第九話――ネクロさんの憂鬱
「大声出しちゃあ困るなぁ」
「人が集まってきちまったじゃねぇか」
で、現場についてみたものの。
分かり易い不良が先程の声の主らしき少女に絡んでいた。
不良の内、片方は右目の上に傷跡、片方は刺青があるので便宜上不良(傷)と不良(刺青)とでも呼びますか。
「で、どう落とし前付けてくれんだぁ?」
不良(傷)が少女に凄む――のだがいかんせん三下臭が凄くて滑稽である。
「触らないで下さいっ!」
ただ、襲われている少女にしてみれば悪の大魔王顔負けらしく、涙を浮かべて防戦してるものの、どうやら分が悪い様だ。
「げへへ、別に取って食おうってわけじゃないんだぜ?」
嘘こけ。今ニィって笑ったぞ。少女の顔見て。食う気満々だろ。
「ただ、ちょーっとこの服についた汚れの後始末付けてくれりゃぁ良いんだ」
で、不良(刺青)どうやら絡まれる原因となったらしき服を見せつけているのだが……。
……汚れ?
「元々の服が汚れすぎててどれが汚れか分かんないね」
「ですよねー。やっぱハルもそう思う?」
いや、まぁ綺麗な不良なんてこの異世界でもいないと思う。
「ああん!? 何だてめぇら!?」
「ケンカ売ってんのか!?」
で、少女から矛先をこっちに変える事には成功。
GJ、ハル。
さて、今一度不良×2の装備を観察してみよう。
不良(傷)
・ナイフ(腰に装備、刃渡りは短め)
・レザーガード(簡易鎧みたいなヤツ)
不良(刺青)
・西洋剣(切れ味悪そう、どっちかっていうと鈍器)
・簡易鎧(胸だけ、守る気無し)
うん、勝てるね。
「じゃ、かかってこいよ」
挑発的に指をクイクイしてみる。
「後悔しても知らねぇぞ!」
言うや否や不良(傷)が飛ばしてきた拳を左に避ける。
ちなみに右に避けなかったのはハルが居るから。守りの闘いは面倒なのです。
しかし……。
「随分遅い気がするな」
言いつつ不良(傷)にストレートをたたき込む。
避ける間もなく不良(傷)に命中。
やっぱゾンビになって五感上がったかも。拳が遅く見えるわ。
「てめぇっ、やりやがったな!」
今度は不良(刺青)が西洋剣を抜いてこちらへと切りかかってくる。
しかし、これもまた遅い。
「遅いって」
相手の懐に飛び込んで、顎にアッパー。
うむ、カウンター&クリティカルヒットなり。
「「ちっ、覚えてろよ!」」
お決まりの捨て台詞を吐いて逃げていく不良(傷)と不良(刺青)。
セリフ欄が一つにまとめられているあたり、同情したいほどの三下臭である。
「ま、雑魚だったな」
しかし! 我らが戦場はここからが本番!
救出イベントは好感度アップ! ここは上手く選択肢を選んで確実に決めなければ。
しかもですよ、助け出したこの子、なかなかどうして美少女である。
栗色の茶髪は肩ぐらいまで。それを後ろに軽く纏めてある。
まだ顔は幼さが残るが、将来は確実に美人になるな。
背は健康な16歳男児(俺)より顔一つほど小さい。それでもハルよりはでかいが……何か違和感がある気が……気のせいか。
後、全体のイメージが保護欲をそそるというか、守ってあげたくなるタイプ。
さて、それでは……。
「御嬢さん、お怪我は無いですか?」
「タカアキ……、誰それ……」
無論、イケメン度3割増(当社比)対美少女スマイルですが?
「あ、ありがとうございます」
「こんな事、なんてことはありません、それより――失礼、御嬢さん、お名前は?」
「こっらぁっ! さりげなく名前を聞くなっ」
「あ、えっと、イヴェールです。よろしくお願いします」
「キミも! 答えなくていいから!」
「え、でも、その、助けてくれたのですし……」
「良いから、ほらタカアキ! 行くよ!」
あれ? 選択肢無くね?
というか、
「ハル、もしかして嫉妬してる?」
「な、な、なっ」
うむうむ、そういう事ならここは引いてあげなきゃな。
嫉妬とは、可愛い奴じゃないか。
「そんな訳ないっ!」
おう、そんな顔真っ赤にして大声あげなくても。
さっきのイヴェールの「止めて下さいっ」より声でかいぞ。
「じゃ、イヴェール、どっかでお茶でも飲まない?」
とりあえず人の刺すような目線に耐えられないシャイな俺は場所移動を希望します。
「え、あ、……良いんですか?」
「ほら、問題無いんだろ、ハル?」
「…………」
うーむ。イヴェールと仲良くなるのはいいが、ハルのご機嫌が下がるのは何とかしたいな。
ここは一つ、手を打たねば。