【短編】ヴァリアブル・ストーリー 〜2人の少女の開拓譚〜
〘ヴァリアブル・ストーリー。
このゲームには、ストーリーなどが存在しない。〙
事前情報としてそう発表された時、ゲーマーたちは違和感を覚えた。
はたしてこれはゲームなのか、と。
確かにストーリーが存在しないゲームは多々ある。バトルロワイヤルもののゲームや、どこぞやのクラフトゲームなど。
しかし、これはVRMMOだ。
勇者となり魔王を倒す。国を作る。そんなことを自分の体で体感しながらできるのがVRMMOの良さではないか。
全国のゲーマーが同じようなことを思い、たくさんの人がこのゲームは制作打ち切りになるだろう、と悟った。
──そして迎えた翌日。
ゲーマーたちが打ち切りを発表すると思った、2回目の事前情報の発表。その内容は──
〘ストーリーがない。それはつまり、君たちがすべてを作り上げる、ということだ。
はじまりの町、ナチャーチ。最初はみな、この場所にスポーンする。ここには我々が準備した建物やギルド、王城などが存在している。
しかし1歩、外に出てみると人工物のない自然がほぼ無限に続いている。
無論、イベントなどは開催するだろうが、このゲームの主旨は、
自由、だ。〙
──眼を見張るようなものだった。
大勢のゲーマーは面白そうだと歓喜した。今までに、ここまで自由なVRMMOはなかったからだ。
また、1部のゲーマーは悔しがっていた。運営側の注目を集める手段に、まんまとはめられたからだ。
これは、そんなゲームに挑む1人の少女の物語である。
☆
高校1年生の夏休み前、最後の1日。
成績はそこそこよかったわたし──赤羽更紗だけど、特に進学する気もなかったので、親友と一緒になんの変哲もない普通の高校に通っている。ただ今、絶賛高校までの地獄の坂道を登ってるところです……。
私になにか特徴があるとすれば、MyTubeでゲーム動画を投稿してることくらいかな? 最初は趣味で始めたのに、今となっては登録者10万人超えのちょっとした有名人になっていたけどね。
あ、そうそう。もう一つ特徴があったよ。
実は、生まれてこの方VRMMOってジャンルのゲームをしたことがなくてね。他のジャンルのゲームは、結構やってたりして、いくつかは世界ランキングにものったことがあるんだけど、VRMMOにはそんなに興味がわかなくてね。
だってVRMMOってある程度はすることが同じなんだよね。
ストーリーをクリアして、レベリング。クエストとかボスをクリアしてつよつよ武器・防具をゲット。
ね? だいたいはこんなものなんだよ。
だからわたしがやってるゲームは、某レースゲームや某クラフトゲーム、某インクゲームなどなど。まぁ、ストーリーがないやつばっかだね。
っと、そんなこと考えてたら、いつの間にか教室の前だった。
わたしは、いつもどうり教室のドアを開けてすぐに後ろに下がる。
すると──
「さ〜ちゃ〜ん! おっはよ〜〜! って、わわっ!?」
わたしに勢いよく抱きついてこようとして、案の定きれいにこけた。
「いったぁ…」
「そんな毎日同じようなことしようとしたら、さすがに対策するって……」
「この舞依様の愛を受け止められないって言うの!?」
「うん」
「ひどいよぉ…」
月乃舞依。小学生の頃からの親友の1人。朝からなんでそんなに元気あるの?ってレベルで、元気いっぱいの子。この子は私と違って、VRMMOがめっちゃ上手なんだよね。MyTubeではVRMMOの配信をよくやっている。だから、わたしにもよく勧めてくるんだよね。まぁ、今のところはする気はまったくないんだけど。
「あ、そうそう! 聞いてよさーちゃん!」
ようやく教室の入り口から開放されて、窓際最後尾にある自分の席に向かっていると、舞依がそう話を持ち出してくる。
「VRMMOの話以外なら聞いてあげようかな」
「そのことってわかって聞いてるよね!?」
「あはは、それでどうしたの? また世界ランキングの上位にでもなったの?」
「それも無いことはないんだけど、そうじゃなくて!」
「無いことはないんだ」
さすがのゲームセンスだね。まぁ、VRMMO以外ならわたしにはかなわないけど。
「なんと、あたしたちが夏休みに入る明日! 新作のVRMMOのゲームが発売されます! いえ〜い!」
廊下まで届きそうな声で、舞依はそう宣言した。
わたしは少し顔に笑みを浮かべながら、舞依に尋ねる。
「ほほう? VRMMOはしないって言ってるわたしに、舞依がそのことを伝えるってことは、他の作品とは何かが違うってことなのかな?」
