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新築

「わー、やった!新しい家だ!」

今日はこれまでにない快晴だ。雲一つない。引っ越し業者がどんどん荷物を運んで行く。

「お前、新築だから汗をぼたぼた落とすんじゃない。これで汗をふけ。」

「すみません。」

「うちの金井がすみません。」

「良いんですよ。こんなに大きな荷物を運んでいたら汗の一つくらいかきますし。」

引っ越し業者の男性はこぼれ落ちた汗を拭いた。しつこい営業もなくとても親切な対応な引っ越し業者だ。旦那の克也も満足していた。相田家の大黒柱だ。

「うわ!」

「大きな声出すな。おい、向き出しの状態で運ぶなんて言語道断だろ。このお客様は梱包するお任せプランのお客様だろ。把握してないのか?まったく。」

「すみません。でもこの荷物引っ越し元では見なかったですし、これ不気味じゃないですか。」

業者の男性2人は梱包されてない荷物を見て無言になった。

「もしかして有本さんもびっくりしてるすか?」

「び、びびってなんなかない。そんな余計なことを気にするな。これはこっちの確認不足だ。次からないように。」

「分かりましたよ。」

「何か問題でもありましたか?大丈夫ですか?先ほど大声を出されてましたので。」

私は心配そうに業者の男性2人に言った。

「お騒がせしました。特に何も起きてませんのでご安心ください。」

そして最後の荷物が運ばれた。

「荷物は以上です。」

「本当にご丁寧にありがとうございます。」

「こちらこそ当社をお選び頂きありがとう御座いました。」

彼らはその場を離れる。


「あの家、何かおかしくないですか?」

「金井、お客様のプライバシーに関わることを簡単に話すな。」

「いや家族じゃなくてあの家ですよ。引っ越し元にはあんなものなかったからあの家が関係してますよ。あの人形一瞬目が動いた気がするんですよ。」

「確かに俺もこの目で見たけど俺達が何とか出来る問題じゃない。」

「やっぱり見たんですね。怖いんですね。」

「もうやめろ。今日見たことは忘れた方が良い。」

2人は次の現場に向かった。


「あやちゃん、ここがあやちゃんの部屋よ。」

私の娘、彩葉は部屋に入った。彼女は相田家の一人娘。

「やったー!ここ本当に私の部屋なんだよね?」

「もちろんよ!あやちゃんの好きな青に、イルカのドット模様もつけてもらったのよ。」

「ママ、ありがとう!」

彩葉は私に抱きついた。

「私はあやちゃんの為なら何でもするし、もちろん悪いことをしたらちゃんと教える。ママとしての役目を果たしたまでよ。それとパパにもちゃんとお礼を言うのよ。」

「うん、分かった。パパー!」

「何だ?」

「パパ、ありがとう!こんな素晴らしい部屋嬉しい。」

娘はとても礼儀が正しく、子供らしさもあって、旦那は何でも対応がはやい。

「あとあやちゃんに見せるものがあるの。」

「何?ママ!」

「ここは?」

「あやちゃんの勉強部屋よ。」

勉強部屋は白い壁に葉っぱがたくさん描かれていた。

「ここ勉強部屋なの!可愛い!」

「あやちゃん、この部屋は勉強部屋なの。勉強大変だと思うけど一緒に頑張っていこうね。」

「うん、もちろん頑張るよ。ん?ママ、どうしたの?」

「何でもないよ。あやちゃん、荷物の整理お願い。」

「分かったよ。」

私は偏頭痛を持ってる。まだ今日は良いほうだけどすごい時は寝込まないと辛い時もある。だけど娘の前ではそんな姿を見せたくない。

「パパ、この写真2年前に撮った写真だね。カシューナッツ園でナッツ集めをした時だよね。それにこれ、タイに行った時の写真。もう一度私のこと連れてってよ。」

「そんなこともあったな。彩葉が良い子にしてたら連れてってやる。」

「またそれ?良いよ。でももっと良い子にしてたら今度は北海道に連れてってよ。」

「彩葉は容赦がないな。」

旦那の克也と娘が楽しそうに話してる様子が聞こえる。電気の消えた部屋で寝込んでいても2人の声はよく聞こえる。愛する2人だから。

「ママはどこにいる?」

「多分ママの部屋で作業してると思うよ。」

「分かった。」

克也の足音が近づく。私は暗闇の中たくさんあるぬいぐるみと目が合う。きっとぬいぐるみが私のことを応援してくれてるんだ。そう思えば気持ちが楽になる。

「明子!」

旦那がノックをする。

「何?」

「入って良いか。」

「良いけど。」

旦那が部屋に入って行く。

「明子、部屋を暗くして大丈夫か!」

「ちょっと頭が痛かったの。」

「何か買ってやろうか?」

「良いの。動けないほどじゃないから。」

「そうか。それなら聞きたいことがある。」

旦那と掃除道具をどこに置くか家具をどうするか話し合った。

次の日体調が戻り引っ越し作業の続きをした。

「これはこっちね。ん?これは何だっけ?」

私はある箱を手に取る。

「こんな木箱あったかしら?」

箱を裏返した。

「いや、何よこれ!何これ!いや!」

ケース越しで人形の目が動いた。とても怖くなり私は思わず悲鳴をあげた。

「ママ、どうしたの!ママ!」

「明子、大丈夫か!怪我したのか?」

「違うの。人形の目が動いたの!こんなもの私達持ってないのに何であるの?」

「目が動く?」

「明子のものじゃないのか?」

「私はこんなもの持ってないわ。もしかしてあやちゃん、どっかから拾って来てないよね?」

「ママ、私そんなの知らないよ。」

「そうよね。あやちゃんがそんなもの拾ってくるわけないわよね。それならあなたなの?」

