第五十一話――ヤマツカミ
「…………はっ!!?」
!??
……あ、あるぇ?
俺、何してたんだっけ?
えーっと……あれ? 俺、ついさっきまで何やっていたのか思い出せない。
確か……朝、誰かに布団から叩き起こされたような気がする。
それで、そのままつれられるまま椅子か何かに座ったような気もする。
そして、その後――
「ぐぅっ!!?」
……駄目だ。その後の事を思い出そうとすると頭と胃と腸が猛烈に痛みを訴える。
全身が麻痺するような、痛覚神経が焼き切れるような、脊髄反射で肉体が恐怖するような、そんな感じ。
言うなれば……Nice boat。意味不明だがとりあえずNice boat。
まぁ、いいや。第六感が気にしたら死ぬと言っている。気にしないでおこう。
さて、とりあえず自由が効かない体をリザレクションしつつ強制的に動かして、何とかハルとアキの待つ広間へ辿り着いた。
「で、もう夕方なんだが」
血が滲み、意識が飛ぶ労働を越えたら、夕方だった。
気が付いたら、ってなんだよって思うが、そうとしか言いようが無い。
こう、そんな感じでボーっとしていたような気がする。
イメージとしては、頭をぶっ壊されてしばらく動けなかったときの様な感じだ。
「タカアキがこんな時間まで寝てるのが悪いのさ!」
いや、たぶん俺は悪くない気がする。
記憶は酷くあやふやだが、過去の俺は凄まじい英断をした覚えがある。
ああ、確かに俺は勇者だった。故に後悔などする筈も無いっ!
「まぁ、細かい事は気にしたら負けだ。それよりも、だいぶ遅れたがさっさと『煌星の影』を潰しに行こう」
「ボクの方は準備できてるよ。何時でも」
「アタシも大丈夫だ」
二人とも、適度に緊張しつつ、それでも余裕がある。
ベストコンディションだ。俺の方は少々調子が悪いが、それでも『煌星の影』とやらに負けるほど弱くは無い。
万全に限りになく近い。これならば、確実に『煌星の影』は潰せるだろう。
「そうか、ならさっさと終わらせよう」
今回、今までの「悪党の巣」殲滅戦と違う点は詳細を除いて無い。
戦力的に、今までより強いものの、『時詠みの巫女』教団よりは圧倒的に劣る。
ならば、負けるはずも無い。
「エテ、ベラノのために、『煌星の影』殲滅戦だ!」
「うんっ!」
「ああ!」
「さぁて、派手におっ始めようか」
『煌星の影』総本部、ミレイヴの洞窟。
中程度の大きさの山の中に、張り巡らされた蟻の巣のようなアジト。
中に立てこもれば、数倍の数の軍隊で攻めても占領するのは骨が折れるだろう。
だが、それはこの世界がまともだったなら、の話。
この世界はファンタジー。
たった一人で、数万人相手に戦える人間が、存在するのである。
「『有り得るはずの無い光』」
この身に宿した力で、空間を、いや理を曲げる。
有り得るはずの無い事象を、引き起こす。
蒼琥珀の光によって、山そのものが周囲の地面ごと持ち上げられて、180度回転する。
中にある、蟻の巣の様にちっぽけなアジトと共に。
「…………こんなん、あり?」
「アタシ、なんでコイツとまともに戦えたのか分かんなくなってきた……」
「これぐらいじゃ終わらねぇよ」
さぁ、まだまだ俺の怒りは収まってない。
俺は身内を傷つけられるのが、死ぬより嫌なんだ。
俺のハーレムに手を出した事、後悔してもらうぞ。