真実
私は目を開けると暗い部屋にいた。
「動けない…」
手足を拘束されていた。身動きが取れない状態だった。
「ご飯を持って来たよ。」
男がご飯を食べさせようとした。
「この変態男!私を監禁して何するつもり?すぐ離して!」
「相田明子…僕は君にこれっぽっちも興味ないんだよ。とにかくとっとと食べなよ。」
また彼の顔が歪んでいるような感じだった。
「ずっと寝てたからね。」
「いつからこの状態なのよ。」
「君を監禁したのは3カ月前だよ。そんなことも忘れたのか?」
何かがおかしい。私は確かに昨日あたりに誘拐された。3カ月の間見たものは何だったのか分からなくなった。
「もう一度言うけど僕は君には興味ない。」
「それなら何の目的で私を監禁してるわけ?金か何か?」
「金でもない。相田彩葉のことを思い出してもらう為にここにいる。」
私は人形と目が合った。
「な、何で人形がここに?」
「相田彩葉はこの世に生まれてない。」
「彩葉は…彩葉と過ごした時間は本物よ。」
男がずっと見る。
「お、思い出したわ。」
私は相田克也と会ったのは20代半ばの時だった。
「やっと仕事が終わったのにどうして。」
私は雑誌の編集社で働いていた。給料はそこまで良くないし、私を精神的に追いつてる人がいるし、通勤時間はとても長くストレスでしかなかった。仕事が終わっても仕事のことが頭から離れないことが多かった。仕事をこなしてもどんどん仕事がふってくる。この時、こんな仕事をする為にこの世界に生きてるわけではないと思った。
「取れない!」
ある日の帰り私のカバンが電車に挟まってしまった。周りを見ても見て見ぬふりする人や助けたくても助けられない人達ばかりだった。
「大丈夫ですか?」
その時声をかけたのは克也だった。克也とのはじめての出会いだった。
「カバンがはさまってしまって。」
「ちょっと良いですか?」
「はい。」
彼はカバンを引っ張ろうとしたがびくともしなかった。
「これは俺もまいりました。」
「良いんですよ。誰のせいでもないので。」
結局急行で遠くの駅まで行ってしまった。
「良かったら一緒にご飯にしませんか?もう遅くなりましたし。」
「そうしましょう。」
普通なら見ず知らずの人に誘いを受けても断るはずだがこの時は何故か受け入れてしまった。そのまま2人で落ち着いたレストランに行った。
「何故私を助けてくれたんですか?面倒なことになるだけだと思いますけど。」
「困った時は放っておけないですから。」
今考えると元旦那の下心なんだろうと思った。私に近づく為の口実なんだと思った。
「それに面倒だなんて思いませんよ。」
「そうですか。」
「お仕事は何されてますか?」
「私は雑誌の編集社で働いてます。今日も残業で遅くなってしまって。」
「今の仕事楽しいですか?」
「楽しいと思いません。生きる為にしてるだけです。こうやって呼吸ができる限りは働かないといけませんから。人間って意外と面倒臭い生き物ですよね。便利な暮らしする為にあまり幸せを得られないし、精神的にストレスと常に対峙したり。」
「面白いこと言いますね。そんなことまで考えたことないです。俺そう言うの気にしない馬鹿なんで。」
「そう言えばお仕事は何をされているんですか?」
「公務員です。」
「教師とかですか?」
「役所で働いてます。」
「大変な仕事ですね。私をこんな所に誘って大丈夫なんですか?人の目もあると思いますけど。」
「大丈夫ですよ。その時はその時ですから。そう言えば何と呼んだら言いでしょうか?」
「私は中元明子です。明子で大丈夫です。」
「明子さんって呼びますね。俺は相田克也です。呼び方は何でも良いです。」
「分かりました。相田さんって呼びますね。」
「子供の時の夢は何ですか?」
「突然ですね。何でそんなに聞くんですか?」
「せっかくだったのでついつい聞きたくなって。」
「子供の時は家庭が色々大変だったので夢なんて考えてる余裕がなかったです。希望もなかったです。この残酷な現実を抜け出してもまた残酷な現実が待ち受けてるんだろうなと思います。」
私と元旦那はこの時から正反対だった。旦那が炎だとしたら私は明るいところにも存在する影だ。
「俺は結構楽しい子供時代でしたよ。まさに青春でしたね。」
「へー、青春ね。そんなこと言ってみたかったね。」
「何か言いましたか?」
「何も言ってないですよ。」
「正直俺、今こうやって話せるの良い思い出になるかもしれませんけどね。」
「ありがとうございます。」
「今日は俺が出すので。」
私達はレストランを出た。
「今日はありがとうございます。」
「もう遅いので俺が送りますよ。タクシー呼びますね。」
私達は何回かあうことが多かった。何度かデートを重ねてるうちにいつの間にか付き合う関係になった。
「明子さん、」
ある日私は彼に眺めの良いレストランに連れてかれた。こんなことがあると何が起きるとなんて検討がついていた。
「明子さん、よく耳を澄ませて聞いてくれ。」
私は彼をじっと見つめた。
「明子さん、俺と結婚してください。」
目の前に指輪が出て来た。
「良いですよ。」
彼からのプロポーズが人生ではじめてだった。
「明子さん!」