旦那に聞いた。

「俺もそんな人形知らない。日本人形集めるとかどう言う趣味してるんだよ。」

「そうね。」

「それならあの引っ越し業者の仕業だ。何かの不備でここに来たんだろ。今からクレームの電話入れる。」

旦那が言った。

「やめて。」

私は大声で返した。

「人形の目が動くなんてたまたまよ。それに引っ越し業者の方すごい丁寧だったし、わざわざそんなことするわけ?そうは思わないわ。」

「だけどそう言う可能性だってないわけではないだろ。だからクレーム入れる。」

旦那の手を止めた。

「大丈夫よ。きっとこの人形元々あったものよ。」

「ここは新築だぞ。そんなことありえない。」

「もう良いのよ。私が過剰に騒いだだけ。ごめんね。」

「見逃すわけにはいかないだろ。」

「克也、良いの。きっとこの人形もここが気に入ったのよ。それにあやちゃんが人形に興味津々だし。人形はこの書斎に置こうね。」

「勝手にすれば良いよ。」

人形をケースから出して保管した。何だか前より人形が元気になったような気がする。

「ママ、この人形綺麗だね。」

娘が言った。私は不気味だと思ってたけど娘がそれを気に入ってるなら私は娘の意思を尊重する。人形と引き離して娘が酷く落ち込むくらいならこの現実を受け止めたほうがずっと良い。

「きっとこの子、この家を守ってくれたのね。これからもよろしくね。」

喋れない人形に私は一方的に言葉を投げかけた。

「この子名前があるの。」

「あやちゃん、どんな名前かしら?」

「ミヤ子ちゃんだよ。」

「ミヤ子ちゃん。素敵な名前だね。」

「もう私達友達なの。人形だけど、大事な友達なの。」

娘がそれで幸せなら、きっとこの人形は何か幸運をもたらす人形に違いない。

「今日は引っ越し作業お疲れ様。お風呂沸かしといたからあやちゃんもあなたも風呂に入ってね。」

「分かったよ。」

「ママ、ありがとう。」

3日で引っ越し作業は落ち着いた。

「ママ、部屋が完成したから見て。」

「どれ?」

娘の部屋に入った。

「何だか素敵な部屋ね。」

部屋を見るとたくさんのぬいぐるみが綺麗に飾られていた。

「きゃーー!」

「ママ、どうしたの?」

「なんでもないのよ。」

何でもないわけじゃない。娘の部屋にあの人形があると思っていなかった。娘がきっと移動させたんだろう。そう思った方が良い。不気味な人形で心配になるが娘をちゃんと信じるつもりでいる。

「克也、今日仕事どうだったの?」

「今日はいつもと違う一日だ。」

「何事なかったのね。それならたくさん携帯触れそうね。」

「公務員を何だと思ってるんだ。世間が思ってるほどだらだら働いてるわけじゃない。」

「そうだと良いけど。」

彼は区役所で働いてる。給料は安泰だ。

「それより彩葉は大丈夫なのか?」

旦那は食器を流しにおいて言った。

「あんな気味が悪い人形と話してておかしいと思わないのか?」

「何がおかしいのかしら?」

「12歳ならもっと友達と遊んだり、中学生になった時どうするかとか考えても良いだろ。もう幼稚園児とかじゃない。考えられる年だ。」

「あやちゃんはちゃんと現実と向き合ってるし、日に日に大人になってるの。それに中学校に行く子が皆ちゃんとした大人になってるわけじゃないでしょ。」

「中学校に行くのは子供の義務だし、通わせるのも大人の義務だろ。いや国民としての義務だ。うちは変な宗教団体とかではないんだよ。」

「あやちゃんが行きたくなくても止めるつもりなの?あの人形は何も問題ないわ。あやちゃんの幸せを奪うような行為はやめて。」

私は寝室に行った。

「明子。」

扉越しから旦那の声が聞こえる。

「さっきは言い過ぎた。だけど分かって欲しかった。彩葉は君だけの子供じゃないし、あの人形が彩葉に何かしたら心配だと思ったんだ。」

「これ以上この話するのはやめて。親同士の喧嘩なんて見せられた子供の気持ちも考えないと。私もヒートアップしてた。今後は気をつけるつもりよ。」

「電話だ。」

家の固定電話が鳴り響く。

「母ちゃん!今度の土曜日うちに来てくれるって?分かった。明子と彩葉にも伝えておく。」

「明子さん、体調は大丈夫かね?結婚当初から頭痛や生理痛にかなり悩んでいたから。」

「ちょっとイライラしてるだけで特に問題ないよ。」

「克也、本当に奥さんを大切にしなさい。あんたが大丈夫に見えても明子さんが我慢してるかもしれないのよ。」

「分かったよ。母ちゃん。」

旦那は電話を切った。また扉越しで話す。

「明子、今度母さんが来る。」

「お義母さんが?早速新築を見せたい所ね。」

「だから新築を祝ったパーティーでも開くぞ。」

義母は本当の母親のように私に優しい。私が体調を崩した日とかにはすぐに駆けつけてくれたこともあった。義母から嫁いびりを受けたことはない。仲良く関係を保ってる。子供が出来てからも義母は私に優しいし、彩葉のこともたくさん可愛がった。

「たくさん買い出ししないといけないわね。」

私は部屋を出て言った。


「今日、おばあちゃん来るんだって?」

「そうよ!おばあちゃんと会うの久しぶりで楽しみなんでしょ。」

「うん、だっておばあちゃんのこと大好きだから。」

旦那は無言で準備をする。

「ごめん、あやちゃん、克也、今手が離せないから電話出てくれない?」

「分かった。彩葉、パパが出るから準備してて。」

旦那が受話器を取った。その1本の電話で私達の運命は変わってしまう。

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