第十七話――精神と時のマイルーム
「や、少年久しぐはぁっ」
何か、とても殴りたくなるものを見た。
「こ、こら! あたし女神! 女神様っ」
気のせいでは無かったようなので、もうちょっと殴っていよう。
「やめっ、誰か、ヘルプミーっ!」
君がッ 泣くまで 殴るのをやめないッ!
「いいトコロに来た、糞女神」
ちょうど体もいい感じにデッドヒート中で今なら永久にでも殴れそうだよ。
「待て待てストーップ!」
ガンッ。
あれ? なんか壁みたいな物が出来てる。
「こら女神、これじゃ殴れないじゃないか」
そんな悪い子はお仕置きだよ?
「はぁはぁ、人の顔見るなり殴るなんて、鬼っ!」
はて、人の顔見るなりドラゴンの前に飛ばしたのはどなたでしたっけ?
「まったく傷でもできたらどうするのよ……」
「それで傷が出来ないから女神なんだろ?」
「まぁね♪」
「音符つけるな、気持ち悪い」
大体、女神って大概数百歳だろ?
「良い年した婆ぁが――」
「何か、言った?」
「いえなんでもありませんすいませんでした女神様っ!」
殺気! ガチで視線だけで殺す殺気っ!
「まったく。まぁ今はこんな事で争ってる暇ないのよね」
「ん?」
「あんた、自分が死にかけてるって自覚無いでしょ……」
ああ、やっぱ死んでるのかコレ。
どこか既視感があるかと思えば、ドラゴンに食われた時に似てたのか。
「とにかく、あんたに今死んでもらわれると困るのよ」
「一度殺した癖にか?」
「あら、ちゃんとゾンビにしてくれる所に送ったじゃない?」
「送った……って事はお前があそこに送ったのか!?」
「あのねぇ、あの娘がドラゴンの巣なんかに行くわけないでしょ……」
いや、だが、……何故?
「色々事情があるのよ」
いや、俺が死にかける事情は無いと思う。
「で、今回もその一つ」
人差し指向けんな、人様に向かって。
「『時詠みの巫女』の話は聞いた?」
「『時詠みの巫女』……っていうとアレか? 俺を殺そうとしてきた騎士団が名乗ってたヤツか」
「それ! それなのよ。あいつら何やらかしてるか知ってる?」
いや、知らん。
「彼女はね、『未来が見える』そうよ」
未来予知ってヤツか。またとんでもないのが現れたな。
「まったく、未来なんて分かるはずも無いのに。たまたま占いがちょーっと当たっただけで人間達の煩い事ときたら」
ああ、なんかその気持ちは分からないでもない。
クラスの女子とか好きだったからな、占い。
「で、『時詠みの巫女』がそれだけじゃ無く、最近なんて名乗ってるか知ってる?」
いや、だから知らんて。
「『未来示す女神』よ! 『女神』!」
嗚呼、何か分かった気がする。
「つまり、自称『女神』を名乗ってると」
「そう!」
「で、目障りだから静かにさせてこいと」
「いいえ、めんどくさいからぬっ殺しちゃって構わないわ!」
ぬっ殺……。それ、女神が言っていいのか?
「で、アンタに頼みたいのよ」
「何故俺?」
俺の時みたく、ドラゴンなりなんなり呼べばよかろう。
「不自然にドラゴンなんて呼ぶわけにはいかないでしょ」
俺は不自然に異世界に呼ばれたのですが。
「色々事情があるの。とにかく! あの生意気なガキを静かにさせてきて!」
はぁ。
「で、俺のメリットは?」
「生き返らせてあげる」
「はい?」
「今、アンタは一度<時針>によって殺された。いや正確には命の『時』に<止める>をかけられた」
また物騒な槍だな。時を止めるのか。
というか、だから生き返らなかったのか。
「けど、アタシなら生き返らせてあげる」
お、生きる希望が見えましたよ。
「ついでに、ボロボロの体をきっちし強化しといてあげるから。今なら腐らない特典も付けてあげるわよ?」
前のはともかく、それは是非してもらいたい!
なんか体腐ったりしたら嫌だって思ってたんだよ。
「その条件なら、まぁ飲んでもいいか……」
とりあえず俺を殺した分は殴れたので、敵の敵は味方ってことで良い事にしますか。
ハルに会えたのがコイツのおかげってのが本当ならお礼の一つでもいうべき相手って事だしな。
「じゃ、起こすわよ?」
「ん? 起こす?」
「現実のアンタは、死体のままでしょうが」
あ、なるほど。
「んじゃ、よろしくね」
「ああ」
まぁ、適当に頑張りますか。
「いい? きっちし倒してきてよ、倒さなかったらドラゴン飛ばすからね?」
「アイッマムッ!」
誠心誠意全力で倒しますっ!
「よろしい。んじゃ」
あ、また意識が……。
やっぱ意識遠くなるのは、慣れないな……。
なんで、だろ…………。