悲劇
「大変だ!母ちゃんが!母ちゃんが!」
旦那は焦った様子で私と娘の元に来る。
「何?落ち着いて話して。」
「落ち着いてられるかよ!交通事故にあって、救急搬送されてんだ。」
「何だって!お義母さんが…」
「おばあちゃんが…」
もうホームパーティーどころではなくなった。
「母ちゃん!」
旦那は急いで病院に向かった。私達も一緒に来るまで向かった。
「母はどうなったんですか!」
「落ち着いてください。今関係者意外入れることは出来ません。こちらにおかけください。」
旦那と娘と椅子に座る。
「ねえ、おばあちゃん、大丈夫なの?」
「彩葉、静かにしなさい。」
「パパ、ごめん。」
かなり旦那は取り乱していた。何と言っても義母はかなり旦那のことを可愛がっていたのだから。そして数時間が経ち、担当医と看護師が数人来た。
「残念ながらお母様は事故の衝撃により硬膜下血腫を起こしてしまい、こちらでも全力を尽くしましたが、息を引き取りました。」
「何だと!母さんはそんなことで死ぬような人じゃない。ちゃんと手術したのかよ!」
「あなた落ち着いて。」
私と娘で旦那を抑えた。
「お医者さんは何も悪くないよ。」
「そうよ。事故を起こしたのは違う人でしょ。」
そして葬儀が開かれることになった。
「ご冥福をお祈りします。」
旦那は涙をこらえていた。
「何でそんな風にいなくなるの!」
「嘘だって言えよ!」
義母の親戚は彼女の遺影に向かってたくさん叫び続けた。悲しみの言葉葬儀場で響き渡る。
葬式には義父と義母のたくさんの知り合いが参列した。
「本当に気の毒だったわね。」
「故意じゃないとはいえ酷い話よね。」
たくさんの彼女の知り合いが私達に同情の眼差しを向けた。
「ご冥福をお祈りします。」
「お悔やみ申し上げます。」
ありふれた言葉がどんどん耳に入って行く。きっと色んな人に大切に扱われていたに違いない。私もあんなに素晴らしい義母が亡くなったことを受け入れきれないでいた。
「あなたが明子さんね。」
義母と同い年くらいの人に呼び止められた。
「すみません、どちらですか?」
「私は昔からの彼女の知り合いよ。今まで大変だったんじゃないの?」
「そんなことはありません。」
「無理しなくて良いのよ。彼女が亡くなったのは悲しいことだけど、彼女も決してきれいな人間じゃないのよ。」
「やめてください。葬儀なのにそんな不謹慎なこと言うんですか?」
「そんなに声を荒げないで。あなたは知らないかもしれないけど、あの人は若い時に私の婚約者を奪ったのよ。それも自分の方が子供を産める体質で私のことを可哀想で哀れだって言ったのよ。」
「そんなデマでお義母様を陥れるつもりですか?」
「そんなつもりなんてないわよ。だけどあなたのことが心配だったのよ。」
「心配とか言って近づいて、お義母様を陥れたいだけですよね。」
「まあ無理もないね。あなたは正義感が強いようだから。だけど今の言葉は全て本当よ。」
「葬式でそんな不謹慎で失礼な話しないのは当たり前です。もう結構です。」
良く分からない女性の元を離れた。
「さっき、怒ってる感じしたけど何かあったのか?」
旦那が聞いた。
「克也、何でもないの。」
「そうか。」
あれから旦那は事故の加害者に葬儀代と死亡慰謝料を請求した。
私もしばらくはショックだった。あんなに実のお母さんのような存在を失ったのだから。
「行ってくる!」
「克也、行ってらっしゃい。」
「パパ行ってらっしゃい。」
私は克也を見送った。娘も旦那に手を振った。
私は個人でハンドメイド作家をしている。レジンアクセサリーや刺繍や編み物や縫い物などで簡単な洋服や小物や雑貨をたくさん作っている。数年前までは中小企業でウォーターサーバーを取り扱う会社で働いてた。会社と並行してハンドメイドの教室に通っていた。そこの先生から積極的に売れる為のノウハウを教えて貰い、今ではハンドメイド作家一つで生計を立てられる状態になった。私の数年間の努力がかなった。今は家庭も仕事も上手くいっていてとても楽し時だった。もちろん私の顔を知ってるお客さんはいない。基本はネットで販売してる。ハンドメイドの催事のイベントではウィッグもつけて眼鏡もつけてマスクをしている。私は顔を知られるのが嫌なので徹底してる。
「ママ、ホームページのリンクが真ん中にいかないの。」
「それなら、ここにcenterと入力するのよ。」
娘は学校に行かせず自宅学習をさせている。一度も学校に通わせたことはないし、籍も置いてない。世間的に言えば私のやってることは教育的ネグレクトにあたるけど違う。私は娘の意思を誰よりも尊重している。娘は12歳になった今でも学校に行きたいと思ったことはない。娘の幸せの為なら私はどんな手段も厭わないつもりだ。
「今日は割合について学びます。」
一般的に学校で学ばれてることもオンラインで学ばせていれば、私が直接教えたり、学校では教えてくれないこともたくさん学ばせている。
「この後DTM頑張るんだ。」
音楽の授業だって娘の興味のあることを優先してる。
「ガラスペン楽しい。」
絵だって学校で学べないことを娘の意思で学ばせてる。
「ママのために作ったの。」
時には陶芸をやることだってある。私は娘が苦しむようなことはさせないし、時には失敗だってさせる。誰よりも娘を愛してるから。
「この前の復讐だけど豊臣秀吉は1590年小田原城の北条氏を滅ぼして天下統一を果たしました。」
