第五十四話――ドラゴン再び
おかしい。
何かが、おかしい。
「らぁあああああああああああああああ!!」
「まだまだ、だね?」
「はぁあああああああああああああああ!!」
「ほら、もう少しだ」
俺は、ついさっきまでビレイ村の真ん中の広場で、『煌星の影』のリーダー、少年フリューと闘っていた筈だ。
いや、戦い始めた、か?
どちらにせよ、そういう状況だったはずだ。
だが、
「一体、どうなってるんだよ……」
俺の目に見えるのは、一等一頭が数十メートルを超す巨大なドラゴンの群れと、その奥で欠伸をしているフリューだった。
ドラゴンの内、一番近くに居たドラゴン1(黒色)の頭を踏み潰しつつ、左右前に居るドラゴン2(黄色)3(青色)4(黒色)を右手と左手さらに頭突きでで倒し、そのまま空気を蹴ってフリューの元へと突撃する。
が、上空からのドラゴン5(赤色)の火炎とドラゴン6(黒色)の鉤爪に妨害される。
とりあえず火炎の軌道を捻じ曲げてドラゴン6(黒色)に当てつつ、右手を代償にドラゴン5(赤色)の口に拳を叩きこむ。
今度はドラゴン6(銀色)が真正面から大口を開けて突っ込んでくる。
それを右に回避し、回し蹴りで後ろに居たドラゴン1(黒色)にぶつける。
再度フリューまでダッシュするが、また邪魔が入る。
右から来たドラゴン7(青色)の突進をジャンプで避け、そのまま右足の踵を突っ込む。
ドラゴン8(灰色)に体ごと突っ込み、そのままドラゴン9(黄色)ドラゴン10(銀色)ごと吹っ飛ばす。
ドラゴン11(赤色)の尻尾を掴み、周囲のドラゴンを巻き込みつつ投擲する。
ふぅ。これでドラゴンはあらかた片付いたか。
これでようやくフリューと話が出来る。
「おい、フリュー! いい加減事情を話してもらおうか」
「まだまだ駄目」
何故か、俺は化け物と闘っていた。
最初は――そう、謎の蒼い光に包まれて、そのままここに飛ばされたんだ。
フリューの<写す>で何処か遠い場所へ拉致られたらしい、のだが、ここが何処かは不明。
俺が居るのは草一つ生えていない岩山。四方にも高い山があって、囲まれてるようにすら錯覚する。そんな場所。
さらに、何故か数千匹という数の殺気が、そこら中に満ちている。
気を抜けば、すぐさま大量の化け物に攻撃され、肉塊と化す。
一応不死は消えてないらしく、傷は受けた傍から回復するので問題は無いといえば無いが。
とりあえず、殺気の中でも最も好戦的らしいドラゴンの何匹かが、真っ先に襲ってきて、冒頭のあの状況である。
正直、訳が分からない。
どう考えてもこの化け物の数は異常だとかフリューは一体何をしたのかとか生態系が成立しないだろとか超展開過ぎないかとか言いたいことは色々ある。
いや、というか聞きたいことはそんなもんじゃない。
「一体ここは何処だ!? なんでお前はここに居て傷一つ無い!?」
「ここが何処かは秘密。僕が襲われない理由はさっき言ったでしょ?」
「ここに居る奴等以上に化け物だから、って奴か!? んな理由で襲われなくなってたまるか!」
「それ以上に言いようが無いよ。いい加減理解しなよ、僕が化け物だからなんだって」
「――君よりも数段上の」
ゾクリ。
今、一瞬フリューの気配が膨れ上がった。
言うなれば、『時詠みの巫女』決戦前の時に感じたような、濃厚な殺意。
俺の殺意と比べて、数倍はある。
それが、一瞬だけばら撒かれた。
「まぁ、君も僕と同じところまで来れると思うけどね。きっと」
「んな殺意、俺じゃ出せねぇよ」
「そう? 気配のオンオフ、慣れれば意外と簡単だよ?」
んな訳あるか!
というか、本格的にコイツ化け物だな。
ぶっちゃけ、フリューの『スキル』も込みで計算したら、まず勝てない。
相手は『スキル』無しで、『有り得るはずの無い光』ありで、初めて互角、そのレベル。
「そうだ、<曲げる>は――って使えないんだっけか」
「そうそう。状況に慣れて来たね」
「慣れて来たね、じゃねぇ! 大体、『スキル』同士は同格なんだろ!? なんで俺の<曲げる>が一方的に封印されてるんだよ!」
そう、30分前ぐらいから俺の<曲げる>、もしくは『有り得るはずの無い光』は封印されている。
どうやらフリューが何かやらかしたらしいが、正直原因が不明すぎる。
さっさと近づいて元に戻させたいところだが――
「危ねぇだろうがっ!!」
右から来たグリフォンの蹄を避け、そのまま腹に裏拳を決める。
「ったく、きりが無い」
ドラゴンの群れはさっきので一段落ついたが、まだまだモンスターとでも呼ぶべき化け物達が大量に居る。
ペガサスにクラーケンにコカトリスにフェンリルにユニコーンまで居る。
他にも、ワシ+クマみたいな奴や、ゴキブリ+トカゲやミミズ+ハチみたいな物、それから手?が二十本ほどあって、その先全てに象の鼻に似た口があるクラゲモドキ等々。
何ていうか、正にカオスと言うべき化け物の体群。
「ってか、こんな奴らこの世界に居たのか……?」
確かに、こっちの世界には妙な生物はたくさん居る。
っだが、基本的にはそこまで異常じゃなかったはず。少なくとも、人間の脅威となりうる奴等は特にいなかった。
居てもせいぜい熊モドキレベルで、人間が根本的な所で叶わない相手ではなかった。
そもそも、だからこの世界には大砲も銃の様な発達した武器が無いとハルやアキから聞いているし、こいつら相手にいくら『スキル』があっても弓や剣で挑むのは無謀だろう。
となると、ここは異世界か……?
「おい、フリュー! ここってもしかして異世――って居ねぇ!!」
さっきまで寝てた辺りにはスフィンクスが居座っていて、フリューはどこかへ消えていた。
「おい! どこだ! 何処に居る!」
「んー? あ、ここだよ『生ける屍』」
「だから何処だって……」
声の聞こえてきた方は――上方面に約10キロほど。
そして、そこにあるのは、巨大な岩壁。
後、数十匹の翼持ちの化け物達。
「とりあえず、話はここまで来てからねー」
「……マジで?」
「マジマジ。大マジ」
おい、それ洒落にならんぞ。
この化け物ども蹴散らして、岩山に登れと。
つまり、そういう事か。
「よーし、こうなったらやってやる」
化け物だか<写す>だか知らんが、片っ端から潰してやる。
俺は、エテとベラノを助ける。そう、決めたんだからな。
さっさと蹴散らして、踏ん反り返ってる所を襲ってやらぁ。