第一話――現実は非情である
前略。
誰か、助けてください。
割とせっぱつまってるので端折りながら説明すると、俺、黒井鷹秋は先程まで、部屋で惰眠を貪ってました。
で、そこに女神様らしき人が来て、こう聞きました。
「突然ですが、貴方は異世界に召喚されたいですか?」
で、そんなこと聞かれてノーって言えるほどリア充じゃなかった俺は迷わずイエスを選んだんですよ。
「じゃ、逝ってらっしゃ~い」
そんな声が聞こえた瞬間、異世界に居ました。
はい、何か色々おかしいですね。
大丈夫、一番理解できてないのは間違いなく俺なので。
そして、飛ばされた先は……ドラゴンの巣でした。
こう、声が聞こえて光が一瞬はじけて。
その次の瞬間、ドラゴンとご対面でした。
文字通り鼻先にドラゴンですよ。
ドラゴンって知ってますか?
アレですよ、緑色のでっていうが口癖のアレじゃないですよ。
どっちかっていうとFが二個並ぶゲームによく出てくる超リアル版です。
こう、口なんか人間ぐらい普通に呑みこめるサイズで。
そもそも顔だけで俺の身長と同じサイズだし。
はい、超絶ピンチです。
現在脳内会議を開き、最後の伝書鳩を飛ばしているので脳内時間は止まってますが、絶体絶命です。もう9回ぐらい軽く死ねる気がします。
とうか、既にタイトルで死亡フラグが確定している気がします。
あー、実況中継、実況中継。
こちら現場のタカアキです。
現在、ドラゴンの口が開きました。
その口ががばっと開いて、赤黒い舌が丸見えです。
唾液で光る俺の腕ぐらいのサイズの牙が凄く怖いです。
間違っても刺さりたくないですね。
ちなみに、身動きは取れません。
筋肉という筋肉が麻痺ってます。
というわけで、動く以外の方法でこれを回避したいと思います。
どんな方法があるでしょうかー!?
……あれ? これ死んじゃわない?
おかしいよね。異世界召喚の主人公がこんな簡単に死んでいいのかな。
こういう時するべきは……そうだ、遺産相続の問題があるじゃないか。
ええと、父様母様、どうやら俺、ここで死ぬっぽいです。
机の一段目の引き出しの奥にある5万円は弟にあげてください。
ベッドの下にあるダンボール箱は中を見ないで捨ててください。
ああ、ゲーム類は全部売り払ってください。びた一文自称親友にはあげないで下さいよ?
現実逃避もここまでみたいです。
だってほら、腹あたりになんか刺さってる感触があるので。
えーと、最後の言葉は……とりあえず、みなさん色々とありがとうございました。