第二十二話――破壊の痕
追剥峠(仮)から徒歩(時速平均約100/km)で約4時間。
「ようこそ、ビレイ村へ」
と、書かれた看板がある。
木は劣化しているが、まぁそこまで古いものじゃない。精々三ヶ月ほど前の物か。
確かに、そこにはそう書かれているのだが――
「こりゃ、ひでぇな」
看板の先はただ木屑と土埃の舞う荒野だった。
建物らしき物の跡がいくつか残ってはいるのだが、それも看板が無ければ建物だと分かったかどうか怪しい。
「何があったんだか」
盗賊や追剥の類ではない。
もっと明確に相手を一人残さず殺すという殺意の痕。
それこそ、壊す事自体に意味を見出すような人間の仕業。
「これはまだ……それでも屋根が崩れてるか」
一番まともな建物さえ、柱がかろうじて二つほど残っているだけだ。
「ふむ……」
柱の折れ端はまだ茶色く変色していない。
それに、さっきの看板だってそこまで古くなく、むしろこの世界では新しい部類に入るだろう。
「ごく最近か」
それも今月中あたり。
ただ、それにしては妙な事が一つ。
「血の匂いが、しない……」
俺の五感はそう言っている。
数か月では血の跡は消えない。
ならば。
「略奪じゃ無い……?」
しかし。
目の前に広がる惨状は明らかに相手への敵意。
八つ当たりなんてものではなく、確実に相手を破壊する意思。
「どうなってやがる」
想像できるのは、村人達が運良く全員逃げ出した後に村が襲われたか。
もしくは、…………一人残らず捕縛されたか。
「人攫い――……追剥もいるんだしな」
可能性としては有り得る。
ただ、その可能性を俺の第六感が支持している。
「しかし、それでもどうしようもないか」
仮に人攫いという確証があっても無くても、既に攫われてしまったのだからどうする事も出来ない。
攫われた人が何処へ行くのかという事さえわからないのだから。
「……変な気分になっている時間は無いな」
俺が追っているのはハル。
確かに攫われた。そして何処に攫われたのかは分かっている。
「まぁだが、今日はここで野宿か」
村の捜索に思ったより時間をかけてしまったのか、お日様は既に沈み始めている。
俺の眼なら、もう少し歩き続ける事もできるし、何処で寝ても変わりは無い。
が、出来る事なら起きた時に、野獣に腹を突っつかれている、なんて事には成りたくない。
ああ、死んでも嫌だ。既に死んでるが。
「……寝るか」
もうちょっと村跡を捜索しよう。なんて考えが首をもたげたが、俺にそんな事をしている時間は無い。
早く休むと決めたなら、さっさと寝て、明日起きる時間を早くした方が有意義だ。
「幽霊だけは、出ませんように」
おやすみの代わりにそんな事を呟いて、目を閉じた。