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第四十九話――G


「イヴェール! 大丈夫か!!」


城の門を蹴り飛ばして開けて、そのまま中へと雪崩れ込む。


声の方向からしてイヴェールの居場所は恐らく、三階の門から見て左側中央付近の部屋。


場所としては恐らく――調理場入って右から二番目の机から40cmの地点!


「ほら、タカアキさっさと扉を開けてイヴェールの所へ……」


「一々階段なんぞ登ってられるかっ!」


この屋敷の中で、「移動関連の『スキル』は使用できない」というルールがある。


が、それでも抜け穴はある。無茶苦茶なショートカットが。


例えば、「極限まで強化された体で三階の窓まで飛び上がる」とか。


「よっ」


まぁ、俺としては普通の普通。むしろ三階のあたりで勢いを殺す方が難しい。


今の体での全力跳躍なら、下手したらそのまま屋敷の遥か上、上空の雲にリアルに手が届くかもしれん。恐ろしい事だが。


「あ、けど窓閉じてるのか」


で、三階の窓の縁に掴まったは良いものの、窓は雨などが降った時に閉める木の蓋で閉じられている。


「まぁでも、緊急時だし……すまん、ハル」


とりあえず右ストレートで破壊。


……後で弁償させていただきます。


「後は、調理場まで全力疾走か」


とりあえずリミッターを少し外して地面を蹴る。


あんまりやりすぎると、床を踏み抜いてしまうので手加減。



「さて、無事だよな……? イヴェール」


そんな訳で調理場の扉の前。


一応、悲鳴を聞いてから数分で駆け付けたし、五感は怪しい人間の気配を感じていないが……。


「イヴェール! 大丈夫か!?」


「タカアキさんっっ!!」


おう。イヴェールが抱き付いてくる日が来るとは。


非常事態とはいえ、これはかなりの役得だな。


ただ、それより気になるのは――


「…………誰も居ない?」


三次元的視覚はもちろんの事、赤外線さえ傍受する視覚で見ても、何も居ない。


とりあえず念のためここら一帯の空間を掌握。これで「普通じゃない方法」で人間が現れたのなら分かる筈だが……これも不発。


さらに時元を補足、固定。過去二十四時間まで遡って人間の出入りを確認する。これでどうだっ…………ハズレ。


「一体何が潜んでるってんだよ?」


まっとうな、いやまっとうでない人間でもこれだけ探せば見つかるはずだよな……?


「おい、イヴェール。一体何があったんだ?」


「そ、そこ……」


「あそこ、か?」


イヴェールの振るえる人差し指の先は、台所の机の下。


傍目というか、俺の五感センサーには、何もいないと出てるが……?


「さて、何が出るってんだ……?」


顔を床に近づけて、覗き込む。


「さぁ、何が…………え?」


シンクの、下に、居た、ソレは――――



「ゴキブリ?」


黒く脂ぎったカサカサとした凶悪な虫だった。


「え、えぇー……」


え、何それ。そんなオチ?


ええと……とりあえず捕獲、するか。


ゴキさんを<曲げる>で造った見えない手袋で確保。たとえ間接的でもあまり触りたくない物だが、生憎雑巾みたいなものは持ってないので仕方ない。


「おい、イヴェール、コイツで――」


「嫌ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「!!?」


うおっ!? びくった。


しっかしこの悲鳴は……


「え? 何? もしかして…………イヴェール、ゴキブリ駄目?」


「嫌ぁああああああああああああああああああああああああ!! 近づけないでぇええええええええええええええ」


「お、おぅ……」


ゴキブリもったまま近づいただけで凄い音量の悲鳴が上がりました。


いや、そりゃぁ俺もゴキブリは嫌いだが……正直、イヴェールの反応が半端なさ過ぎて感情が置いてけぼりです。


「えっと……とりあえず、逃がすか」


持ったままだとこれ以上状況が進みそうにないので、とりあえずこの場からゴキさんを排除します。


空いていた窓からゴキブリを全力投球。腕の半回転で約時速二百キロを超える加速でそのままゴキブリさんを月の裏まで投擲。


これで、何がどうなってもあのゴキブリがここに帰ってくることは無いだろう。



「………………」


しかし、どうしたものか。


どう話をすればいいんだ? コレ。


イヴェールさん顔を伏せたまま静かになっちゃったんですが。服の端を掴んだまま離さないんですが。


「で、イヴェール、その……だな……ゴキブリが………」


「…………う、あ、嫌ぁ……」


な、何ぃっ!


幼児、退行……だとっっっ!!!


かわええ! 可愛いすぎる何この生物可愛いすぎるよ!!??


「……あ………あぅ……」


なんかもう抱きしめていいかな良いよねよし抱きしめる。


「うぅ…………ぐすっ」


駄目だこれ可愛いすぎる。何か人を駄目してしまう魔性すら感じる可愛さだ。


「よーしよし、大丈夫だからなー」


「うぁ………うぅ……」



ああ……幸せ……。



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