飛んで火にいる
「ところで、貴方は私みたいな精霊を記録しに来たんですよね?」
青白い綿を手に持ち、食べながら精霊が言ってくる。
私は癖で腰の小瓶を触りながら彼を見上げた。
長い髪を紐で結び、黄色い目が光る。凛とした輪郭をしている。私の倍も背丈があり、細身で筋肉質の体だ。
近くの地面には山賊たちが転がる。黄ばんだ布を継ぎ合わせた上着を着ていて、剣や棍棒が草に沈んでいる。
全員がうつろな顔だが、誰も起き上がらない。
「そうなの! でもまさか襲われるとは思ってなくて! ありがとう!」
「いえ。困っている少女を助けるのは当然ですから」
精霊は誇らしげに言うと、手にもった綿に嚙り付く。噛み跡には細かい糸が残る。
私が見つめすぎたせいか、精霊は綿を手渡してくる。慌てて受け取ると、小さく歯を立ててみた。
食感は見た目通りの綿の塊だった。味はうっすらと渋みと甘みを感じる、そして後から強い鉄の味を感じた。
「うえっ」
思わず地面に吐き出すと、精霊が語る。
「人生が凝縮された味ですね」
「ひどい味、山賊の肉の方がましなんじゃない?」
私は吐きそうになりながらも、細く赤いペンで手持ちの本に書き込んだ。気分とは裏腹に未知の情報の連続に、書く手は止まらなかった。
本のページにはびっしりとインクの文字が書き込まれ、線だらけだった。
腰の小瓶を触り、瓶の冷たさを感じつつも彼に聞く。
「それで、お腹は膨れた?」
「いや、記憶を食べても私が消えないだけで、腹は膨れませんね」
「食べ物とはまた違うんだね」
と言って、私は書き込みつつ、十分に書き終わる。
(よし、やるよ。私……)
小さく深呼吸をする。まだ慣れないし、声の震えを感じる。
「じゃあ改めて、ありがとう。お陰で助かったよ!」
「はは、そう何度も感謝されると、少し恥ずかしくなってきますね」
それでも精霊は笑顔になる。
私は腰の小瓶を手に取り、蓋を取った。
すると精霊が白い光となり小瓶に吸い込まれる。
あたりには私と、倒れた山賊たちだけ。瓶の中には白い光が虫みたいに灯っている。あたりは静かな森に戻る。
「今度はうまくいったし、いい研究材料が手に入ってよかった。山賊は予想外だったけど、まさか向こうから来てくれるなんてね、あとは研究所で実験かな」
喜びで、思わず声が高くなる。
ペンを手に取り、小瓶のラベルに3番と書き込む。
私は荷物を持つと、家路についた。
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