第十六話――時詠みの巫女
「らぁぁぁぁぁああああ」
体に宿る激怒のままに、自分の中の、咆哮を開放する。
骨は軋み、拳が震える。
肺は膨らみ、血が沸騰する。
興奮剤の塊を突っ込むかの様に、撃鉄を振り下ろした。
地面を手でつかみ、狼のような状態で、地面を四肢で蹴る。
ぽかんとした表情のイヴェールを視界にかすめ、門へと突き進む。
先ほどの咆哮でこちらにばれた事に気付いたのか。
それともばれる事は計算のうちだったとでも言いたいのか。
門は呆気無く開き、入った瞬間に閉められた。
敵勢力は――
青年1(大将っぽい。一番先頭に居る)
・槍(3メートルぐらいか。超巨大)
・鎧(銀色。この世界で珍しく合金っぽい感じがする)
騎士1~20(右側に10人、左側に10人)
・槍(80センチほど。スピアって感じか)
・盾(1メートルほど横幅もある。模様は特に無し)
・鎧(鈍色だが、金属)
騎士21~40(後ろの方の建物の屋根の上に各々乗ってる)
・弓(どっちかっていうと弩? ボウガン?)
・鎧(軽装。金属でないヤツも居る)
しっかし。
「随分とまぁ大勢で」
暴れる体を抑えつつ、大将らしき男へと挑発を飛ばしてみる。
「聞いた通り、化け物の様だな」
が、今度の奴は余程自信があるのか、口の端を歪めて皮肉を返しやがった。
街長の策略だのはどうでもいいが、この男は強いと第六感が警鐘を鳴らす。
ここは部下から沈めるべきか。
「全僧兵、『時詠みの巫女』の名の元に、戦闘開始っ!」
は! 今度は『時詠みの巫女』と来たか。
随分と厨二が多い世界で。
が、しかし。そんな名前とは裏腹に動きはどうやらプロの模様。
「盾で囲えっ!」
きっちし体を盾で護りつつ、包囲網を狭めるやり方。
どこぞの傭兵とはレベルが違うっぽいな。
けど、この体はチート性能なのでっ。
「何処へ行った!?」
素で5メートルほどジャンプできるんですよね。
いやー、空が綺麗だ。
「上だっ!!」
いや、もう遅いです。
とりあえず、右側の騎士4の上に着地。
ぐしゃって音を聞きつつ、命は取ってないと確認してから、未だ盾を明後日に向けたままの両隣の騎士3と騎士5に回転蹴りを喰らわせてみる。
「相手は化け物だっ! 気を抜くなっ!」
ええ、気を抜いてたら勝てませんよ、俺。
というか、一般人じゃ俺に勝てる人いるのかなぁ。
嗚呼、ぜひファンタジーな力を持つ方とお会いしたいものです。
「ぐえっ」
とか考えつつ、とりあえず5人ほど沈めたのですが。
「弓兵っ」
いつのまにか騎士達が下がってて、矢がこっちに向いてましたよ。
「始めっ」
横へのダッシュで避けようとするも、何発か被弾。いや被矢か?
「ちっ」
わき腹に刺さった矢を引き抜く。
トゲトゲな矢じりがとても痛いです。
当ててくれたのは――騎士23、25、26、30、38か。
「せいっ!」
なので投げ返してみました。
お目目を狙ってやろうかと考えたのですが、優しい俺は同じくわき腹で勘弁してあげたのです。
「もう一度一斉発射っ!」
またも降り注ぐ矢の雨。
いや、雨にしては少ないか。
これなら、いけるか……?
「なっ!? 矢を空中で掴んだっ!?」
うーん。なんかどっかの漫画で見たシーンですな。
あっちは銃弾だっけ? すごいよねー、人間じゃないよねー。
「お返しな」
こちらの矢も持ち主のところにお帰り願いました。
大丈夫、足を狙ったので致命傷はゼロですよ。
「くっ! 全僧兵っ! 刺突の陣!」
と、今度は騎士1~20(数人欠落)がフォーメーションを変えましたよ。
今度は、真ん前に騎士11、12、13の盾。そのすぐ後ろに青年1。
けど、一目見て違うのは。
「へぇ、その槍って実戦で使えるんだ」
青年1の持ってる槍が三人の盾の間から飛び出ております。
しっかし改めてみると凄い槍だな。
普通に3メートル以上あるか。人間用じゃないなありゃ。
「お前のような対化け物では特になっ!」
と、巨大な槍が迫って参りました。
ああ、騎士15さんお疲れ様です。そんな無駄に大きい物振り回すなんて。
「けど、これってただの的だよな」
しゅっ、って感じで懐に突っ込んでみました。
さぁて、至近距離でどう料理してくれようか。
「今だっ!!!」
!?
盾だけが急に素早くっ!
「なっ」
押し潰されるように盾で押し返してくるっ!?
「これで、止めだっ!!!」
と、盾の隙間から、巨大な槍が構えられているのが見えた。
あれは……刺さったら痛そうだ。
けど、死なんだろう。きっと。俺ゾンビだし。
「<時針>っ!」
ざん。
胸に巨大な槍が刺さった。
その槍が、沈み込んで、体にめり込んで……。
あれ、なんでだ……。
意識が……。
遠く……。
「タカアキっ!!!」
最後に、どこか聞き覚えのある、声が聞こえた気がした。
そして、俺は、意識を、手放した。