第三十二話――聖都侵入成功
「これが……聖都……」
はい、というわけで着きました。聖都。
どうやら俺の体は俺の想像の遥か上を行く強化後らしく、女の子二人、約70kgほど抱えて40km走っても疲れなくなってしまったようです。
ああ、さよなら普通の体……。
まぁとにかく、碌な苦労も無いまま通常二日かかる道のりを僅か半日で走破し、聖都につきました。
「これが……聖都……」
大事な事なので二回言いました。
ま、見た目には超巨大な石壁しか見えないのですがね。
というか、なんで街が7mはある壁で覆われてるんだよ。警備強すぎないか。
ちょっとジャンプして中をのぞいてみようとか出来…………るな。出来るんだろうね、この体なら。
「まぁそんな事やらかしたら一発でアウトだが」
「? 何か言いましたか?」
いえ、何も考えておりません。ただちょっともうそろそろ人間の感性まで捨てそうで怖いだけです。
「相変わらずおかしな人ですね……」
ホント、色々とね。
「とにかく、ここまで送ってくださってありがとうございました」
「にーちゃんアリガトな!」
ああ、ベラノの天然に擦り付けられる胸を感じられるのもここで終わりか。
「おう! またどっかでな!」
「ええ……。ここで、さよならです」
「にーちゃん、楽しかったぞ。さよならー!」
さて、と。
「それじゃ、取り返しに行きますか」
街に入るのはノーチェック。
まぁ、死んだことになっているんであろう、こちらの顔が回っているとは考えづらいし、わざわざ一人一人調べるような真似をしたら信者に咎められるだろう。
ここの一応の方針は、神に逆らう者は容赦ないが、信者には攻撃しない。だ、そうだからな。
「さて、まずは第一関門突破か」
街の中は唯一のメインストリート以外は、建物が乱雑に並んでいる。
恐らく、教徒が勝手に住み着いて大きくなったから、計画都市ではないのだろう。
日に当たらない部分も多いから、夜になったら影に紛れるのもアリか。
「後は『時詠みの巫女』と騎士団の居場所か……」
適当な人に聞いてみるか。
「すいませーん」
建物の外の地面に露店を出している暇そうなおっさんに声をかける。
綺麗な石なんかの加工品らしき物が並んでるから、恐らく土産物屋だろう。
「はいはい、どれを買いますかね?」
「あ、いや、買い物じゃなく――」
おい、今露骨に嫌な顔になったぞ、このおっさん。
「……じゃあこれを」
仕方ないので石を紐で繋いだ手首につけるアクセサリーを選ぶ。
お値段は一番高いのを。うん、お金持ち最高。
「お、まいどあり!」
「あ、それと、聞きたいことが」
「何でも聞いてくれ!」
分かり易いおっさんだな。まぁやり易くていいが。
「『時詠みの巫女』とその所属騎士団がどの辺に何時も居るんだ?」
「おいおい、兄ちゃん、『時詠みの巫女』様。だろう?」
言った事の意味を考えて、一瞬身構えたが、おっさんの顔がニヤリと崩れたのを見て力が抜けた。
このおっさん、侮れないな。選択ミスったか?
「巫女様は一応その城のどこかに居る。ただ……最近はもっぱら一人になることが多いらしく、神栄田茂場所を把握していない」
塔……白いあれか。
「騎士団様はそっちの方にある灰色の建物。ただし……」
まーたニヤリってなりやがった。なんか生意気なガキ見てる気分がするな。
「|連れ去られたお姫様を助けたいなら《・・・・・・・・・・・・・・・・》、白い塔へ行くといいかもな?」
!!
今度こそ体が条件反射でマントから黒鍵Ⅱを抜き、おっさんの胸へ向ける。
「おいおい、物騒なものは止してくれ」
「…………」
「兄ちゃんはどうやら知らないで来たようだが、俺はこの辺の情報屋やってんだ」
「情報……屋?」
「ああ、俺は教徒じゃない。哀れな人を助けようとする愚か者から金を巻き取ってるだけさ」
なるほど。そういう商売か。
「まったく、気味が悪い商売だな」
「ああ。だが剣を向けたのは兄ちゃんが初めてだよ」
ついさっきまで、確かに剣を向けられていたのだが、おっさんは笑ったままである。
懐ナイフとか、持ってそうだな。このおっさん。
だが、ある意味都合は良い。
「じゃあ……」
財布を開いてみると、金貨は残り16枚。後、小銭が数枚。割と減ったな。
その内、金貨を3枚取り出しておっさんの手の上に落としてみる。
「なっ……」
おう、今度はおっさんが驚いた。
ほう、意外と素の顔はショタだな。いや、どうでもいいが。
「情報料だ。『時詠みの巫女』に関して全情報寄越せ」
「……へっ、まいどあり!」