負の連続
「きゃーー、救急車呼んでください。」
美咲は思わず叫んだ。
「あやちゃん、あやちゃんが!」
「あやちゃん…」
私はすぐ救急車を呼んだ。
「すみません、至急救急車をお願いします!娘が娘が!」
「火事ですか、救急ですか?」
「救急って言ってるじゃないですか!はやく!」
「申し訳ありません。そちらのお名前と住所を教えてください。」
私は名前と住所を言った。
「どうなさいましたか?」
「娘が自宅のベランダから飛び降り自殺をしたんです!」
「年齢は?」
「12歳の女の子です。相田彩葉です。」
通報が終わり彩葉のもとに駆けつけようとした。
「あやちゃん、どうして…」
「美咲ちゃん、あなたは部屋の中にいなさない。」
「でも…」
「あなたが外部の人にバレたら不味いわ。」
「あやちゃん、ごめん。」
美咲は泣きながら娘の部屋に行った。
「あやちゃんが、あやちゃん!」
私は倒れてる娘を見て前がぼやけていく。そして娘は救急搬送された。
「うちの娘はどうなったんですか?」
「ただいま確認をとってます。申し訳ありませんがお時間を頂きます。」
旦那も病院に駆けつけた。
「明子!」
「克也、あやちゃんがベランダから飛び降りたの。どうしたら良いの。」
「まだ死んだと決まったわけじゃないだろ。」
「でももしそうじゃなかったらどうすれば良いの。あやちゃんは3階から飛び降りたのよ。」
しばらくして私達は病院で結果を聞いて自宅に帰った。気がついたら夜になっていた。
「ただいま。」
私は真っ先に娘の部屋に向かった。
「あやちゃんはどうなったんですか?」
美咲が私に聞いた。
「彩葉は死んだのよ。」
「嘘でしょ。どうして?どうしてなんですか?」
「そんなの私が聞きたいよ!」
「おい、誰かいるのか?」
「誰もいないわ!」
私は美咲の口を抑えた。
「苦しい。」
「つい感情的になって怒鳴ったわ。旦那に気がつかれるとまずいからあまり大きな声で離せないわ。打ったところが悪くて頭部外傷起こしたのが原因よ。打ちどころが悪かったのよ。」
床の絵がどんどん二人の涙で濡れていく。
「私のせいよ。私がここに来たからだと思う。」
「それは違うわ。あなたとずっと一緒にいて楽しいって言ってたし幸せそうだったわ。」
「それならどうして…」
監視カメラで観察してたが美咲と一緒にいる時は笑顔が絶えなかったので彼女が原因ではない。四六時中監視カメラと盗聴器、何もかも確認してからそんなことが起こるはずがない。彼女は誰かに追い詰められることなんてないし隠し事は私達の間にはない。自殺する原因があるとするならばあの人形のせいに違いない。人形を見ると私の方を見て笑ったような気がした。
「何がそんな面白いのよ?」
「おばさん、私笑ってないです。」
「そうよ。全てあんたが悪いのよ。あんたがこの家にいてからおかしくなったのよ。」
「やっぱり私に怒ってるんですか?だとしたら本当にすみませんでした。」
「お前だよ。」
私は人形につかみかかる。
「あんたがお義母さんも旦那の友達も殺したんでしょ。夫婦仲を険悪にさせたのもあんたなんでしょ?全部あんたのせいよ!」
人形の首をどんどん握りしめる。
「苦しい…」
「これはあんたが今までしたことの報いよ。あんたは大事な娘を呪ったんだから。」
「おばさん…苦しい…」
「え!?」
私はいつの間にか美咲の首を絞めていた。 彼女は酷く咳をしていた。
「ごめん。あの人形だと思ってた。大丈夫?」
「苦しかったです。あの人形って?」
「あの気味悪い人形よ。」
私は指を差した。
「ミヤ子ちゃんのことですか?」
「そうよ。」
「ミヤ子ちゃんがあやちゃんのことを追い詰めるわけない。何かの間違いです。」
「引っ越し業者も建設業者も誰も知らない人形なのよ。あなたは子供だから分からないかもしれないけど私はこの家をよく見てるのよ!」
まるで彩葉に言ってるような感じだった。
「はー、こんなことで感情的になってもしょうがないわね。それであやちゃんが生きて戻ることなんてないんだから。人形のせいには間違いないけど捨てるつもりはないから安心してこれ以上私に失うものなんてないんだから。」
「あやちゃんが亡くなっちゃたなら私はもうママとあの人の所に戻らないといけないよね?」
「その必要はないわ。」
「どうしてですか?私おばさんの子供じゃないからそこまですることはないですし。」
「良いのよ。あなたが彩葉の分までしっかり生きないといけないから。」
「そうですね。」
「今日からあなたは美咲じゃない、彩葉よ。あやちゃんとして生きるのよ。」
「そんなことできません。」
「彩葉とあなたは一つでしょ。あなたがあやちゃんとして生きればきっとあやちゃんも喜んでくれるはずよ。」
「もうあの子の声は聞けないんです。あやちゃんの気持ちを聞き出すことなんてできないよ。」
「あなたならできるわ。」
「おばさんの気持ちは分かります。だけど私だって辛いんです。せめて最後に声を聞きたかったです。こんなんじゃ頭がおかしくなりそうです。そんなあやちゃんを侮辱するような行為私にはできません。」
