第十五話――side街長――嘘吐き達の会合
とあるゾンビが本気になっている頃から少し遡ってちょうど二日前。
一週間ほど前に、盗賊団「黒薔薇騎士団」の襲撃を受け、それを『屍拾い』とその手下らしき男による手助けによって撃退した街では、街長以下街の仕切り役達の会議が開かれていた。
薄暗い部屋の中、丸い木のテーブルを中心に四つの影が各々様々な顔で話し合っている。
「あんな化け物が住み着いているなどとは聞いていない!」
椅子から立ち上がり、激昂しているのは少し煌びやかな格好をした恰幅の良い男。
「まぁまて、既に手は打ってある。先程『時詠みの巫女』へと使いを返した」
それを宥める様に、手を振っているのはひょろりと背が伸びた糸目の男。
「しかし、<時崩し>の依頼料は法外と聞いている」
反論では無く、ただ客観的事実を述べた、といった口調なのは筋骨隆々の大男。
「いや、今回はあの化け物の話をしたら、向こうから喰いついてきたのだ」
まるで自分の手柄を褒めて欲しい、と言う様に嬉々と大声を出したのは、出っ歯の小男。
「なるほど、ならば依頼料はタダ、か」
口では納得しているものの、筋骨隆々の男は未だ納得がいかないという顔をしている。
「しかしだ、問題が一つある」
その話題を無理矢理変える様に、ひょろりと背の高い男が再び新たな話題を出した。
「誰が、あの化け物をおびき寄せる?」
新たな話題に、会議についた4人は、沈黙してしまう。
「わ、私はやらないぞっ!」
半ば叫ぶようにして発言した恰幅の良い男が、机の下へと目を逸らす。
「だが、誰かがやらねばならんのだ」
その怯えを切って捨てるように、ひょろりと背の高い男が声を上げる。
「誰か、あの化け物と知り合いと言うのはいないのか?」
縋るように、小さな声を出す出っ歯の男。
「知り合いなどいるわけなかろう」
ありえない、といった顔で反論するひょろりとした男。
「いや、いるかもしれん」
が、その隣で考え込んでいた恰幅の良い男が声を漏らすように言った。
「誰がっ!?」
悲鳴の様な、高揚した声を出したのは出っ歯の男。
「イヴェールが、あの二人と接触していたという話を聞いた」
良い事を思い出した、と言う顔の恰幅の良い男が答える。
「あの娘……何をやらかしたかと思えば……」
筋骨隆々の男が唇を噛みながらぼやく。
「ならば、イヴェールに呼び出させればよかろう」
結論は決まったとばかりに声を上げる恰幅の良い男。
「元々あの娘は私に靡かない強情な餓鬼だったからな……良い気味だ……」
机に何を重ねているのか、何も無い机の上を向いたまま呟く恰幅の良い男。
「ならば、決定だ」
ひょろりとした男が、苦々しい顔で決裁をとった。
しかし、恰幅の良い男がどんな事を考えていようと、この場にて唯一の貴族級の権力を持つ彼に恨まれればこの街に逃げ場など、無い。
会議の場に居る、恰幅以外の三人は哀れとばかりに娘の顔を思い浮かべた。
あまりに純粋すぎる、栗色の髪の少女を。
そして、その娘を騙してでも化け物の囮に使わねばならないという、自ら達が下した、決定を。