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第四十三話――暗雲

さて、現在、俺達が住んでいるこのお城。


ここには、俺、ハル、イヴェール、アキが現在住んでいる。ちなみに、エテとベラノはしばらく滞在しているだけだ。

『時詠みの巫女』教団が解体され次第にビレイ村に戻るつもりだったので、明日にでも帰るつもりらしい。


イヴェールは村から追いだされて、居場所がなくなったので現在住み着いている。ちなみに、家事をやってもらっている。

ホントは屋敷内の全自動装置が仕事の大部分をしてくれるのだが。どうしてもやると言ってきかないので、とりあえず料理洗濯等を頼んだ。


アキは俺が『時詠みの巫女』本拠地から攫って、『時詠みの巫女』信奉者から遠ざけるためにこの城に軟禁状態にある。といっても別に不自由なことは無いのだが。


で、この城の本来の主、ハル。


この城は、アルケミシア家の遺産であり、ハルの持ち主である。


そんなわけで、この城の構造について、一番詳しいのはハルなのである。


つまりは、ハルはこの城にある、数十個の隠し部屋の位置を全て的確に覚えている、という事。


「ハルー!? 何処だー?」


そして、怒ったハルは大概この城の隠し部屋のどこかに引きこもっているのである。



「ホント、何処だよ……」


とりあえず、俺の知りうる隠し部屋・隠し通路全128個を隅々まで探したが、居ない。


ちなみに、この屋敷には『一代目』謹製の<宿す>がかかっている。


そして、その中で最も厄介なのが、『この屋敷の中で『スキル』を使用して移動できない』という概念。


おかげで、本来なら<曲げる>で無理矢理空間でも捻じ曲げて、強制的に呼び出せる筈が、徒歩で歩き回らなきゃならない。


何で移動だけ封じて『スキル』の使用自体は許可したのは不明だが。地下室の実験とかで『スキル』を使ってたのかね?


「こう長いと、精神的に来るものがあるよな……」


同じような廊下を延々三時間ほど迷子中。


正直、疲れた。


ホントなら、さっき


「アキみたいに素直ならなぁ……」


アキは良くも悪くも精神が強靭で、達観してるから、まぁ余程のことが無い限りこういう怒り方はしない。


それよりも、さっきの馬車みたいに、交換条件を出すタイプ。


ハルは逆に、怒ると我儘になって無条件に慰めて欲しがるタイプ。


まぁどっちがどっちと言う訳でもないのだが。



「さて、後は……」


地下四階から五階まで一通り回った。


残ってる部屋はそうそう無いんだが。


「あ、イヴェール!」


と、廊下で洗濯物を運んでいるイヴェールを発見。


「あ、タカアキさん。どうしました?」


未だに敬語が抜けないのだが。何度言っても命の恩人だのなんだので変えてくれない。


最初の頃の素の口調はもう聞けないんでしょーか。


「いや、ハルを探しててな」


「ハルさんですか……私は見ていませんね」


「そっか。ありがと。となると本格的に雲隠れされたか……」


「あ、でもどこかで声が聞こえたような……」


声?


「それってどこで?」


「ええっと…………確か、庭の方で洗濯物を畳んでいた時、だったかと」


庭か。確かに行ってないが……。


「分かった。とりあえず行ってみる」


「はい。お役にたてずすいません……」


「いやいや。見つけられる方が凄いから」


壁とほぼ同化している扉とか。天井にある穴から入る部屋とか。


どうやって見分けんだよって話だ。


「それじゃ、探してくる」


「はい。頑張ってください」


とりあえずイヴェールの笑顔で燃料を補給。


ただ、本気で頑張らないと死ねそうなのが怖いんですが。




「しっかし……居ないよな」


とりあえず外庭(中庭ではなく外側の庭。門からみて右手の奥にある、洗濯等用のスペース)


「どうしたも――」

「…………バ……」


ん?


何か、今聞こえた?


「どこだ?」


「……アキ………」


今、確かに「アキ」って聞こえた。


方向は――上?


「上ってどこだよ……」


無論、上には青い空しか広がって――


「あ、屋上か!」


屋根の上に少しだけある、スペース。


確かに、あそこなら居るかもしれない。


「行ってみるか」





「ハル!」


居た。


隠し階段の上にある、屋根の上のスペース。


そこに、ハルは居た。


「探したぞ……ったくなんでこんな所に居るんだよ」


「タカアキ……」


手すりなどない、ただ屋根がそこだけ平らなだけの場所。


無論、足が一歩でも滑ったら地面までまっさかさま。


一応椅子があるので、『一代目』が取り付けた特別席か何かなんだろうが……。


「……何の用さ」


「いや、別に……用事があるってわけじゃないんだけどよ」


うーむ。これは予想以上に機嫌が悪い。プレッシャーを垂れ流さず中に押し込めている感じが特に。


「……ぷ、くく」


「ん? どうした?」


そんな笑いを堪えるのに失敗して悪者の笑顔になっちまったぜ、な顔になんでなってるんだ?


「いや、前も、こんな会話したなぁって、思ってさ」


「そうだな。確か、イヴェールがここに来た頃か」


屋上で俺が寝てたら、ハルが登ってきたんだよな。


「あの時からタカアキは変わらないなぁって思ってさ」


「はは。そりゃそうだ。俺が変わるはず無い」


俺がブレるなんて、ある訳無い。


仮に表が少し変わって見えても、本質の所は曲がらない。


ずっと、真っ直ぐに一つの線を貫いていく。


そうやって生きてきたつもりだ。それは異世界に来る前から。


「まぁ、今は四人も浮気してるけどね?」


「ぐふっ……」


心にダメージが……。アキに抉られた傷がさらに……。


「エテと、ベラノ、それにイヴェールはここに居るだけだろ!?」


「どうせ、その三人にも手を出す気はあるんでしょ?」


「うぐ……」


ま、まぁそりゃ据え膳食わぬは男の恥ですから。


その時になったら全力でいただきますが。


「……約束、守ってよね?」


「ああ。もちろん」



約束。


どんなに、ハーレムメンバーを増やしても。


どんなに、俺が好きな人間が増えても。


必ずずっと、ハルの事を、好きでいる事。


ハルが、帰ってきた晩に、俺と指切りした、約束。



「当り前だ。俺がハルの事嫌いになるわけないだろう?」


「うんっ!」


ま、その程度の約束。守らなければハーレムなど作れないからな。


「……さて、ボクは戻ろっかな」


「おぅ。もうそろそろ、降ってくるみたいだしな」


「そうだねー。何もないと、いいけど」



空は、どこまでも蒼く続いている。


けれど、その空の淵には、黒い暗雲が渦巻いていた。


大きな、嵐を孕んで。


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