「天下統一って何ですか?」
「つまり全国を制覇したんだ。」
「あと刀狩りってのもやってたよね。」
「よく前回の内容を覚えてるね。それなら聞くけど刀狩りは何のためにやったか分かるか?」
「武器を取り上げるためでしょ。」
「そうだけど。これだと答えとして不十分。当時は農民による一揆があとをたたなかったんだ。だから農民と武士との身分を明確にするのに刀狩令を秀吉が出したんだ。」
私は監視カメラで先生と娘の様子を良く見た。特に問題がなかった。万が一の為を備えて私は監視カメラをつけてる。旦那は反対してたけどよく話して賛成してもらった。
「あやちゃん、今日の歴史の授業はどうだった?」
「分からないことたくさん聞けるからすごい理解しやすい。やっぱり歴史の先生は山本先生のままで良いよ。この前分かりにくかったけど最近分かりやすいから。」
「それなら良かったわ。突然新しい先生を変えるなんてあやちゃんのストレスが増えるからね。」
「ママ、心配しすぎだよ。でもいつもありがとう。」
娘は私の方を見て笑う。こうやって生きてるだけでもこの上なく嬉しいのに、私を笑顔を投げかけてくれた。
「困った時はいつでも味方だから。」
嫌われたって良い。娘が幸せならそれで良いんだから。
「ミヤ子ちゃん、今日は先生にもママにも褒められたの。今日は数学は割合について勉強したけど面白かったよ。他にもお皿も作ったんだ。」
大事な顧客とやり取りしている時にかすかに娘の部屋から声が聞こえる。
「ミヤ子ちゃんに褒められると嬉しいな。ミヤ子ちゃんは今日は何してたの?いつも私の話ばかりしててミヤ子ちゃんの話全然聞かないから聞かせて欲しいな。」
そして夕ご飯を食べてお風呂に入り終わった後もずっと人形と話していた。
「今日は私頑張ったからママが作った肉じゃがよ。私の大好物なの。ミヤ子ちゃんにもママの手料理食べて欲しい。」
旦那が部屋に近づく。
「遠慮しなくて良いから。私に出来ることなら何でもするし、困った時はいつでもミヤ子ちゃんの味方よ。」
「彩葉!」
「うわ!パパ!勝手に部屋に入らないで。」
「おー、悪い!それより、ずっと独り言言ってて何かと思ったんだよ。」
「独り言?一人じゃないよ。」
「変な冗談やめてくれ。幽霊などいる事故物件じゃない。もう1カ月経つ家にそんなものいないだろ。」
「だから一人じゃないの。」
娘は人形を旦那に見せた。
「何でそれを持ってる。今すぐ捨てろ。得体のしれないものを家に置いておくわけにはいかないだろ。」
「やめて!ミヤ子ちゃんを傷つけないで!私の大事な友達なの!乱暴に扱わないで。友達をイジメたらパパのこと一生許さないんだから!」
「いい加減にしてくれ。これ以上人形奪ったりしないけど、お前のためを思って言ってるんだ。」
旦那はため息をついてリビングに行った。
「どうしたの?そんなに深刻そうな顔をして。」
「彩葉が変なんだ。」
「今日のあの子はとても良い子よ。きっと良いことがあったのよ。」
「そんなんじゃない。引っ越し初日で見つけたあの不気味な人形とずっと話してるんだよ。明子、今まで俺に話してくれなかったのか?」
「あやちゃんのことを悪く言わないで。私だってあやちゃんとあの人形が話してるの心配になるよ。確かにあの人形は不気味だわ。でも幸せそうだから良いじゃないの。」
「幸せそうって、彩葉はもう12歳だ。本来人形と遊ぶような年頃ではないはずだ。」
「12歳が人形で遊んじゃいけないって誰が決めたの。」
「あまりにも酷かったら俺の方で処分しておく。」
「やめて。早まったことはしないで。」
「俺が言いたいのはあの人形が呪いの人形だったらどうするんだと言いたい。母ちゃんが亡くなったのだってあの人形が関わってるかもしれないだろ。」
「お義母さんが亡くなったのは私だってまだ実感してないし、受け入れたわけじゃない。だけど今は目の前にいる彩葉の幸せと私達の幸せと向き合うべきでしょ。」
「君の気持ちはよく分かった。だけどあまりにも変なことが起こるようならあの人形をどうにかしないといけない。」
旦那と一緒に寝室に入った。
「最近ご無沙汰じゃない?引っ越し作業で中々そう言う機会が無かったから。」
私は旦那の体に抱きついた。旦那の唇が私の唇に重なる。彼の温度を体の中で感じる。
「今日は明子の好きなようにして良いよ。」
旦那はたまに私に夜の主導権を与えることがある。旦那との夜であまり不満に思うことはない。
「克也、こっち向いて。」
暗闇の中、いつも見せない顔の克也がいた。どんな経歴のある男でも、お役所してようがそんな姿をする。人間とは綺麗な部分とそうじゃない部分を使い分けて生きる。それが人間社会と言うもの。旦那の今の姿を知ってるのは私しかいない。きっとそう。これからもその事実は変わることはない。
「ねえ、最近ご無沙汰でどんな気分だったかしら?」
「もちろん明子が恋しかったよ。明子が欲しくて仕方がなかった。」
「私が体調崩したから?」
「君のせいではない。誰だってしたくない時だってあるだろ。」
「そうよね。良かったわ。私を感じたいと言う気持ちがまだ残ってて。」
「どう言う意味だ?」
「別に私は皮肉なんて言ってないわ。」
娘との時間も旦那との時間も幸せだ。きっとそうだ。
「ねえ、この幸せいつまで続くかしら?」
「大丈夫だ。先の不安に押しつぶされてはいけない。」
私達の夜は過ぎ去った。




