才能
人生の転機はとうに過ぎたのだろうか。それともこれから先に待ち受けているのか。毎日が岐路なのか、転換の瞬間なのか、見極めようにもなかなか難しい。昨日まで知らなかったこと、3年も経ってからやっと見つかった答え、そして、今目の前に現れた新しい目標を達成するためには何が必要か、チョコレートをひとくち食べれば何とかなるかと紅茶を入れながら考え込む。
いくら舌の上でチョコレートを転がして唸ったところで簡単に結論など出せるものか、生きることを甘く見るものではないと左脳が語りかけてきたかと思えば、右脳はポテトチップスの袋でも開けようと呑気で好き勝手なことを言い出す。頂上からの指令を聞いた心は溜息をつきながら、緑茶でも飲むかと現実逃避を試みようとする。
気が付けば、小さい鍋で早めの晩ご飯を煮込みはじめて生姜入りの醤油の匂いを嗅いで無の極楽に浸っている。
愚かだこと。なんと滑稽だこと。この正直者は全ての声と誘惑に見事に打ち勝って最も理想的な解答を作り上げた。
静粛に。左脳、右脳、心。本体の本能に倣え、いち、に。これより、思考を目覚めさせる肉じゃが、白飯、豆腐とネギの味噌汁を味わう時間に入る。全員、本体が食べ終わるまで私語を禁ずる。
箸を持て。夕げに集中。よーい、めしあがれ。