第五十五話――52時間後
「はぁ……はぁ……はぁぁっ!」
2メートルほど飛び上がった後、そのまま右手で地面に叩き付ける。
853匹目。
「はぁ……くっ、らぁっ!」
左の回し蹴りから、右の踵落としで沈める。
854匹目。
「ぐ……がぁっ、く、だぁっっ!」
頭突きで怯ませた後、右手を貫通させる。
855匹目。
そして、
「…………これで、終わりだっ!!!」
右ストレートを胴体に決め、そのまま左で地面へ叩き付ける。
856匹目。
俺は、化け物の巣より、生還した。
「あ、お疲れ」
この目の前で笑ってるフリューは今すぐ殴りたいのですが殴ってよろしいですか。
「死ぬかと思ったぞ。つか死んだ」
100回は軽く死んだな。傷口が小さいだけの致命傷も数えれば300回オーバーは逝った。
「てめぇ……後で、ジャンピング土下座させてやる」
「随分軽いね。それぐらいなら今すぐでもできそうだけど」
ってか、余裕しゃくしゃくといったフリューの顔がうぜぇ。
「で、一体どうなってるんだ。全部一から話してもらおうじゃねぇか」
「うーん、よし。分かった」
「おぅ、ほら。一言残らず聞いてやるからさっさと話せ」
「じゃ、僕を倒してね」
「…………は?」
今、何と?
「え? だから、僕を倒したら真実を教えよう、って奴」
「おい……、ちょっと待て」
はぁ?
こいつは確かに、あそこまで登ってくれば全部説明するって――
「言ってないよ。『ここまでおいで』とは言ったような気もするけど」
脳内会話ログを検索します。しばらくお待ちください。
……………検索中……………
検索結果:0
……こいつ、確かに言ってねぇ。
「ちょっと待てよ。おい、それは無ぇよ」
ちょっと俺頭にきたよ?
「んー、けどさ。やっぱ倒さないと教えられないし」
「ふざけんなっ!」
「じゃあ、さ。君の『有り得るはずの無い光』は返すよ。それでいい?」
「何?」
おい、ちょっと待て。今コイツなんて言った?
「何でお前がその名を知ってる……?」
あの厨二ネームはアキとハルしか知らない筈だ。
どうなっている?
「ん? そうだっけ。まぁいいや」
「まぁいいやってお前……」
「それも含めて全部教えてあげるよ」
「……だからさ、僕を倒してみせてよ」
……はぁ。
マジで? これマジでやるの?
何ていうか、さ。
俺、現在とっても怒ってるんですよね。
いやー……一応ガキなので遠慮したり年上の余裕みせたりぶっちゃけ疲れ切って怒る気力も無かったりしたのですが。
「そういう事なら、本気でやるぞ?」
「いいよ、来てみなよ。僕を、倒して見せてよ」
「……そうか、なら『有り得るはずの無い光』を返してもらった所悪いが、遠慮はしない」
「ああ、かかって来てよ」
『有り得るはずの無い光』発動。
あぁ……ほんの数十時間しか経ってないのに酷く懐かしい光だ……。
こいつがあれば……俺はあいつらに速攻で勝てたんだっ。
さぁて、それじゃ復讐と参りますか。
ま、でも。とりあえずは情報収集か。ここが何処だか調べなきゃな。
『有り得るはずの無い光』を体内に浸透させ、六感を再度適合強化する。
周辺座標を収集し、第一次元から第六次元までの位置情報を取得。
座標軸より推定。ここは、―――異世界。あまりにも狭い、世界と呼ぶことすら躊躇われる場所。
この世界は、岩山の上に広がっているのではなく、岩山そのものが世界の全貌。
さらに、魔物の死体や岩山から情報を取得し、この世界の構成元素を確認。
――異常。生態系の成立は不可。
よって、この世界は、人工的に作られた異空間。
さらに、世界の中心点は俺より4メートル先の座標――つまり、フリュー・ヘァプスト。
つまり、目の前のこいつ、フリューが創った世界と推測。
さらにフリューは、人体座標が異常。普通の人間では、無い。
恐らくは時間概念及び空間概念程度は超えている存在と思われる。
よって、フリューは異空間を製作できるレベルの、正に人外と呼ぶべき存在。
「しっかし予想以上にヤバいなお前。俺と同レベル、いやそれ以上のモンだぞ」
不死、ついでに不老。さらには空間転移や時間移動は普通にできるっぽい。
正に、人では無い物。人外。
ならば、ノープロブレム。オールオッケー。
手加減など必要ない。殺しても死なない類のモノ。
さて、ここで問題です。
Q1.『有り得るはずの無い光』は何に特化してるでしょうか?
A2.超攻撃特化
Q2.主人公こと、俺がもっとも好きなものはなんでしょう?
A2.美少女。及び全ての女性。
Q3.イケメンショタは?
A3.爆死しろ。
「『有り得るはずの無い光』完全解除」
青琥珀の色を周囲にまき散らせながら、『有り得るはずの無い光』を解除する。
リミッターを、限界を。
相手を殺さないという手加減を。
人として、『人を殺してはならない』という観念を捨てる。
「俺はハルとアキとエテとベラノとイヴェールとその他俺の未来の嫁の元へ帰らせてもらう」
こっから先は、異常なる世界。
人外との争い。『死』を越えた者達の、狂った闘い。
「だから、俺はそのために――――人を、辞めよう」