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一線

旦那は超えていけないラインを越えた。

「今の見たよね!あれが宮内舞って人?嫌な女ね。」

「違う。彼女じゃない知らない女よ。いったいどこであんな女と。」

浮気をするならバレないようにして欲しい。私はつめが甘い人間が嫌いだ。

「マッチングアプリかなんかよ。写真撮ってるから弁護士雇ってこんな男から慰謝料ふんだくりなよ。」

「そうはいかないの。娘には父親が必要なの。父親は残念だけど彼しかいないの。私と彼のもとでずっと育ったのよ。そんな単純な問題じゃないの。」

「あなたの娘がそう言ったわけ?それって彼女の本心なわけ?」

「言ってないわ。だけど母親なら娘が考えてることは分かるの。」

「あなたもあなたよ。問題から逃げてるだけじゃないの。確かにどの結果を選んでも傷つくのは当たり前よ。だけど最善の策をねらないともっと深刻な事態になるわ。」

「知らないわ。私の家庭の問題に口出ししないで。」

「レジーナさん、自分から頼んでおいて何よ!私何のためにここまで動いたわけ?私レジーナさんに少しでも安心して欲しいからこうやって一緒に行動してるの。」

「悪いけど今日はここで解散しよう。」

「分かったよ。動くならはやめに動きな。」

「分かってるよ。」

私は一緒に共にしてた作家仲間と別れた。私はこの事実を旦那に確認しようかそれとも静かに復讐を実行するか迷った。どちらにせよ娘にとって最善の策を私がしないといけない。そうは分かっていても突然の事態に動揺が消えないままだった。


「ママ何探してるの?」

あの次の日私はあるものを探した。ずっと触れなかったものを探している。

「あやちゃんが見つけても面白くないものよ。宝物でも何でもないものよ。授業はおわったの?」

「ちょうど終わったの。今日は中学1年生の内容少し触れたの。」

「そうなのね。あやちゃんももうすぐ中学生になるのね。」

「ママ、私はやっぱり中学に行きたくない。私はこうやって好きな環境で勉強した方が楽しいの。中学校に行かなくても夢を目指すのは中学行く子達と一緒でしょ。」

「分かった。行きたくなったらいつでも私に言って。」

娘が授業に戻り探し物を探し直した。

「ここだわ。」

手に取ったのはメモ帳だった。そして開いていくと紙切れが出て来た。その紙切れには金井宗治のメールアドレスと電話番号が出て来た。そこに書いてる番号をチャットアプリに登録した。

「こんなことするつもりなかったけど。」

私はきっと金井宗治を求めているのかもしれない。

「返ってきたわ。」

彼はちょうど有給を取っていた日だった。そして彼に電話をかける。

「まさか連絡が来るだなんて思ってもいなかったですよ。2週間くらいずっと待ってたんですよ。」

「なんとなく連絡したくなったのよ。勘違いしないでやましい気持ちがあるわけでは無いから。」

「僕は相田さんが電話してくれて内心嬉しくて嬉しくてたまらないですよ。相田さんの旦那さんは幸せ者ですね。こんなに綺麗で優しくて子供思いな奥さんを持てて。興味なかった相手が急に電話して来る時って大抵は本当に助けて欲しい時か、何となく寂しさを感じた時。きっと相田さんはそのどっちかですよね?」

「そうかもね。金井さんに話して解決する問題じゃないけど話すか話さないかでは話した方が良い。私の本能がそう言ってるのよ。私ね、基本的に外向的になれないけど都合が悪くなった時は誰かに弱さを見せるの。見せるというより自分の弱さをアピールしてぶつけるのよ。大人になってからそうなった。昔の私はそんなんじゃなかったわ。」

「金井さんってやめてください。何だか相田さんと距離が遠い感じがするから。僕のことは宗治と呼んで良いですよ。」

「呼び捨ては嫌だから、宗治君で良い?」

「それでも良いですよ。」

「それなら私のことは明子さんと呼んで。私は相田として生まれたわけじゃないの。結婚して相田になっただけで、明子として生まれて明子として死ぬ運命なの。」

「分かりました。明子さん。前にも明子さんと呼んだことありますけど、つい仕事の感じが出てまして。」 

「良いのよ。宗治君には話すけど、最近旦那と一緒にいる意味が分からなくなったの。必然的な理由は娘のためだけど、他に理由がないの。一緒にいてもあまり楽しいと思わない。前はお互い笑い合える関係だったけど新築を建てて過ごしはじめてからギスギスしてて解決もしない喧嘩ばかりだし、夜一緒にしてもあまり楽しさを感じないの。旦那の思うような女性でなきゃいけないような感じがして。」