「何か勘違いしてない?私とあやちゃんは一心同体なの。辛いなら今すぐじゃなくて良いから私の言ったこと考えて見て。お互い傷が癒えるはずよ。」
「もう良いです。」
「それなら気が済むまでここで休みなさい。しばらくは私以外と許可した以外の人は立ち寄らせないわ。良い?はやまったことはしないで。」
私は部屋を出た。そしてまた携帯が振動する。娘を失った悲しみに暮れているのに電話という攻撃が私をどんどん襲って行く。あのストーカー男からだ。着信拒否しても違う電話番号からかけて来る。何だか今度は家に来そうな感じがした。
あれからまた1週間が経つ。
「克也。」
「ただいま。飯はまだか?疲れてる。」
旦那は何ごともなかったような感じだった。
「ねえ、あやちゃんにあんなことが起きてどうしてそんなに平然としていられるの?私達の娘が亡くなったんだよ。理由も分からず自殺したんだよ!世界に一人にしかいない娘が亡くなったんだよ!」
私は旦那に怒鳴り、物を投げた。
「あのさ!」
「あなたは仕事仕事で全て育児を私に任せてきたよね?説教する時だけは父親ぶって。」
「明子!」
「私は何も悪くない。私はちゃんと娘と向き合ったのよ。」
「分かってる。お前は悪くないよ。」
「向き合ってないあなたに分からないわよね?」
「明子。お前は現実に向き合えてない。」
彼は私の肩に手をおいて見つめた。
「どう言うことよ…まだ私のことを追い詰めるつもり?」
「だって俺達の間に娘はおろか子供なんていないだろ。」
「何言ってるの?そんなはずないわ。」
「お前は不妊症なんだ。だから子供が作れる身体じゃない。それに代理出産や養子縁組の話も全くしなかっただろ?ずっとあやちゃんあやちゃんって言って意味がわからなかったけど架空の人物と話してたんだな。君には失望したよ。ありもしないものを作って毎回近所でもトラブルをお越したから。もしかして今日も病院で何か問題でも起こしたのか?」
「そんなのありえないわ。出て行って!私に失望してるならはやく宮内舞の所にでも行け!」
私は疲れていつの間にか寝ていて夜中に目が覚めた。娘がいた部屋が開いてたので私は入ろうとする。とても暗かった。床には一枚のメモが落ちていた。
「ごめんなさい、私家を出ます。」
美咲のメモだ。だけど私は手がかりなんて簡単に分かる。監視カメラや盗聴器に携帯にGPSアプリも入れてあるから。
「GPSは家のままね。それならこの家のどこかね。」
私は娘の部屋にある隠し扉を開けた。娘も知らない隠し扉のはずだ。
「どうしてここが分かったの?」
そこには美咲がいた。
「私ここに来たことがあるから。」
「ここに前住んでたこと?でも土地は元々家なんてなかったし、リホームの立ち合いは家族以外はできない。それにあやちゃんにも分からない部屋よ。」
「あやちゃんにも聞いてないの。でも何だかここに来たことある気がするの。だから分かる気がするの。」
「うそ、あなた顔が溶けてるわ。あやちゃん!あなたまでいなくならないで!」
「何言ってるの?私はずっとこんな感じだよ。」
美咲の目玉と鼻が床に落ちる。
「きゃーー!」
「ねえ、何が怖いの?あやちゃんって呼んでよ。あやちゃんとして生きるの。」
「来ないで。」
「ママ、あやちゃんって呼んで。あやちゃんって呼んだ回数人生で27万回くらいは呼んでるよ。ずっと数えてたんだよ。」
不気味な声を出して笑って行く。どんどん顔が溶けていき形が変わって行く。
「またあやちゃんって呼んでよ。あと150万回くらいはあやちゃんって呼んで欲しい。」
「あ、あなた、あやちゃん、いや美咲ちゃんでもない。ミヤ子よ!私のこと…」
彼女はミヤ子の姿に変わっていった。
「何言ってるの私が正真正銘彩葉だよ。ママ幻覚見るおクスリでも飲んだんじゃないの?」
「そんなの嘘よ!」
私のお腹がだんだん膨らんでいく。よく見ると日々が入って行く。
「また新しい私がここから産まれるね。」
「いや、そんなの嘘よ。やめて!お願い!捨てようとした私が悪かったのよ。克也の分も私が罰を受ける。」
彼女は無言のままだった。もう目の前にいるのが何者か分からなくなった。分かったとしてもまた別の誰かに変わってしまうのだから。
「明子、しっかりしろ!」
いつの間にか旦那が私をつかむ。
「いや、離してよ!」
大きな衝撃音が鳴った。
「誰だ!」
2人で恐る恐る玄関の方に向かった。
「あんたは…」
そこにはストーカー男がいた。
「克也、後ろ。」
男はナイフで克也の背中を刺した。床に血が垂れる。
「明子…苦しい…」
「レジーナさん、相田明子さんを傷つけるやつは許さない。」
私は何故かそこまで悲しくなかった。ストーカー男も追わなかった。通報もしなかった。家は凍ったかのように冷たく静かだった。また大きな嵐が過ぎ去ったような感じだった。
「あはは、はははは。」
私は甲高く笑う。笑いが止まらない。
「め、明子…助けてくれ!」
「この時をずっと待っていたのよ。やっと思い出したわ。理由は分からないけど苦しめる為にこの人と結婚したのよ。」
理由があるなら彩葉の為に違いない。彩葉が虚構の存在と言って蔑ろにした罰だ。




