プロローグ:月夜の窮地
リオは鋼のように硬い意思を持つ、エルディア王国の最強の騎士だった。彼は数々の戦場を駆け抜け、その名を轟かせていた。しかし、この夜、彼はこれまで経験したことのない絶望に直面していた。
エルディア王国の防衛戦は激しさを増していた。敵国の軍勢は押し寄せ、リオたちの守る城壁に次々と攻撃を仕掛けてきた。リオは剣を振りかざし、次々と敵を打ち倒していたが、彼の直感は何か不吉なものを感じ取っていた。
「これは、ただの戦争ではない……」
そう思った瞬間、背後から強烈な魔法の衝撃波が襲ってきた。リオはとっさに防御の態勢を取ったが、その力は彼の想像を超えていた。彼は吹き飛ばされ、石畳の地面に叩きつけられた。
「何だ……この力は……」
立ち上がろうとするリオの前に現れたのは、敵国の強力な魔導士だった。その目は冷酷な光を宿し、不敵な笑みを浮かべていた。
「リオ、エルディアの英雄と呼ばれるお前が、ここで終わるとはな。哀れだな。」
魔導士の言葉に反応する間もなく、再び強力な魔法がリオを襲った。彼は全力で抵抗したが、数々の魔法が彼の身体を縛り、動きを封じた。
「こんなところで……」
リオは必死に立ち上がろうとするが、魔法の鎖は彼を逃さない。周囲には敵の兵士たちが迫り、彼の逃げ場は完全に塞がれていた。
その時、月が雲間から現れ、銀色の光が戦場を照らした。不思議なことに、その光はリオに向かって集まり始めた。リオは目を細め、その光を見つめた。
「これは……」
突然、リオの周りに光の結界が現れた。結界は敵の攻撃をすべて跳ね返し、彼を守るように包み込んだ。敵兵たちは驚き、混乱の中で退散し始めた。
「何が起こっているんだ……?」
リオはその光の中で意識を失いかけたが、最後に見たのは、遠くから彼を見つめる謎の少女の姿だった。その瞬間、彼の意識は完全に途絶えた。
次にリオが目覚めたとき、彼は見知らぬ場所に横たわっていた。青々とした草原と清らかな川が広がり、鳥のさえずりが耳に心地よく響いていた。
「ここは……どこだ?」
リオは立ち上がり、周囲を見渡した。その時、彼の前に現れたのは、かつての仲間であり、彼が守ることを誓った王女リアナだった。しかし、彼女の姿は以前と少し違って見えた。
「リオ、あなたが目覚めてくれて本当に良かった。」
リアナの声は柔らかく、しかしどこか悲しげだった。リオは彼女に近づき、手を差し伸べた。
「リアナ、一体何が起こったんだ?ここはどこだ?」
リアナは深く息を吸い込み、リオの手を握り返した。
「ここはエルディアではないの。私たちは、異世界に来てしまったのよ。」
その言葉にリオは驚愕したが、リアナの瞳に宿る決意と悲しみを見て、彼は全てを理解した。この異世界で、彼らは新たな冒険と試練に立ち向かわなければならないのだと。
「リアナ、安心して。俺が必ず君を守る。そして、エルディアに帰る方法を見つけよう。」
リオの言葉にリアナは頷き、二人は新たな世界での冒険に向けて歩み出した。月夜の光に導かれたこの出会いが、彼らの運命を大きく変えていくことを、まだ誰も知らなかった。