第三十四話――奪還
「……ですからして、本日は………」
「ですが、今日は………ですし、……」
ん……んぁ。
朝、か?
うわ、変な格好で寝たから背中がバリバリ鳴ってやがる……。
「では、叛徒ハル・アルケミシアについて――」
!!
今、聞こえたぞ。
確かに、ハルって。
「ハル・アルケミシアは現在護送中です。本日の昼頃着く予定かと思われます」
「分かりました」
「では、女神のご加護を祈って」
「女神のご加護を祈って」
ハルが着くのは、昼頃か。
今は太陽の位置からして、恐らく朝の八時頃。
こっちの昼ってのは二時ぐらいだから、となると後、六時間前後。
「長いな……」
この三日間、濃すぎる異世界旅だったが、立ち止まるようなことは無かった。
まぁ一日の中で何度もイベントがあるのはどうかとは思うが。
体は万全だし、出来れば今すぐ始めて欲しいぐらいの所だ。
「叛徒ハル・アルケミシアを連れてまいりました」
「はい、通してください」
ギィ……と扉の開く音がして、何人かが入ってきた。
足音は四つ……ハルのと、鎧装備二人、それから普通の男か。
「何のマネ?」
ハル!
今の声はハルだ、えらく久しぶりに思えるが確かにハルの声だ。
「大主教、出来れば外してくださいますか」
「……分かりました。ですが、この者達は扉の外に立たさせてもらいます」
足音が三人出ていく……これで室内に居るのは、『時詠みの巫女』とハルだけか。
「ねぇ、何のマネ?」
こりゃ随分とご立腹だな。
ハルの声がここまで怒ってるのも珍しい気もする。
「久しぶり、ね? ハル」
ところが、『時詠みの巫女』は敢えてスルー。見た目より気丈なのかね。
「はぁ、もう一度だけ聞くよ。何のマネ?」
「貴方には……分からないでしょう」
ん?
「? ……どういう事さ」
「貴方はこの後、死ぬのですよ?」
「……それで?」
それで、は無いだろ。
いやさ、どうせハルの事だから「特にやりたい事も無いしね」みたいな理由で別に死んでも構わないとか思えちゃうんだろうけどさ。
「別に特にやりたい事も無いし、さ」
本当に言いやがったよ……。
「貴方は、辛くないのですか」
ああ、その問いかけも無駄だろう。だってハルだし。
「ボクは辛くない、大事なものを見つけられたから」
けれど、その問いに律儀にハルは答えてる。
凛とした声で。
「それにね、ボクが全てをつぎ込んだんだ。タカアキは死なないんだよ? ……だからきっと」
そんな声が懐かしくて。
板の隙間から見える顔が恋しくて。
「きっと、最後には迎えに来てくれる」
無表情の下に、涙を隠した顔を見ているのが辛くて。
もう我慢ならなくて、天井を踏み破っていた。
「なっ……」
『時詠みの巫女』が茫然とした声を出したのを耳の端にとらえつつ、ちょっとへこんだ床から立ち上がる。
木屑が部屋に充満する中、確かにハルはこっちを向いた。
「遅いよ、タカアキ」
土埃で顔は見えないけれど、らしくも無い、湿った声で。
「ああ、待たせたな」