第五十七話――メモリー
さぁて、と。
あの『勇者の剣』。中々に強い。というか反則気味に強い。
だけどたった今、攻略法思いついちまった。
あの剣は『一つの世界を内包した剣』だろ?
「となれば、攻略法は――コレだぁっ!」
「――!?」
右手の『有り得るはずの無い光』を再度剣の形へと変える。
ただし、今度は大きさを約二倍に。
「効かないって、分からないかなっ?」
「ああ。その剣には無限の斬撃は効かないだろう」
そして、『勇者の剣』とぶつかり合う寸前。
その瞬間に、形を変える。
『勇者の剣』とぶつかる軌道から、包み込む軌道へと。
左手の光も使って、剣の鞘の様に、変化させる。
「なるほど。考えたね。普通の剣ならこれで無効化できる。だけど――それも意味は無いよっ!」
フリューが無理矢理『勇者の剣』を振り回す。
どうやら、力づくで抜け出す気らしい。
だが、俺の狙いはそこじゃない。
「アクセス。『勇者の剣』」
「!?」
『有り得るはずの無い光』は俺が得た唯一の奇跡、青琥珀をベースに創られた力。
だが、本質的にはそれは俺がこの異世界に堕ちて来て、女神に貰った力である。
よって、最も得意とするのは、『移動』に関する事である。
例えば、空間を捻じ曲げてワープしたり、とか。
世界観を仮想構築。『勇者の剣』、内部世界を断定。内部へ侵入。
「『勇者の剣』の世界とやら、見つけたぜ」
「なっ!? 『勇者の剣』の世界に入り込んだっ!?」
よって、異世界間の侵入など、造作も無い。
……いやまぁ、やったのは初めてですが。
「さぁて、見せてもらうぜお前の厨二病!」
「ぐ……あぁっ!」
浮いている。
ふわふわと、まるで水に浮かんでるかのように。
「これが――『勇者の剣』の世界?」
と、気が付くと、目の前にフリューが居た。
短パンにTシャツ。という今の奴からは想像もできない格好で。
ただ、半透明で、どこか灰色がかっている。
「記憶、か?」
分からないが、直感でそう感じた。
と、また気が付くとフリューの周りの世界が出来ていた。
灰色の岩山に、溶岩が固まってできた不安定な足場が広がっている。
何処かで見覚えのある――
「って日本かよ!?」
フリューの足元に転がっているペットボトルに、見覚えがある。
緑のラベルに、特徴的な名前。
どう見ても『お~い○茶』です。本当にありがとうございました。
後は……特に無いな。灰色がずっと続いている。
『ひっく……うぅ……』
って、アレ? フリューが……泣いてる?
『痛ぃ…………ひぐっ……』
と、見ると右足の膝のあたりに赤い色が見えた。
擦り傷、にしてはだいぶデカい。恐らくこのゴツゴツした岩場で転んだせいでかなりデカい傷になったんだろう。
あの手の傷は、痛み以上に血がだらだらでるのが怖い。経験者が言うんだから間違いない。
『うぅあ………ぐぅ……』
あー……。しっかしこれ泣き止まないぞ。
目の前で子供に泣かれるというのは、なかなかに辛いのですが。
『おーい! どうした、君?』
おっと。救世主様登場。
登山服を着て、杖を持った恰幅の良いおっさんだ。どっかで見たことあるぐらいに良くある格好だな。
ってか、こんな山に短パン小僧が居る事がおかしいんだよな。
『ここらは立ち入り禁止だぞ……って怪我をしているのか!?』
おい、立ち入り禁止かよ。どうりで誰も居ないわけだよ。
『待ってろ……確か…………あった!』
あ、おっさんがバンドエイド出した。
よしよし。血が止まれば泣き止むだろ。
『よーし。痛くないから膝を出してごらん』
『…………うぅ……』
おっけーおっけー。これでもう大丈夫だ。
バンドエイドがデカめの奴だったのも大きいな。おっさんGJ。
『…………ありがと』
お、フリュー泣き止んだ。
『それで、何でこんな所に居たんだい?』
そういや何でこんな所に居るんだ?
さっきもおっさんが立ち入り禁止とか言ってたし。
『……………』
あ、今フリュー不機嫌なった。
顔は良く見えないが分かるぞ。あの感じは超不機嫌だ。泣く寸前みたいな。
『いやまぁ、別に君をどうこうするって訳じゃないからさ。できれば話してくれるかなーと』
おっさんすら慌ててるし。
『……コレを…………拾いに』
ん? なんか右手に光るもの持ってるな。石ころか?
『まぁ今すぐここから出れば問題は無いだろうと――――それはっ!?』
おっさんどうした? なんか今一瞬素になったぞ。子供相手に。
『…………っ!』
ってこら! 子供の石ころを取り上げんなよおっさん! いったいなんだってんだ。
『――――……青琥珀』
――何!?
おい、ちょっと待て。青琥珀だと!? ここは日本だぞ。
あの宝石が、日本に、ある、訳、無、い……。
『……太陽の光で変色。……間違いない、青琥珀だ!!』
『?』
……嘘……だろ……。
『凄いな、君。これは特別な宝石だぞ? 原石の青琥珀なんて日本にそうそう落ちているものじゃない。ドミニカ共和国でもあるまいし』
『……返して』
『え? あ……あー、コホン。え、えっとだな……これより綺麗な石もあるんだが見な――』
『……早く、返して』
『……そうだな。これは返そう。ただし! 今すぐにここから出ていきなさい。この先はそんな怪我じゃ済まなくなる』
『……分かった』
『で、ではな! おじさんはもうちょっとここらで綺麗な石を探すことにするよっ!』
『…………』
………………。
灰色がかった半透明の映像が消え、視界が戻る。
『勇者の剣』と対峙し、その剣を素手で握った俺に、意識が戻る。
固まったまま動かず完全に拮抗している状態の俺とフリュー。
俺は一切力を入れていないのに、『勇者の剣』が一切動かない状況。
異常なまでに空気が重く、呼吸をすることすら辛い。
「……おい、フリュー」
だが、その空気を破って俺が声を出す。
このまま、俺を斬る事も出来るだろうに、微動だにしないフリューに、声をかける。
「どういう事だ、これは」
十歳前後の、少年に。俺と闘っていた少年に、
「説明しろ! フリュー・ヘァプスト……いや、」
俺によく似た、黒髪の少年に、
「黒井鷹秋!!!」
全てを、問う。