私達は抱き合った。それと同時に彼のどこを好きなったか深く考えた。特に思いつくところはなかったがその時は気にしなかった。
「あなたが明子さんね。うちの克也と結婚してくれて本当にありがとう。克也はあなたと結婚できて幸せよ。」
義母の江梨子はとても優しくて怒るところがあまりない印象だった。
「これ、お年玉よ。」
当時少し気になる点があるとしたら旦那にかなり甘い所だった。色々物を送ってきたり、旦那と対立しても中々表に出して言えるような雰囲気ではなかった。
結婚してからパートで働きながらハンドメイドで作品を作って売るようになった。後に私は作家として売れて作家一本になった。
「お義母さん、ちょっと良いですか?」
「何?話してごらん。」
「私、旦那との子供をお腹に身ごもりました。」
「あら、本当!?嬉しいわ。」
彼女は私に抱きついた。涙さえ流した。いつもになく喜んでいた。そんなに喜ばれたものだから私は嬉しかった。私の母親は私が10代の時に亡くなったから彼女を自分の母親のように見た。
「克也も幸せ者ね。」
これが口癖のようだった。
「何でも協力するわ。」
彼女はとても熱意で溢れていた。初めての孫だったからかもしれない。
「もうすぐで産休が取れるの。」
「良かった。一緒に頑張ろう。」
「わたしも協力するわ。」
産休になってストレスが軽減されるわけではなかった。
「ちょっと、こんな重い物持ったら駄目!流産なんてされたら困るわ。」
「いや、そんな重くないです。」
義母は過保護気味になった。そして流産になったら困ると言う発言に何回もモヤモヤしていた。
「ねえ、名前の候補考えてくれた?」
「ここは母ちゃんに任せた方が良いんじゃない?」
「ちゃんと考えて!それとあなたも私のようにお酒我慢して!自分の身体ではないとはいえ私達の子供なのよ!」
「分かったよ。俺が悪かったんだろ。」
旦那は期待をさせる言葉を言っただけだった。
「ねえ、名前は美咲とかどうかな?」
「良いんじゃない?」
「他に理恵と真理子も良い名前だなと思うんだけど。」
「真理子で良いんじゃないか?」
「うーん。かなり迷っているのよ。本当にこの子らしい名前なのか分からなくて。相田真理子だと3文字でテストの時に名前書くのに時間がかかりそうな気がするのよ。」
私の名前選びは慎重だったのでかなり時間がかかった。
「彩葉?」
ふと頭にその名前が思いついた。私はどこかで聞いたことある名前だと思った。だけどとても良い名前だと思った。
「そうだ!彩葉よ!彩葉なんてどうかしら?」
「良い名前だなそれにしよう。」
「聞いてたわ。彩葉ね。私も素敵な名前だと思うわ。」
全員の同意で彼女は彩葉と言う名前になった。しかし幸せも束の間だった。
「大変申し上げにくいですが、」
「どうしたんですか?」
「超音波で確認しましたが、残念ながら心拍が確認できませんでした。」
「嘘ですよね!?何かの間違いですよね。」
私は涙をたくさん流した。自覚症状がなかったた。稽留流産だった。彩葉は私のお腹の中で亡くなっていた。破水や出血など体調不良などの変化がなかったので気がつけなかった。私は我慢したり、妊婦として何を気をつけたら良いか隅々まで気をつけていた。だけどこの結果は私にとって納得いかなかった。安定期だからと油断もしなかったのに娘を亡くしたのが、顔も合わせられないのがとても苦しかった。
「あなたが悪いわけではありません。」
そんな言葉を聞いてすぐ立ち直れなかった。その後私は子宮内容切除手術を行って、摘出後にしばらく入院して退院になった。
「お義母さん。」
彼女のいつものような優しい表情はそこにはなかった。
「残念ね。違う所だった無事に産まれて人生を歩めたんじゃないかしら?本当に残念ね。可哀想な彩葉ちゃんね。それに辛いのは息子の方よ。あれだけ協力したのに。本当に残念だったわね。」
「私のせいだと言いたいんですか?」
「そう言うわけじゃないけど、彩葉ちゃんが可哀想だと思ったのよ。」
義母が協力したのは私の為ではなく旦那と孫を持つというステータスの為だと気がついた。私なんていてもいなくても良い存在なんだとその時思った。私に今まで向けた優しさは本当の優しさではなく、自分の社会的地位をアピールする為にした優しさだった。だけどその時は現実を受け入れず彼女が亡くなるまで都合の悪い所は目をそむけ良い義母として見るようにした。偽りの優しさとはいえ母を亡くした傷をかかえた私にとっては嬉しかったのは事実だったから。そうするしかなかった。
「こちらお願いします。」
顔を合わせることできない娘の死亡届も出生届として見るようになった。
「ねえ、あやちゃん、これからパパとママと一緒に生きていこうね。」
私は元々持ってた熊のぬいぐるみを常に持ち歩いてはそれを彩葉として見たてて生きていた。お腹の中で消滅しても私の心の中では彼女の存在は消滅することはなかった。
「神林?」
ある日、ハンドメイドのイベントの帰りに一軒のアパートのある表札が目に入った。この表札の苗字がどこかで見た覚えがあるけど思い出せなかった。
「ママ、何見てるの?」
「いや、何でもない。」
「今日の夕飯は何?」
「今日はカレーライスにするよ。」
「やったー。」
あの12年間は偽りだけど幸せだったのは本物だった。




