第六話――この世界の常識
とは、言った、ものの。
「広すぎだろーーーー!!」
広い。とてつもなく広い。
まず、建物全体の大きさが半端ない。
廊下中を走り回ってみつつ、窓から見た感じでは、此処はどうやらお城みたいな場所なんだよね。
で、三方が崖で門のある方向だけ、地面が続いてる。つまり、断崖絶壁の出っ張りに城を建てた様子。
中庭、という名の巨大なジャングルが真ん中にあるから、城自体は四角形だろうか。
階層自体はそこまでなくて、せいぜい5階ぐらいまで。
ただ、俺が生き返った、ゾンビ&人肉部屋他、20部屋ほどの地下室がある。
こう、多分崖に連なる感じで。
しかも、不思議な事に、この広大な城に人っ子一人いない。
建物自体はそこまで古くない、というか劣化すらしてないんだけど……?
謎はいくつか残るが、とりあえず調べきれなかった。以上。
で、城の中を大体調べ終わった後、とりあえず血みどろの実験室は居心地が悪いという意見一致の元、俺達は旧応接室らしき所でお茶していた。
ちなみに紅茶セットはハルがどっかから持ってきた。
「で、どうなってるんだ?」
「うん、ここはとある貴族が昔に立てた幽霊屋敷」
「幽霊屋敷、ねぇ」
「ボクがここに来たときはたまたまあったんだよねー」
ちなみにここ数時間で分かった事だが、ハルは嘘を付く時は目を逸らすという癖がある。
ちょうど今みたいに、目が泳ぐ。
しかも、厄介なのはこの嘘のつき方は、追及されると本当に困る嘘、である事。
所謂、悪戯しちゃったー、的な嘘じゃなくて、本当に全力で隠したい嘘。
だから、そんな泣き出しそうな顔して目を逸らされると、どうも追求できない。
「で、此処はどこなんだ?」
「えっと、タカアキはグラド大陸の地図思い浮かべられる?」
グラド大陸って何さ。
いや、異世界だからさ、当然地球儀じゃないんだろうけど。
「知らん」
「じゃあ……」
と、どこからかインクと紙を持ってきたハル。
ちなみに、紙といっても無論インクジェット対応の指が切れるホワイトペーパーではなく、所謂ちょっと茶色ががった繊維の匂いがする紙である。
「えーと、真ん丸島に♪ 大穴開けて♫ 湖垂らして♬ ………出来上がり!」
真っ向から創世神にケンカ売ったな、ハル。
「というか、それはなんだ」
「え? 何か間違えた?」
ええと、その何一つ間違えずにできたので褒めて下さいという笑顔はやめてください。
「いや、絵じゃなくて歌」
「やっぱり、……変、なんだ」
おうっ!? 何故そこで泣きそうになるのですか!?
というか、やっぱりって事は誰かに言われたことあるのね。
「い、いや! 変じゃない! 普通の極み!!」
「え、あ、うん、アリガト」
とりあえず涙フラグ回避。
しかし、うーむ。
なんというか、歌を歌う癖でもあるのかね。
いや、別に調子外れって訳でも音痴って訳でもないから、聞いてて悪い訳じゃないんだけど。
少し、歌うタイミングがズレている気がする。
ゾンビ化手術の時も歌ってたし。マッドらしく。
「で、ココが今の場所」
ハルが指差した机の上に描かれた絵は恐らく大陸の大まかな形なんだろう。
三日月、というかハルの言うとおり大きな円から小さな円を少しずらして抜き取ったみたいな形。
小さな円は上の方で海の方とつながっていて、右と左の二つの半島、つまり三日月の先っぽはそれぞれ真っ直ぐな線でつながっている。
恐らく、橋か何かあるのだろう。
そして、円形の大陸の右下に小さな円には劣るものの、それなりに大きい湖。
で、海の湖がある側、つまり右下の沿岸に、この城はあるらしい。
「また大陸の端っこだな」
「うーん、帝都エレクシアがこの辺だから」
帝都、と言うからにはそれなりに大陸の中心なんだろう。
で、その帝都は大陸の左上。
ちょうどここから円を挟んで反対側である。
「つまり、ちょうド田舎と」
「あ、あはは」
まぁ、仕方あるまい。
あの女神がご丁寧に便利なところに飛ばしてくれるはずが無いし。
ドラゴンが居る時点で人のたくさんいる都会ではないだろう。
「しかしそうなると、ますますやる事が無いよな」
街が近くにあるのであれば、そこまでいけば、何か見つけることも難しくは無いと思うのだが。
「というか、金はどうなってるんだ?」
「お金?」
はい、お金です。だから何故そこで言葉の意味は解らないとばかりに首をかしげるのでしょーか。
人が人である以上縛られ続けるアレですよ。人生に一度は金貨を詰めた風呂に入ってみたい! ってヤツですよ。
「お金って、コレの事?」
「な…………」
ええ、どうやら私は何か間違えてたようです。
最初に目覚めたのが薄暗い地下室だったからてっきりハルさんはそこまでお金持ちじゃないと思ってたんですよ。
はい、唯の勘違いでした。
というか、このお城にわけありで住み着いてる時点で気が付くべきだよね。
うん、目の前のハルさんが宝箱一杯の金貨を持ってる事ぐらい。想像できて良いだよね。
ハルが何気なーく開けた箱の中は金貨で埋まってましたよ。
金銀財宝ってヤツですね。始めて見ました。
「あと、もう10箱ぐらいはあるけど……足りなかった?」
いえいえいえいえ、滅相もございません。
私ら一般市民には十分すぎるお金でございます。
もうここまで来ると物価とか関係ないよね。たぶんリアルに一生遊んで暮らせるよね。
「じゃあ、街に買い物でも行くか?」
買い物。ただの買い物。ええ、決してデートではありませぬ。ただの、男女の、買い物でございます。
「……タカアキは、買い物をしたいの?」
……顔を暗くされました。そうですよねー、ゾンビ男とデートなんて嫌だよねー。
「いや、ハルが嫌なら――」
「うん、分かった。買い物、行こう」
「え、あ、ああ……」
今度は、突然笑顔になって立ち上がって宣言するハル。
けれど、その笑顔は、何故か少し哀しげで、辛そうだったから。
何か悪いことをしてしまった気になってしまった。