第十四話――屍以下の生ける人間達
「なんでここに居るのさ?」
出会い頭に言うセリフじゃないと思うんだ、ハル。
少なくとも、街から歩いてきたんだろうイヴェールを労わるような発言をした方がいいと思うんだな。うん。
「いえ、あの……お邪魔でしたか?」
そして何故にイヴェールもそこで引こうとする。
「邪魔じゃないさ、というか茶の一杯ぐらい別にいいだろ」
てなわけで。
現在ちょっとギスギスした空気になりつつも三人によるお茶会のお時間です。
ちなみに場所は俺が最初に紅茶を飲んでいた応接室。今は実際に応接に使われてるから現応接室。
で、イヴェールが何故にこんな処に来たかと言うと、
「街長が村を救ってくれた英雄にお礼をしたいと言っているのです」
との事なのだが、ぶっちゃけ怪しすぎる。
「罠だよね?」
「罠だな」
ああ、罠だ。間違いない。
「どうせ、俺の体を誰かに引き渡すか、殺し尽くすか、はたまた良いように使おうと考えているか。どちらにせよ、碌な事は無いだろう」
「そんな事ないです! きっと街長も心を改め謝りたいんです!」
いやー、そんな事は無いだろ。
あの時、出ていけって言わなかった人間の方が少なかったんだよ?
口に出す勇気が無い奴も除けば、好意的なんて奴は一人も残らない気がするんだが。
「というか、イヴェールは俺を恐れないのか?」
怖がって欲しいとは毛ほども思わないが、一般人指標であるイヴェールが俺を恐れないというのは有り得んだろ。
「だって、タカアキさんは私達の街を救ってくれました!」
うーん。やっぱ何か罠の気がするんだけどな。
「……どうする、タカアキ?」
ハルの方は、「自分は何もしてないから」とか言って責任から逃げたので、いたって簡単に言いますがね。
「タカアキさん……」
こう、純粋な顔に真っ向から頼まれると断りづらいのですよ。
「駄目、ですか?」
嗚呼、だからそう、綺麗な目で見つめないでっ!
絶対街長わかっててイヴェールにしただろ……。
「だぁーっ! 分かったよ、行くさ、それでいいだろ……」
ま、罠なら罠で、壊しに行くも良かろう。
幸い、この体は死にはしない様だし。
「はい、ありがとうございます!」
「…………」
今度はハルの視線が痛いっ。
嗚呼、これってどっち選んでもBADENDと違いますか。
何時俺は選択肢を間違えたのだろーか。
やっぱアレか、お買い物に行こうという選択肢自体が地雷だったのか。
「ま、過ぎたことを言ったってしょうがないか」
第一、後悔なんて俺の柄でもない。
「さっさと行こうじゃないか、街へ」
で、街までの道程(二日間)をすっ飛ばして、現在。街の門の前。
「どー見ても罠だ」
「だからボクは行くのヤダって言ったんだ」
あんまし見えないように、藪に隠されていますが、街に見覚えのない馬車が五つ。
内四つは装甲と言うか、鉄板だらけの頑丈版。
更に、こっからは見えないようになっているが、俺の嗅覚と聴覚が正しければ、門のすぐ裏に殺す気満々の武装者数名。
しかも、第六感が嫌ーな感じに警鐘を鳴らしてます。
「どうしたんですか? タカアキさん?」
イヴェール、その反応はおかしい。
人を疑うということを知らないんじゃないだろうか。この人は。
「ほら、タカアキさんもハルさんも何やってるんですか? 早く入りましょう」
ちょっと進んだ門の所で手を振っているイヴェール。その笑顔に偽りは……無い。
「なぁハル、一つ、問題と言うか許せないことがあるんだが」
「奇遇だね、ボクもだ」
恐らく、イヴェールは嘘を付いていない。嘘を付けるタイプじゃない。
そして、武装馬車を見ても特に疑っていない。
つまり、
「イヴェールを生贄にしやがったか…………」
俺は化け物だ。
最近ようやくそれを自覚してきた。
だが、どうやってもコイツらみたいには成りたくない。堕ちたくない。
「何処までもゲスだな……」
恐らく、街長とやらはイヴェール一人で囮に成れるなら割に合うとでも考えたのだろう。
人の命は換算では無いというのに。
「ハル、やっていいか」
未だ本気になってから一週間。傷こそ癒えたが、まだ本調子とは言い辛い。
だが、今なら前のあの時よりも力を出せる気がした。
「はぁ、もうタカアキの好きにして良いよ」
ああ、好きに壊させてもらおう。
「その代り!」
……ハルさん、俺は今、真面目なんだが。人差し指をどけてください。
「絶っっっ対、後でいっぱい遊ぶからね?」
「ああ、もちろん」
うーん。
ここは言いくるめやすい主人を持って良かったと喜ぶべきか。はたまた子供な主人だと嘆くべきなのだろうか。
ま、どっちもハルか。
「じゃ、ちょっと派手に壊してくる」
「うん、行ってらっしゃい」