「そうそう! 舞依がVRMMOはしないって言ってるのは、どの作品もすることがだいたい同じだからなんでしょ? だったら、ちょっとこれを見てくれない?」
そう言って、舞依は校内では使用禁止のスマホを取り出して、冒頭にあるつぶやきをわたしに見せる。
なるほど、ね。
「まるで、わたしにVRMMOをして、とでも言ってるようなゲームってことか。そりゃあ、舞依もわたしに勧めたくなるわけだね」
「そうでしょそうでしょ! どう? してみない?」
スマホをしまい、机に座っているわたしの前から身を乗り出して、わくわくしているような表情で聞いてくる。
正直、面白そうと思ってるんだよね。
わたしのゲームスタイルに合っていることもあるけど、やっぱり舞依と一緒にゲームができるってのが結構楽しみだったりする。
ただ、VRMMOの自由っていうのがどこまで自由なのかわからないこともあるしなぁ……。
「最初はお試しってことでやってみない?」
「う〜ん、そうだね。わたしも舞依と一緒にゲームしてみたいし、そこまで勧めてくるのなら、やってみようかな」
「おぉ〜! 嬉しいこと言ってくれるじゃんよ〜! ツンデレか〜?」
「やっぱ1人でしようかな?」
「あ〜、ウソウソ! 冗談で〜す!」
ガラガラガラ。
「みんな、おはよ〜! よし、今日も元気に……って、舞依? なんでスマホを出しているんだ?」
「あ、え〜っとですね、先生? ちょっと調べものをしてまして……」
「なるほどなぁ。で、更紗。舞依は何をしていた?」
「ゲーム情報見てました」
「よし、没収!」
「さーちゃん!? そこは助けるところでしょ!?」
☆
夏休みに入った日の朝。
わたしは、開店と同時にお店に入り、VRMMOに必要な器具とソフトを買い、今は家で舞依と電話しながら準備を進めていた。
「これでオッケー?」
『そうそう! それじゃ、ゲームを始める前に水分補給と食事、お手洗いはした?』
「大丈夫、ちゃんと全部したよ!」
『よしっ! じゃあ、ヘッドギアを頭にはめてゲームスタートって言ったら始めるから! 始めたらゲーム内で会おうね! 名前はいつもと同じだからすぐ分かると思う!』
「わかった。わたしもいつもと同じ名前だから。それじゃあ、またゲーム内で!」
『うん!』
電話を切り、わたしはヘッドギアをもってベッドに横になる。
そして、ヘッドギアを頭にはめて──
「ゲームスタート!」
☆
〔接続を確認──成功〕
〔続いて、視覚の接続──成功〕
〔聴覚の接続──成功〕
〔嗅覚の接続──成功〕
〔味覚の接続──成功〕
〔触覚の接続──成功〕
〔最後に、意識の接続──成功〕
〔ゲーム:ヴァリアブル・ストーリーを起動します〕
〔ヴァリアブル・ストーリーにようこそ!〕
〔このゲームへの初めての接続が確認されましたので、キャラクター作成に移ります〕
〔あなたの名前を入力して下さい〕
(へぇ、よく出来てるなぁ。もう現実世界の感覚がないや。これは、なんか目の前にある半透明のキーボードに入力できるのかな? え〜っと、saraっと)
〔続いて、キャラクリに移ります!〕
(うわっ!)
なんかもう、すごかった。
性別は自動で脳から読み取られるらしいのだが、そこ以外は細かく設定できた。
目や髪の色は、聞いたこともないような色まであるし、身長から手足の大きさ、スリーサイズまでも決めれるようだね。
そんなこんなで、いろいろ決め終えると──
〔これにてキャラクリは終了です! それでははじまりの街、ナチャーチに行きます! このゲームを楽しんで下さい!〕
☆
「おぉ……すごい……」
中世のヨーロッパを意識したような街だった。レンガの道や建物、それがあたり一面に広がっていた。
ただ、わたしが驚いたのはそっちじゃなくて、
「現実みたい……」
初めてのVRMMOっていうこと。
すると──
「サラ〜!」
そう言って、わたしに勢いよく抱きついてきた。もちろん、舞依だね。
「はいはい。ムーンは現実と同じことしないの」
「そんなことより、早くこっちに来てっ!」
「わわっ!?」
舞依はそう言って、わたしを街の外まで引っ張りながら連れて行った。
街の入り口である門を抜けると──
「うわぁ……」
なにもない大自然が広がっていた。
ゲームでよくある隣町が見えたり、道が整備されていたりといった人工物が一切ない。
「ここにあたしたちがなんでも作れるんだよ!」
そうだよ、わたしはこれを待っていたんだ。
「これこそ、わたしが待ち望んだゲームだよ!」
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