魔法少女になりたかった。
小さい頃、たぶん5.6歳くらいの時。
とても眩しかった思い出がある。
お母さんと一緒にデパートに出かけた時、突然物凄い揺れが建物を襲ってそこにいた人達がパニックになって、我先にと出口に向かって走り出した。
私もお母さんと手をつないで走っていたけれど、人の波にのまれてお母さんとはぐれてしまった。
私が転んでいても、踏んずけられたり、蹴られたりして、誰も助けてくれなかった。むしろ今になって思えば、人に押しつぶされて死ななかったことはラッキーだったかもしれない。
でもその当時の私は、怖くて痛くて、足を引きずりながら人のいない方へ進んでいった。
どうしてそうなったのかは今でもよく覚えていないけれど、私はデパートの屋上で「お母さん、お母さん」
と泣いていた。
空は暗く、紫色のようでもあって、黒い大きな穴から怪物が出てきては、口から光線のようなものを放ちながらビルというビルを破壊していった。
でも私はそんな光景よりも、お母さんとはぐれてしまったことが怖くて、傷が痛くて、泣いていた。
デパートの屋上は、遊園地みたいになっていて、こんな状況でなければ、パンダの乗り物や、飛行機の乗り物に目を輝かせていただろう。けど、その時はジュースの機械の隅っこで縮こまることしかできなかった。
溢れかえる化け物の一つが、私を見つけてしまった。
私は怖くて怖くて、逃げることも、泣くこともできなかった。
子供だっだけど、あの怖い化け物は私を殺そうとしている、と感じることが出来てしまった。
化け物が大きな口を開いて、光線のようなものを発射しようとしているのが、なぜかゆっくりとしたスピードで見て取れた。あ、私は死ぬんだ、とその時思った。
気づくと、目の前にお姉さんがたっていた。まるで、私を守るかのように手を広げて、自分より何倍も大きい化け物に立ち向かっていた。
お姉さんがゆっくりと振り返って、
「もう大丈夫だからね」
って言ってくれたのを覚えている。
それからお姉さんの体の周りに眩しいほどの光が集まって、きらきたした光の中でお姉さんは変身していた。
ピンクのドレスのような服の姿になったお姉さんは、怪物に向かって飛び出していってものすごいひかりが辺り一面を照らして-------------
そのあとはどうなったのかよく覚えていない。次に目を開けた時には、私はお母さんの腕の中にいて、お母さんが泣いていて、たくさんの消防車やいろいろな人たちが走り回っていた。
でも、あの化け物や助けてくれたお姉さんのことはよく覚えていて、病院で忘れなさい、と言われてもそれは出来なかった。
あの助けてくれたお姉さんを包み込むまばゆい光が、私の心を捉えて離さなかった。
そして今、私は中学生になる。
この世界では、街に黒い「ゲート」と呼ばれる渦から怪物が現れ、街を壊し、人を殺す。
その化け物を退治する人たちを「魔法少女」と呼ぶ。不思議な力が使えて、化け物を退治する。
世界中で同じような現象が多発していて、被害も甚大だ。
でも国は一応機能していて、化け物がいてもいなくても、人同士は争ったり、国同士で争ったりしている。
人は人を殺すし、人は人を助けなければならない。
そんな夢も希望もない日常だけど、私の脳裏には、いつもあの、まばゆい光が舞っている。
そう、私は「魔法少女」になりたかった。




