第五十二話――不意討ち
「あーぁ……駄目だこりゃ、タカアキ完璧暴走中だね」
「おい、静観してていいのか? 暴走してるんだよな?」
「そんなこと言ったって、ああなったタカアキもう止まらないじゃん」
「……まぁ、そうか」
こら、後ろ組。
きちんと聞こえてるぞ、その愚痴。
確かに俺は暴走中だが、理性が無くなるまでやっては無い。
理性が吹っ飛んだらとりあえず大陸全土ひっくり返すぐらいはしている。
「まぁ、これが相応の報いだな」
それに、微妙な力加減で内部には意図的に一つの抜け道を作ってある。
幾つかの通路を潰して開通させた、全ての通路から繋がっている一本道。
さらに、それは地上へと繋がっている唯一の道。
その道を使い、中から『煌星の影』のメンバーが逃げ出すように這って出てくる。
そして、そこを、一つ一つ狙撃していく。両足を潰し、動けないように。
助かったという希望を作り、そして絶望させていく。
あ、ちなみに、これでもマシな方だよ?
何せ隣の元『時詠みの巫女』様なんか特定空間の時間を1分ほど止めて、脳から血液が限りなく無くなったところで時止めを解除するというエグイ事をしてるのだから。
あれやられたら相当辛いだろうな……何せ貧血の数倍だからな。
後遺症も全身に残るだろうし、あれは酷い。
「『煌星の影』は壊滅。二度と危害を加えるような真似はさせない」
「ま、それが妥当なんじゃない?」
さて、あらかた潰したし、後は帰るか。
「ビィィィィィイイイイイイイイ!!」
!?
「な、何!?」
「何の音?」
俺のポケットからブザー音を数倍大きくした音が聞こえている。
この音は……俺が、一週間ほど前に製作したモノに録音した警告音。
つまりは、俺がエテとベラノに持たせた、非常用の<お守り>が発動したことを示す、音。
「エテとベラノの身に何かあったんだ! いくぞ!!」
「え? ちょ、タカアキ!!?」
「アンタ、自分だけで納得してないで説明しなさいよー!」
『煌星の影』は目の前で壊滅した。それは事実だ。事実のはずだ。
「クソっ、どうなってやがるっ……?」
「……っと、着いた」
捻じ曲げられた空間から、二人を担いだまま出てくる。
「うー……一体何が起きたのさ!」
「…………見ればわかるようだぞ、ハル」
「何を――――え?」
ビレイ村。
俺が辿り着いた時は壊滅していた、村。
その後、村民達は無事解放され、今は様々な修復が終わり日常が再び始まろうとしていた村。
その村は、奇しくも俺が来た時と同じ、いやそれ以上の惨状になっていた。
家々には火が付き、畑は踏み荒らされ、そこらで悲鳴が上がり、剣と剣がぶつかる音が響く。
「俺の第六感は、『煌星の影』に襲われた、と言っている」
つまり、単純な話だ。
『煌星の影』本部に居たのは留守番組。
リーダーを含む、主戦力は目標であるエテとベラノが居るビレイ村へととっくに向かっていたという事。
「なんでこんな簡単な事に気が付かなかった……」
単純な、単純すぎる簡単なミス。
気が付かなかった理由は、言うまでも無く俺が『調子に乗っていたから』。
力に傲り、弱者を甘く見た。
『煌星の影』が、僅か二日でアジトからビレイ村まで移動できないと予測した。
だが、それはあくまで『難しい』だけであって『出来ない』ことではない。
たとえ、それが遠くても。特殊な『スキル』を持っていなくても。
人間とは、憎しみを糧にどんなことでもできるのだという事――
「……村人を救出する」
「え?」
「今すぐ、『煌星の影』を全滅させるっ!」
「あ、ちょっと、タカアキ!」
今までの方法では間に合わない。
どんな方法をもってしても、俺の第六感は『このままでは村人は救えない』と言っている。
けれど、同時に『全力ならば、可能』だと、言っている。
体のリミッターを解除する。
全力の、全開で。
たとえ相手がどんな人間であろうと。
その人間を倒すと願うなら、自らの全てをかけて倒す。
山を崩してその隙に狙撃?
何を甘えたことを言っている。相手は死ぬ気で殺しに来ている。
ならば、こちらも、自分の持つすべての方法で、最大限で、効率的に、手加減などせずに、倒す。
それが、その人間と――――闘うという覚悟。
憎しみに対して、憎しみで当たれ。
人一人、その覚悟を背負え。
そうやって、俺は大切な人間を護ってきた。
ならば、これからも、何人居ようと、護って見せる。