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失う

「すみません、相田さんのお宅ですか?」

「多分誰もいないのよ。」

「放置しておくわけには行かないだろ。」

私はそれどころじゃなかった。

「どうしたの…?そのメイクと髪型…」

「ママ、何言ってるの?変えたのは髪型だけだよ。」

「驚きすぎですよ。」

「わたしたちの元々こんな顔でしょ。」

2人は甲高い声で笑っていた。その笑い声を聞くと鳥肌が立つ。それに絶対に彼女達の顔はメイクしてるようだった。

「あんまり変わったからびっくりしただけよ。」

「髪型似合ってないの?」

心配そうに私を見た。

「そんなことないのよ。2人ともよく似合ってるわ。誰か来てるみたいたがら2人とも部屋にいて。」

「分かった。」

私は玄関に向う。とても肌寒い感じだった。

「すみません、相田彩葉ちゃんのお母さんですか?」

「どちら様でしょうか?」

「河本美咲の母です。隣は主人です。」

「どういったご要件ですか?」

「うちの美咲が1週間前から行方不明なんです。」

「ここで話すのもあれなので上がってください。」

私は美咲の両親を客間に案内した。彼女の母親はかなり心配そうな顔だった。

「お茶をお出ししますのでこちらでゆっくりとお待ちください。」

お茶をテーブルに並べて行く。

「こちらお菓子も用意しました。」

「あがらせて貰って悪いです。」

「良いんですよ。これがうちの娘のことだったら気が気ではないですしほっとけないですから。どうして美咲ちゃんは家出されたんですか?差し支えなければ聞きますよ。」

「喧嘩とかもしてないです。私も主人もちゃんと面倒見たつもりです。何が悪かったのか本当によく分からないです。」

「心当たりがないんです。」

美咲の母の隣にいるのは再婚相手だ。

「他に心当たりないので誘拐されてないか心配なんです。警察にも捜索願い出しましたけど何も知らせがなくて。」

「そうですね。世の中物騒ですからね。私も美咲ちゃんのことが心配です。美咲ちゃんが他に行きそうな所には行ったんですか?」

「行きそうな所一軒一軒回りましたけど手がかりはありませんでした。」

「SNSとかは内緒でやってたりは?」

「ちゃんと制限してるのでそんなことできるはずはありません。」

「そうですか。はやく再会できると良いですね。」

「そう言えばなぜ今日私の所に?うちの彩葉は美咲ちゃんの家に行ったことありませんが。」

「親友の真理子ちゃんの母親から聞いたんです。」

「うちの彩葉も美咲ちゃんと親友ですよ。」

「そうですか。それは知りませんでした。真理子ちゃんは隣のマンションで昔からの交流があるんですよ。」

真理子と美咲は公園で何回かばったりあっては仲良くなった。5歳の時からの付き合いだ。美咲と彩葉が知り合ってより長い。

「良かったら美咲ちゃんが描いた絵が娘の部屋にあるので見ませんか?」

彼女は無言になった。

「そういう気分じゃないですか?」

「ぜひとも見させてください。」

彼女を彩葉の部屋まで案内した。

「あやちゃん、今大丈夫?」

「うん。」

「お客さんが来てるの。」

「分かった。」

「こちらが娘の部屋です。部屋には娘と美咲ちゃん、真理子ちゃん、理恵ちゃんが描いたイラストでいっぱいなんですよ。美咲ちゃんの自信作はこれじゃないかしら?」

「こ、これは何ですか…?」

「美咲ちゃんの大事な友達です。」

「まあ…美咲も素敵な作品描いたようね…」

「すみませんがこちらで御暇致します。」

「すみません。何か悪いことしました?」

「いえ、そうじゃなくて他にまわるところがあるので。」

「失礼します。」

美咲の両親はすぐに出て行った。


「あの奥さん普通じゃないな。」

「うん。美咲があんな絵を描くわけないわ。私の知ってる美咲は動物の絵しか描かないんだから。それに床一面壁一面天井一面にあの不気味な人形の絵と人形達気持ち悪かった。」

