第十三話――屍の休息
さて、そんな事件から一週間。
あの血みどろと「出ていけ」の輪唱の中から逃げ出した俺達は再び屋敷へと戻ってきていた。
ハルは、あの事件の後二日ほど自部屋に引きこもった後に、ポツリポツリとだが過去を話してくれるようになった。
アルケミシア家という貴族の事。ゾンビを作るに到った事。自分がどういう風に生きてきた、という事。
どれもこれも、まぁやっぱりか。といったイメージではあったのだが。しかしホムンクルスとは予想外だったな。
ちなみにハルとしては俺が驚かなかった事が悔しいらしい。辛い思い出なのか思い入れは無いのか微妙なところである。
ただ、『屍拾い』については一切触れなかった。恐らくハルの中でも禁忌中の禁忌なのだろう。
ま、そんな風にハルとお喋りしつつ、俺はこの屋敷の探検等に一週間を費やした。
ちなみに、この屋敷もハルがやった訳ではないらしいが、<宿す>によって「最善の状態に保たれる」という概念が埋め込まれているらしい。便利極まりない能力である。
他にも、食料庫には「中の食べ物が腐らない」とか、風呂には「水を常に温かく保つ」とか。
数々の便利機能が備わっているスーパーな屋敷なのである。
ちなみに、「一代目」が作ったらしい。これでも片手間だったというから、どれだけ才能の塊だったか、という話である。
ちなみにどれくらい便利かと言うと、食料庫に数十年分の食料を突っ込んでハルが数年間一歩も屋敷から出なかったくらい便利です。
侵入者避けもあるので、自宅警備すらしなくていいという。
ただ、かなり広いので一週間立っても未だ迷いそうになるのが怖い。
後は、屋根裏部屋から通じる屋上への階段とか、地下室にある外への隠し扉とか、ベッドの下にある隠し部屋とか、色々見つけました。
で、今俺が居るこの屋上。正確には屋根の上か。
この俺的お気に入りスポットで日光浴中なのです。
「ゾンビになっても日の光に当たっても問題無いのは便利だよな」
吸血鬼とか、狼男とかは日の光に当たるとやばそうですよねー。
や、それを言ったらゾンビもですが。
「ゾンビが何してるのさ……」
むぅ、俺の平和な安眠を妨害しないでください。
「何か用か?」
ちょっと尖らせて聞いてみる。
「いや、別に……用事があるってわけじゃないけどさ」
うなだれてしまいました。
最近めっきり防御力が下がっているハルさん。ちょっとした意地悪でもこうなっちまうのは仕方ないのでしょうか。
前ならこう、「用事が無かったら居ちゃいけないの?」ぐらいは言ったような気が。
といいつつもまだ会ってから一週間しか経過してませんが。
色々激動だったからなぁ。俺の学生生活数か月分の濃さはあったな。
「ま、俺は別に構わんよ」
実際、俺としては美少女であるハルさんの顔を眺めつつお昼寝と言うのも悪くないのです。
最近睡眠時間が10時間オーバーなのが気になるところですが。
そうそう、睡眠と言えば。
やっぱ、あの本気モードは相当体に負担がかかるらしくて。
一応眠ってれば回復するのですが、初日はまともに動けませんでしたよ。
引きこもってたハルにはなんとか悟られずに回復できましたが。何時お散歩に誘われるかびくびくでしたよ。
「うん、ちょっと居させて」
まぁでも、ハルさんの笑顔が報酬なので、それぐらいは良いじゃないかな。
多少無理するぐらい、問題無いのですよ。
揃って屋上に寝っ転がる二人の間に会話は無いけれど、それは悪い空気じゃない。
ゆっくりとした時間を過ごす、形。
偶には、こんな風にしてるのも、良いかもな。
「ねぇ、タカアキ」
「何だ?」
「タカアキは、ボクの事――」
「あ! ようやく見つけましたーーーーーーー!!」
ん? どこかで聞き覚えのある声が。
「はぁ、はぁ、こんな処に居たのですか」
聞こえてきた方は、門の方か。
そっちを見てみると。
「イヴェール!?」
「え?」
見覚えのある栗毛が忙しなく動いていた。
しかも、しばらくもそもそした後、門の鍵を開けて入ってきた――。
「「あ」」
が、しかし、この数々の便利機能を宿された屋敷は、そんじょそこらの屋敷とは出来が違うわけで。
侵入者・イヴェールは門の外へ見えない手によってポイされていた。
「うう、痛いです……」
まぁ、仕方ない。これが無ければ泥棒の入り放題なのだから。
いやしかし、問題はそこではない。
「いったい何事なのさ?」
イヴェールがここをどうやって知ったのかも不明なら、何故ここに来ているのかも不明である。
「ま、とりあえず行ってみるか」
門の前で痛みに震えているイヴェールの所へ。