ。
地と風を司る精霊だ。」
「ルミアちゃんかぁー!よろしくね!」
「ーー・・リフウ・・。----」
明るいリフウの声をばっさり切り捨てるように
彼女はぽつりと名前を呟いて、みていた。
あちゃー・・駄目だ。
その場の空気が壊れた瞬間、俺はこめかみを押さえた。
こういうとき、どうすべきかも教えとくべきだったな。
幼いときのルミアは明るかったから、失念していた。
「ルミア、よろしくといわれたら、よろしくと、言い返してやってほしい。
挨拶のようなものだ。・・頼めるか?」
「わかった。。。
リフウ、よろしく」
素直に彼女は言って、リフウを見据えた。
無感情にただ俺に従って言った言葉に抑揚はない。
感情のない虚ろな瞳でリフウを見上げてた。
「・・・。うぅうう・・あるじぃいいい!」
「な、なんだ」
突如、彼はなみだ目で俺を見つめる。
少したじろいで、リフウを見た。ショックだったのか?やはり・・。
「こんな、こんな、
無感情に接せられたのは、これで二度目だよぉおお!」
「二度目?」
「そうだよっ!一回目はシヴァルだよっ。
ボクはッあれが一番ショックだったんだぁっっうぁあー~~ん」
リフウは泣きはじめた。
相当ショックだったんだろう。感情が喪失してるといったはずなのだが。
シヴァルとは、もう片方のリングの精霊だ。
魔族と精霊の間の存在ーー魔精霊だ。強いから役立つが。
「リフウ、泣きやめ。感情が喪失してるといっただろう。
シヴァルは仕方がない。悪党だったしな。」
もとは大罪を犯したやつだ。死刑だったそれを俺が無理やりリングに宿した。
「っう!それをいわれると、・・」
「お前に泣いてもらうために呼んだんじゃないんだ、こっちは。
ルミアの服を作ってもらいたい」
「えっ!?ルミアちゃんの!?」
「そうだ。なんでもいいから、とにかく怪しまれない奴」
「!なんか事情があるんだね。」
「まあな。お前が作ってる間に報告書作るから、伝書鳩も呼んでくれ」
「!了解!!」
なんか不服そうだったリフウに頼み、俺はリュックから羊皮紙とペンをとりだした。
「・---」
じっとルミアは俺を見ていた。
「よぉし、じゃあやるよぉーー!
鳩さんこぉーい、絹糸こーい!」
リフウは適当に叫びながら、はじめた。
おそらく呪文は別で唱えているのだろう。
それなりに準備し始めたのを見て、俺も報告書を作り上げた。