「俺もあそこは二度と行きたくないな。墓場にでも入ったような気分だ。」

「気味の悪いこと言わないで!」

「他になんて言えば良いんだよ?あそこを天国か何かとでも言えば良いのか?」

「あそこは生きる地獄よ。家を建て替えても一生あそこの空間にさまよう感じがするの。」

「怪談チャンネルが好きなんだな。」

「やめて!私は怖い話とか嫌いなの。だからあんな空間ごめんだわ。」

「そう言えばあの不気味な部屋に入る前美咲の友達の声が聞こえたのに入ると誰もいなかったよな。」

「やめて!それも話したくないの!私だって思ったよ。誰かに話したら何かされるかもしれない。」

「落ち着け。大丈夫だ。何も起きない。」

「そうよね…今は美咲のことだけを考えるわ。」


突然おしかける嵐が去ったような感じだ。

「あやちゃん、美咲ちゃん、もうかくれんぼはおしまいよ。」

「見つかりそうで大変だったよ。まさか部屋に誰か来るなんて思ってもなかったよ。」

「あやちゃんだって入れて良いって言ったんでしょ。それにしても何でママとあの人を部屋に入れたんですか?」

美咲に聞かれた。

「美咲ちゃんのママとパパがせっかく来てくれたんだから美咲ちゃんの描いた絵を見せたいと思って。」

「勝手なことしないでください。どうせママは私のことどうでも良いと思ってるので。それにあの人とも一緒にいたくないので。」

「不快にさせたようだったらごめんね。私はあなたを止めるつもりはないわ。」

「私はこれからあやちゃんとミヤ子ちゃんと一緒に生きてくつもり。」

私は部屋を見回した。今となっては不気味な絵が張ってあって不気味な人形がある部屋を見ても私は何とも思わなくなった。

「それは素敵な生き方ね。私にできることがあったら何でも言ってね。」

私は部屋を出た。


「少しは整理しないといけないわね。」

私は書類をファイルにまとめていった。

「これはこっちに、これは捨てる。」

要らない紙がどんどんビニール袋をふくらませていく。

「これはいったい…」

私は卒業アルバムを開いた。

「私、卒業アルバム残してたんだ。」

あまり記憶にないが私は小学生時代も中学生時代も楽しい思い出なんて特になかったので残していても意味の無い紙の塊だ。充実した人にとっては貴重で濡らしたり燃やしたりすることも許されない紙だが、私や一部の人にとっては燃やしても特に何も思わない紙の塊。地球環境のことを考えるならば彩葉の教科書などに再利用しても良いような紙の塊。

「こんなものいらないのに。」

自分の中ではもうとっくに捨てていると思ったが記憶違いだった。

「小学生時代の私、変わってないね。」

自分の写真を5分間眺める。

「ねえ、あなたはどんな人だったの?私は私だよね。」

もちろん答えるはずがない。ずっと無言のままだった。私も同じように無言で私自身を見つめる。

「きっと今と変わらないね。」

他の同級生を見たが誰とも深い関係はなかった。

「えっ、何かしら?」

私は顔と名前だけ黒く塗りつぶされた女子生徒を見た。ずっと見てるとブラックホールのように吸い込まれるような感じがした。マーカーで後から塗りつぶしたような感じではなかったし、消しゴムやアルコールを使っても消えることはなかった。むしろ黒がどんどん深くなっていく。この塗り足した黒は最初からあったのだろうか?そもそもこの女子生徒は何も分からないしどこの誰なのかも手がかり一つもなかった。手がかりを探そうと思っても聞ける仲の良い友達など1人もいない。

「あなたは誰なの?」

昔の私と同じように語りかける。

「私のこと忘れてたの?」

「悪いけど思い出せないの。」

「本当に?」

「うん。」

「中元明子さんなら思い出せると思ったのにな。」

中元は私の旧姓。

「誰なの!教えてよ!」

後ろに誰か立ってる感じがした。振り向くと大きくなった人形のミヤ子だ。

「本当に思い出せないの?」

「本当に思い出せないの?〇〇さん可哀想。」

「〇〇って何?はっきり言って!」

「あれだけのことしておいて思い出せないの?」

「私が何をしたって言うのよ!私は潔白よ。今までの人生で誰かに恨まれるようなことはしたことない。」

「思い出せないならしょうがないね。」

「来ないで!」

「後ろをみてご覧!」

後ろを見るとアルバムの塗り足された黒から両腕が出て来て私のことをつかみかかって来た。

「離して!やめて!」

「はやく入りなよ。」

「私はこんな所で死ぬわけにはいかないの!」

「そうはさせないよ。もし抵抗するなら一番大切なものを奪ってやろうかしら?」

「それだけは…やめて!やめて!」

私はアルバムの中に吸い込まれた。

「私を出して!」

「ママ、何してるの!」

「おばさん!」

私はいつの間にか娘の部屋で寝ていた。

「突然何も言わないで部屋に入って行くからびっくりしたよ。」

「てっきりあの継父がまた入ってきたのかと思ってびっくりしました。」

「私はいったいここで何を?」

「何って?卒業アルバム持って入って来たんだよ。」

「そしたら突然暴れるもんですから。」

「私そんなことしてたの?」

「うん。」

もしかしてミヤ子と言う人形は誰か分からない同級生と関係してるのだろうか?そんなことを考えていた。

「ごめんね。2人が仲良く遊んでた所を邪魔しちゃって。」

私は再び娘の部屋を出た。

「今日は変なこと続きよ。」

私は編み物を編んでいってミシンでどんどん作品も作っていく。今度のマルシェに向けて。珍しくそのマルシェでは旦那が彩葉を連れて来てくれることを約束してくれた。旦那は私の活動に関しては興味がない。ハンドメイド作家として活動はじめたのは子育てが落ち着いてからだったから特に気にするようなことではなかった。

「もしもし、宗治君。」

「もしもし。明子さん、突然どうしたんですか?」

「何となく電話したくなったのよ。特に意味はないわ。」

本当は来て欲しかったけど言えるわけなかったた。

「きゃーーー!」

「宗治君、どうしたの?今の悲鳴は?」

「いや、それが…近くで飛び降り自殺が起きたみたいで…」

「そんな…」

何だか嫌な予感がした。

「ごめん。電話きるね。」

私は電話をきって彩葉の部屋にいったが彩葉も美咲もいなかった。家中をくまなく探した。すると2階のベランダに彩葉がいた。 

「何してるの?」

「私もう限界なの。」

「あやちゃん、はやまったことはやめて!どうして?」

「生きていくことが辛くて辛くてたまらないの。」

「死んで良い権利なんてないの。」

「どんなに辛くても?」

「私が話を聞くから戻って来て。」

「近づいたらこれで刺すよ!」

ナイフには人形が刺さっていた。思わず倒れてしまった。

「邪魔をしないで。」

そして彩葉はベランダから飛び降りた。

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