第三十一話――逃亡寸劇
「もう疲れたー」
早っ!!
「いや、歩き始めてからまだ30分も経ってないぞ?」
「えー、飽きたー、何か面白い事してー」
まぁ、だろうとは思ったけどさ。
流石に早くないか、飽きるにしても。
「こら、そんなこと言わずに歩きなさい」
エテが頑張って動かそうとしてるが、動かないだろうなぁ。体格差的に。
「聖都までは後……20時間、この40倍はかかるからな」
「えー!、長すぎー」
「貴方もそういう風にやる気をそぐような真似をしないでください!」
えー。
だって、ベラノが疲れたら、俺が担ぐことになりますから。
そりゃぁ、男として全力でベラノを飽きさせるしかないでしょう。
「……ほら、ベラノ、歩きますよ!」
む、邪な雰囲気が漏れたか。
「えー、面倒ー」
まぁそれでも近いうちにベラノは折れるだろうけどね。
「冗談はさておき、こんなところで足止め喰らってたら何時まで経っても聖都には着けない」
そりゃ担ぐのは役得だが、俺の体力はあくまで温存しておきたい。
となると、半分くらいは歩いてもらって、もう半分で加速しつつ担ぐのが一番だろう。
30分毎に歩くのと担ぐのを繰り返すのもありだが、果たしてベラノが毎度30分歩いてくれるかどうかは怪しい。
となると。
「そうだな……さっき言っていたベラノが<見える>とかいう話はどうなったんだ?」
話題を振って、代わり映えの無い風景の足しにする。
それが幼稚園児の遠足の鉄則である。
「お、にーちゃん、気になるか!?」
いい感じで喰いついてくれたか。
『スキル』に関しては色々気になるしここで聞いておいた方が良いだろうな。
「あまり人に話すようなことではないんですけどね……まぁ貴方なら良いでしょう。貴方はどうせ本能のままに生きる馬鹿でしょうから」
む、欲望に忠実なのはいい事だと思います。
後、ジト目がかわいいです。
「ベラノが持つ『スキル』は<見える>なんですよ」
<見える>、ねぇ。
「所謂、千里眼とかに似たもので、ある程度の範囲なら、障害物を超えて物を見ることが出来る力です」
…………更衣室覗き放題?
「普通、<見える>はそれだけの『スキル』なんですが、ベラノはそれ以外に、『スキル』も見えるんです」
ほう、スキルは同じ能力を持つ人間が複数居る、と。
ハルも代々の力とか言ってたし、遺伝する可能性も有りか。
それとレア度とかもありそうだな。こんな世界だし。
「例えば、他人の『スキル』や物に宿る『スキル』、『スキル』を持つ魔物等を見ると、その『スキル』が色で見えるんですよ」
「そうだー、例えば……あれは翠!」
遠くに見える山は一見ただの禿山なんだが……。
つまりはあの辺に『スキル』を宿した鉱石かなんかがあるのだろうか……?
「翠は……<斬る>ですから、黒刃ドラゴンかなんかが居るんですね」
黒……刃……ドラ…………ゴン…………。
ひぃっ! なんか想像しただけで身震いがっ。
ホント、ドラゴンは勘弁してください、ほぼトラウマ化してるから。死んだのもあれが原因だし。
「また何か考えてますね…………。まぁいいですけど、で? この変態は何色でしたっけ? ベラノ」
変態ってひどいな。主にすぐに誰だか分かるあたりが。
「んー? にーちゃんは、うーん……きれーな琥珀色!」
つーか、さっきから琥珀色と連呼してますが、果たしてベラノは琥珀を見たことがあるのだろうか。
なんか、セリフの中で浮いてるんだが。
「つまり茶色と黄色の合いのこって事だよな?」
「うーん? 蒼色だぜ?」
……蒼?
「ベラノ、琥珀は茶色ですよ……」
一瞬この世界の琥珀が青色なのかと思った……。
「えー、そうだっけ。でもキラキラしてる蒼だけどなー」
透明な蒼って事か。
マイカラーはどっちかっていうと緑なんだけどな、俺。
後、俺に会う色って……赤とか? 主に赤黒い液体的な意味で。
どっちにしろその爽やか系の色は俺に合わない気が。
「どっちでもいいじゃん! けどにーちゃんの色はホントきれーだぞ。今まで見たことないくらいだ!」
おう、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。
ハンサム系のおにーさんが肩車してやろう。
「おー! いけー! 走れー!」
おっしゃー、全力疾走! エンジン全開で飛ばしてけー!
「え、ちょ、きゃぁぁああ!?」
エテもついでに捕まえて、Bボタンぽちっとな。
あれ? なんか予定とかあった気がしたのは気のせいだっけ……?
ま、いっか。