第四話――ハルside――屍漁り
ボクの名前は、ハル・アルケミシア。
代々宮廷御用達の錬金術師である、アルケミシア家の長女だ。
アルケミシア家は400年前に、ホムンクルスの製作に成功し、一介の平民から一気に伯爵になった。
当時は、それこそ世紀の大発見として、妬まれながらも、確かに歓喜と幸福を以って迎えられた。
しかし、ホムンクルスを作れたといっても、それはあり得ないほどの金のかかる行為だった。
材料自体は人間の構成要素さえ揃っていれば何ら問題は無い。
けれど、問題は製作過程になる。
設備の維持に信じられない額がかかるのだ。
高名な聖水。希少価値の高い鉱石。世界に何頭もいない動物の部位。
それらの信じられない額を稼ぐには、ホムンクルスを作り続け無ければならなかった。
そうやって、作られ、売られたホムンクルス達。人間そっくりの彼ら。
子供代わりにしたり、恋人の代わりにしたり、下手人として使ったり。
しかし、寿命なんて有って無いような彼らは、せいぜい5年も生きられればいい方である。
故に、本物の人とは扱われず、結局愛されても死んでいくホムンクルスは、次第に飽きられた。
そして、最後に何人かの物好きが愛玩する他に使い道が無くなった。
一時は道端に屍のホムンクルスが所狭しと並んでいた時期すらあったらしい。
天才であった一代目は研究完成後、伯爵位をもらった次の日に過労死。
二代目も同じく、ホムンクルスの維持と経営に耐え切れず、過労死。
そして、最悪の天才、三代目が後を継いだ。
三代目は、大量のホムンクルスを消費し、利益を生む最悪のアイデアを思いついてしまった。
そう、戦争である。
何十人死んでも、何百人死んでも、人でない彼らは、何体でも作りだされる。
どこまでも捨て駒として使える彼らは最低限の武器の扱いと共に、最前線と送られた。
死ぬ恐怖すら知らない彼らは、瞬く間に大陸を制圧。
そして、我が国エレクシルは全てを支配した。
大陸の中で、小ささで一位二位を争うはずだった小国が。
最も兵力の少なかったエレクシルが、兵力差で、隣国たちに勝利した。
そして、月日は流れ。
アルケミシア家は公爵となり、事実上の皇帝の親戚となる。
長い間、お互いに政略結婚を重ね、摂政政を敷き、全てを手に入れていた。
そんな、正に覇権を手にしているアルケミシア家。
しかし、無事弟達が生まれたアルケミシア家では長女のボクは無用の長物でしかない。
政治には興味は無いし、どんなに願ってもどこかに政略結婚されるのが関の山だ。
けれど、好きでもない男などと結婚する気など、無い。
だから、ボクは研究者になる道を選んだ。
一代目を、三代目を、超えるため。
錬金術師の名を持つ者として、真理を探究すべく。
けれど、それは儚い夢だった。
ボクは、いや、ボク達は、400年の間に余りにも錬金術から離れすぎた。
今のボクでは、人造の腕1本動かすすらできない。
それでも尚、動かないカラダを、作って。作って。作り続けた。
そして、死体に手を出した。
元ある人体。かつて動いていたカラダ。
きっと、きっと、きっと。これさえあれば動くはずだと、そう願って。
気が付いた時には、屍漁りと、呼ばれていた。
地を這いずり、醜く死体を漁る、血みどろの姫と。
それでも、ボクは作り続けた。
いつか、いつか、いつか。目の前のカレが起き上ってボクに話しかけてくれる日を、望んで。
目の前のカレがボクを慰めてくれる日を。
ずっと、ずっと。待っていた。