第二十八話――生ける屍
「くっ! 強いっ!」
「化け物かっ!」
「ぐぁぁっ! 足がぁっ」
なんかさ、最近この流れ多くね?
こう、前の回で戦闘フラグ立って、次の回で敵の悲鳴で始まる。
いや、面白いのかもしれないけどさ、マンネリは良くないよね。
俺だってさ、好きで騎士団殴ってるわけじゃないんだし。
ほら、一話丸々戦闘にするとかさ? やった方が良い気がするんだ。
どうせ化け物だーの叫び声で文章が埋まるんだろうけどよ、それでもなんか変化した方が良いと思います。
なので、戦闘シーンはカット。
ええ、今回はカットです。目ぼしいことは無かったですし。
決して手抜きではりません。
「はぁ、なんか俺の思考に誰かが割り込んでる気がする……」
「ぐぇ……」
「何だこいつ……」
「バケモノ……」
と言うわけで、殲滅終了。
「さて」
騎士どもは雑魚なのでそれぞれ体のどこかの部位の骨を折って戦闘不能にしてあります。
なので、現在騎士団長さんを護る親衛隊は居ないのです。
「誰か居ないかっ!」
居ないですよー。来る足音も無い。
「さて、チェックメイトだぞ」
もっとも、こっちはもともとキングしかなくて、そっちのポーンはキングに全部叩き落されたけど。
これでも手加減したんです! 信じてください!
「ぐ……何なんだっ! 貴様っ!」
「俺? 俺か……」
あれ? 俺って何なんだろ?
人間、ってのはもう名乗れない気もするしなぁ。
何だろ? ゾンビってのは面白みに欠けるし。
「死神とか?」
あーでも、武器は素手と投擲剣。どっちかっていうと同じ死神でも斬魄刀もってる方々の仲間に近いかも。
「ひぃっ!?」
それにホラ、一応殺しては無いし。死神じゃないかも。
「うーん、後は……『生ける屍』、とか?」
どっちにしろゾンビだけどな。
「『生ける屍』……か」
「ああ、それで構わないさ」
「『生ける屍』とやら、いつかこの騎士団長マルクスが後悔させてやろうっ……」
ん? 騎士団長ってビンゴだったんだ。
それと、さっきのは名前を聞いてたのね、いやてっきりどんな奴だって質問かと。
ま、いいや。
「とりあえずなんでエテとベラノを捕まえたか聞かせてもらおうか」
逃げようとしていた騎士団長捕獲。
いやー、話に夢中になっている間に逃げるなんて古典的な方法、この鼠の足音すら聞こえる俺には通じんよ。
「ぐっ!」
おっと。
あの西洋剣だけはマズイ気がするんだよな。騎士団長は雑魚なんだが、どうもアレはヤバイ。
ま、適当に振ってるだけじゃ当たらんが。
「ていっ!」
マントから黒鍵Ⅱを出して、投擲。
初のお仕事は、ヤバ目の剣を遠方から折る事。
さて、当たるか!?
「なっ!?」
お、ビンゴ。
見事に当たって刀身を折りました黒鍵Ⅱ。君の事は忘れないよ……。
まぁ残り九十九本ですが。
しっかし、あの剣に触れた瞬間、黒鍵Ⅱも折れたのを見るとやっぱ危険物だったみたいだな。
落ちてる剣の刃にも触れないようにしなきゃ。
「なんて奴だ……『時止めの剣』を折るとは……、この不敬者がぁっ!」
いや、知らんよ。
聖剣なのかもしれんが、俺には関係ない。ついでに俺は無神教信者だ。
「さて、ほら、逃げないで、お話タイム」
きっちし右足を踏んで拘束。
「ぐぁっ!」
さて、ゆっくりお話ししましょう。
「ぐぅっ……お前は、あ奴等の事を知っているのか?」
「奴等?」
「エテ・エル・エンペシアとベラノ・エル・エンペシアの事だ」
エテとベラノ、か?
「どちらもエンペシアの穢れた血の持ち主だ!」
…………。
「あ奴等は我らに逆らい、宗教の自由などと悪魔の囁きを人民に繰り返す魔女だ! 言葉巧みに相手の心に入り込み、我ら偉大なる『時の女神』を信じる心を騙し、『時詠みの巫女』が間違いなどと吹き込む。エレクシア家のお気に入りだと言うだけで調子に乗る平民だ! だいたい、元平民が何故皇宮に居る! 穢れた土民が何故あそこに居る! 我ら代々の――がふっ」
まったく、どうやらこれは話が通じない相手の様だ。
貴族様なんて碌な奴はいないってのは聞いてたが、これは酷いな。
ハルみたいのは少数派ってか?
コイツ今なんて言った? 土民だと? 穢れた土民だと?
「お前みたいな、自分が何の上に立っているか分かって無い奴がいるから腐るんだ」
その足場が何の犠牲のもとにあるのかを知らない馬鹿が。
殺すわけにはいかない。
たとえ、こいつが傷が癒えてまた同じことを考えるだろうとしても、その信念は曲げない。
「ちっ!」
とりあえず顎を割っておくが、果たしてこの程度で反省するような輩かどうか。
しかし、こいつも『時詠みの巫女』か。
ホントに何なんだ? 『時詠みの巫女』ってのは。
こんなのが騎士団長? ふざけてやがる。
そして、『時詠みの巫女』に追われるエテとベラノ、か。
こりゃぁ、ただ助けてそれで終わりにはなりそうに無いな……。