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第五十八話――俺

「そうさ。その通り。僕の――」


「俺の名は、黒井鷹秋だ」


フリューの体が崩れ、周囲の空間が崩壊する。


捻じ曲げられた時間軸が元に戻り、フリューの、いや()の姿を、晒す。


「何で……なんで、お前がここに居るんだよっ」


まったく俺と同じ。


肌も、髪も、体格も、口も、目も。


限りなく同じ。同一人物。


強いて違いを上げるなら、俺より、目の前の()は髪が少し伸びている事か。


もしここにハルやアキを連れてきても、どちらがどちらか分からないだろう。


「別に……自分自身との戦いなんて、中ボスには珍しくも無いだろ?」


「ふざけるなっ!」


「ふざけてなどないさ。俺が、ここに来た理由。時間軸を捻じ曲げて、外見すら変えてここに来た理由。それこそ――俺という中ボスとお前を戦わせるためさ」


「……何?」


「俺は、未来から来た(・・・・・・)。この意味は、分かるか?」


「ああ。……時間転移。理論上は可能。だが、俺は使わなかった」


正確には、アキに『時間については触れるな』と忠告を受けて、時間に関してはほとんど弄っていない。


一応、可能であることを確認にするために、いくつか実験をしたが。どれも失敗している。


時間軸の捻じ曲げ。『有り得るはずの無い光ブルーアンバーズライト』ですら相当無茶な事だ。何が起こるかなんてわかったもんじゃない。


専門家である、アキですらやめておいた方が良いと言っているのだ。手を出さない方が良いに決まっている。


「それじゃあ、話しが早い。俺とお前は、同じ(・・)。なら、分かるだろ? お前が、いや俺が、どんな時に時間を遡ってくるのか」


「…………」


一つだけ、心当たりは、ある。


俺が、もし起きたらタイムトラベルして、歴史を改竄しようと思う事象。


「俺は――――ハルの死を目撃した(・・・・・・・・・)


「まさかっ!?」


まさかまさかまさか。そんな馬鹿な。有り得ん。有り得てはならない。


「嘘じゃない。嘘を付く訳が無い。そうだろ?」


…………。


「そんな……訳……」


だって……ハルが、死ぬ?


「ハルは、この次の闘いで、死ぬ」


馬鹿な……。


そんな訳、あるかよ……。


「どういう、訳だよ。お前は――お前は、ハルを護れなかったのかよっ!!?」


嘘だって、言えよ。


事故だって、言えよ。


「――そうさ、俺は、ハルを助けられなかった(・・・・・・・・)


「お前ぇっ!」


何で、どうして。


俺の目の前の俺は、泣いている?


「俺は、失敗した。ハルを護れなかったんだ」


そうか。そうなのか。


ハルが、死んだのか。


「うぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


そんな、馬鹿な、事が――


「落ち着けっ!!」


「あ……あぁ……」


「落ち着け! 黒井鷹秋!」


「……な……に?」


「まだ可能性はある! あるんだ!」


「お前は、俺だ。俺が全力で以って、無理だったんだろ?」


目の前の俺は、未来の俺。


俺だから分かる。


俺だからこそ分かる。


こいつは、全力の全開で事に当たり、そして負けたんだ。


こいつの顔に、そう書いてある。


「ああ、だが、可能性はあるんだよ!」


「何処に!!?」


「――此処にだ」


……俺?


「お前は、800匹以上の化け物を倒しただろう!?」


「この俺の剣を、受け止めただろう!?」


「それが、どうした……」


あの中で、俺は100回以上死んだ。


時間さえかければ、いくらでも可能な事だ。たとえ、何時の俺でも。


『勇者の剣』だって、特別な方法で勝ったんじゃない。


目の前の俺が、出来なかった事じゃないだろう。


「だから、なんだってんだ……」


「お前は、確かにここで()と闘った。そうだろ!?」


「あぁそうさ! 戦ったからなんだってんだ!?」


「その経験値が、お前を救う」


経験、値?


「その経験、それをした事があるという事が、ハルを救う」


「そんな訳……」


「忘れるな。この経験を」


「決して忘れるな。圧倒的多数との戦いと、圧倒的強者との戦いを」


「第一、俺はお前とまともに戦ってすらないだろう……」


確かに、向き合ったが。


確かに初めて、俺が『本当に勝てないだろう』と思った相手だ。


だが、そんな経験、意味は無いだろう。


「だが、お前は本気になれた」


「は?」


「『相手を殺す覚悟』。強者と闘う時の気構え。出し惜しみなどせず、その場で倒れるほどの全力。それを覚えておけ」


「え? あ、ちょ……」


は? 


なんでコイツ……倒れてんの?


「俺は時間だ」


「おい! 言いたい事だけ言いやがって! 超展開過ぎてわかんねぇぞ!」


おいおいおい。待てよ。どういう事だよ?


「外見を無理に弄ったからな。しかも、お前にバレないよう色々と細工もした。大変だったんだぜ? 俺、無駄に勘が良いからな」


「おい、待てよ! どういうことだって説明していけよ!」


「俺ならわかる、いずれな。未来からのヒントは、一つだけだろ?」


「ふざけんな! お前だって俺だろ!?」


「柄でもないけどな。とりあえず言っとく」


死亡フラグには早すぎるだろ!?


感動するには超展開過ぎるだろ!?


まだ俺はお前を倒してないだろ!?


「頑張れよ、俺」


なんで、だよ。


何で、俺は……んな幸せそうな顔して、死んでるんだよ。


俺なんだろ? 最後まで、諦めるなよ……。


何が、頑張れだ。ふざけてんじゃ、ねぇよ……。



世界は崩れ始めていた。


灰色の岩山。俺が青琥珀と出会ったこの場所は、崩れ始めた。


こいつが、俺が創った、練習場は。


異世界は――崩れ去った。



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