第五十六話――フェイト回
「まったく、俺もこんな世界まで来るとはねぇ……」
思えば、奇特な物だ。
つい最近まで、超絶平和国日本において、争いごとなんてチンピラの殴り合いしか見た事の無かった俺が。
血なんて鼻血ぐらいしか見た事の無かった俺が。
こんな世界までやってくるなんて。
「始めるか。フリュー」
「ああ、来い」
青琥珀の光を右手から、全身へと侵食させる。
理を曲げる力を宿すのではなく、理を曲げる存在へとシフトする。
「破戒すべき全ての符、なんつってな」
右手の光を延長させ、ナイフを形作る。
ギザギザの、物理的殺傷力など欠片も無いナイフを。
「らぁあああああああああああああ!」
ナイフを振りかざし、フリューへと突進する。
そして、同時に理を破壊。空間を捻じ曲げその斬撃を複数存在させる。
「燕返し」
正確には4つどころではない。
数十、いや数百、いや数千。
斬撃を時間の輪廻から引きはがし、何度も放つ。
「これで――どうだっ!!!」
もはや数と言う概念を壊され、∞と化した斬撃を、フリューへと叩きこむ。
空間ごと、目の前のソレを叩っ切る。
「お見事。けど――まだまだだね」
なっ!?
今の一瞬、フリューの存在自体が掻き消えた。
「……因果律ごと脱しやがったか」
「まぁ、これぐらいはね」
「無茶苦茶しやがるぜ……」
自分と言う存在を消し去り、再度定義する。
もはやヒトじゃないな。
というか、今のは割と全力の一撃だったんだが。
傷一つ無いって傷付くわぁ。
「今度はこっちから行くよ」
っと、フリューが取り出したのは――剣?
「はっ!!」
「!?――ぐぁぁああああああっ!!」
!?
何だ今の!? 『有り得るはずの無い光』の光が――
「切り取られた?」
『有り得るはずの無い光』ごと、右手が持って行かれた。
肉体は再生するから、問題は無いが……一体今のはなんだ?
第六感で予感がしたからいいものの、引くのが一瞬遅かったら恐らく殺されていた。
俺が死ぬわけは無いが――言うなれば、<時針>を食らう直前と同じような恐怖。
「もう一度、だ」
「くっ!」
あの剣はヤバイ。なんだから知らんがヤバイぞアレは!
「なんつー剣だよ……」
「この剣かい? 『勇者の剣』だよ」
「!! ……マジかよ」
つまり何か? 伝説の勇者様の伝説と闘えと?
「お前が勇者――って訳でもなさそうだけどな」
「ああ、僕は勇者じゃない。けど、この剣を創ったのは僕だからね。僕も扱える」
「マジかよ。ったく、無茶苦茶な物創りやがるな……」
「この剣は言うなれば『一つの世界を内包した剣』。僕の世界が元となって創られてる。だから君の『有り得るはずの無い光』は効かない」
なんつー剣だ。アヴァロンかよ。
そりゃ、この世界のルールを破壊するルールブレイカーじゃ勝てない筈だ。
「さて、……君にこれが壊せるかい?」
「上等だぁっ! その剣叩き折ってやるよ!」