「僕なら明子さんにそんな思いをさせないけどな。」

「宗治君の話は聞いてないの。私はどうしょうもないことでずっと悩んでるの。それに旦那は外に女がいるの。一人は私の嫌いな女で、もう一人は私の知らない女よ。」

「旦那さんのこともう愛してないんですか?」

「分からない。私が他の女に嫉妬してるのすら分からない。怒りも悲しみも分からない。私と言う人間が何故相田家の妻としているのか日々考えるだけ。」

私は頭の中でも心のなかでも自分と言う人間がよく分からなくなってる。

「全てのはじまりは人形なんじゃないかって。そう言えば直接問い合わせなかったけど、引越し作業中人形なんて見なかった?」

「そんなもの見てないです。」

「本当?」

「もしやあの不気味な女の子の人形のことですか?」

「そうよ。旦那は最初引越し業者を疑ってたの。私は疑ってなかったけど、今になって確認したかったの。」

「待ってください。僕達はそんなもの知りませんし、送ってもいません。」

私はしばらく無言になった。ずっと宗治を見つめる。

「宗治君、あなた嘘はついてないようね。」

「こんな業者が嘘ついて何になるんですか?僕は給料の為にただ単調な引越し業者をしているだけです。」

「夢でもあるの?」

「特になりたいものはないんです。あるとするなら明子さんみたいな素敵な人を妻にすることですね。」

「私が聞いてるのは仕事とかキャリアの話よ。また口説いてる?」

「もし口説いてるように感じたらやめますよ。」

「良いのよ。旦那は外に女がいるし夫婦として成立してない。私はただ母親としての役目を果たせば良いだけ。」

「良かったら会いませんか?」

「そう言う気分じゃないです。娘もいますし。」

「学校行ってる時ならどうですか?」

「私、娘を学校に通わせてないの。だから常に家にいて作品作りをしてるのよ。」

「作品作り?」

「私、作家として収入を得ながら生活してるの。」

「そう言う生き方もあるんですね。僕には思いつかない生き方ですね。」

「こういう仕事の方が大事な娘と常にいられるから。」

作品を作りながら宗治と一時間ほど話した。


私は鏡を見た。いつもよりずっと鏡を見た。そこにいるのは相田家の妻としての私、彩葉の母親としての私だった。

「私何か忘れてる気がする。」

そこには小学生時代の私が映っていた。手鏡ではそうだった。姿見ではいつもの私。

「ねえ、私は何を忘れてたの?」

私より人生をそんなに生きてない私に質問した。

「私分からない。だって私ママがいて幸せだから。」

笑顔で言ってたけど、作ってる笑顔の感じがした。

「私、ママがいて幸せ。そうだよね?」

昔の私は涙をこらえているような感じだった。

「もういないのよ!お母さんはいないのよ!」

「そんなの嘘よ!」

「本当よ。」

私は涙を流しながら手鏡を抱きしめた。

「思い出したよ。忘れてごめんなさい。」

私は泣き叫んだ。私は母親の死を忘れようとしていた。

「お母さんもお義母さんもいなくなっちゃったのね。」

「そうだよ。」

後ろを振り向くと人形のミヤ子が近づいて来た。どんどん髪の毛が伸びていく。

「だから母親であるのはあなただけなの。ママ。私のママ!」

「近づかないで!来ないで。お願いだから。」

「ママまでいなくならないで。」

「あなたは私の子供じゃないの。来ないで!」

私は人形を突き飛ばした。廊下に落ちてく。

「どうして私のことを避けるの?私を求めたのは明子ちゃん、いやママのほうなんだよ。」

「ママ、どうしたの!」

彩葉が近づいて来た。

「どうして泣いてるの?」

人形を持って近づいた。

「その人形が悪いのよ。あやちゃん、その人形を捨てよう。」

「嫌だ!私の大事のものなの!私の友達だし、まりちゃん、理恵ちゃん、美咲ちゃんの友達なの!」

「あやちゃん、目を覚まして。お願い。」

「私はママに何言われてもミヤ子ちゃんを手放すことはできない。大事な友達を手放すことはできないの。」

「どうしても?」

「うん。」

娘のことを見ると人形を捨てるなんて出来なかった。今回こそは捨てようと思ったけど、娘の人形への情熱に私は勝つことは出来なかった。娘に嫌われたくない気持ちが強かった。まるで依存したくなる友達のように。こんなことおかしいことくらい分かってた。だけど悩みの多い私にどうにかすることなんてできなかった。

「もう授業の時間でしょ。勉強部屋に戻りなさい。」

「分かった。」

娘は勉強部屋に行った。私は人形を娘の部屋に戻しておいた。

「人形が何よ。」

私は制作作業に戻り、顧客へ発送の連絡などをした。宗治に電話しようとしたがつながらなかった。

「明子、今日しないか?」

1週間ぶりに旦那に求められた。

「あなたならもう風俗や何やらで満足してるんじゃないかしら?悪いけどそう言う気分じゃないの。」

「何言ってるんだよ!舞とは本当に何もないって言ってるだろ。」

「どうせ私より宮内舞や他の女と一緒にいる方が楽しいんでしょ?」

私は写真を見せた。

「こ、これは誤解だ!」

「普通ラブホテルなんて異性と行かないでしょ。」

「離婚だけは…頼む!」

「こんなことで離婚なんてしない。忘れてるようだけど私達には娘がいるの。」

「明子…」

「私にとって良い旦那でいられなくても、あやちゃんの前では良い父親でいて。分かるよね?」

「もちろん分かってる。」

「克也はつめが甘いの。娘も勘づくのよ。賢い選択をして。」

「分かってる。」

旦那の携帯が鳴る。

「出なくていいの?宮内舞から?」

旦那は電話に出た。

「もしもし…え?嘘だろ!」

旦那は携帯を落とした。

「どうしたの?驚いた表情して。」

私は携帯を拾って旦那の手を握った。

「明子、俺の小学生時代の同級生がビル火災で死んだんだ。」

今日もまた私達の周りで不幸が起こった。

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