本当の姿と人から見た姿
ある国のある名高い城に住む一人の綺麗なお姫様は、毎日毎日泣いていた。
涙という形を持って悲しみを表現する日もあれば、唇を噛み締め身体を震わせ顔を覆う日もある。
綺麗なお姫様の父親は国を愛し国民の為に才を揮い、母親は気高くも国民に愛される程の親しみやすさ、息子に娘に向けるであろう愛情で国を包む。
国民がこの国に生まれて良かった、と吐露する言葉に嘘は無い。
綺麗なお姫様は泣いていた。
豪華に飾り付けられた自分の部屋で、傍に控える執事に涙に声を震わせこう溢した。
「外見が良くてもこの国は汚いわ」
両目を真っ黒な布できつくきつく縛っても見える汚い部分に毎日毎日涙を染み込ませる。
吸いきれずに溢れた涙は赤く色付いた頬を伝い、絨毯に消えていく。
普通の人間には見えないであろうものが見える、綺麗な綺麗なお姫様は、汚いことがとても嫌いだった。
汚いもの、それは性欲であり欲望であり暴力であり、人間の汚い部分だった。
執事は思った。
「なんでここまで心が綺麗な姫様が生まれたのだろうか」
次の日、お姫様は泣いていなかった。
家族での食事は楽しいと、汚い部分を持たない父親と母親と幸せそうに会話をしていた。
だが部屋に戻り、鼻歌とともに高級なカーテンを開くと小さく悲鳴をあげた。
「汚い、汚い、はしたないわ」
執事が急いでカーテンを閉めるも、行動が遅かったらしく、綺麗なお姫様は部屋の隅で縮こまり身体を震わせていた。
用意された水を差し出すも、綺麗なお姫様はそれを払ってしまった。
自分の行動に驚いた綺麗なお姫様は、唖然とした後、また泣いてしまった。
「ごめんなさい」
そう一言呟き泣き咽る。
執事は思った。
「自分のことも許せない姫様はとても可哀想だ」
この綺麗なお姫様は、世界に汚いものがあるのが許せないのだ。
だから、人の善意を無碍にした自分が許せない。
ごめんなさいと一言だけ呟いて、後は泣く泣く綺麗なお姫様は、とても可哀想だった。
違う日、綺麗なお姫様がまた泣いていた。
執事が何故泣いているのかと聞くと、
「わたくしがとても汚いものだったから」
執事は首を傾げ言った。
「こんなに綺麗なお姫様が汚いわけがないでしょう」
疑問を口に出すと、綺麗なお姫様は大きな大きな窓を指差した。
「わたくしは、あそこの窓から見える、この国一綺麗な人と誉れる人物を見ていました。
ですが、あの人は汚い、汚いのです。
なのにあそこまで人に好かれて、わたくしはずるいと思いました。
わたくしはこの国一の嫌われ者です。
ずるい、ずるい、汚いわ。とわたくしはあの人のことを見てそう思いました。
そんなことを思うわたくしはとても汚いもの。わたくしは自分が許せないのです」
綺麗なお姫様は、その綺麗さゆえに嫌われたと言っても過言では無い程の人物だった。
汚いものから目を逸らし、良いことを行おうとしても汚い部分が目に入ってしまい、うまく動くことのできないお姫様は、何もしない無能の姫様だと酷評を浴びている。
そんなことを言う国民からも目を背け、綺麗なお姫様は日々泣いていた。
可哀想なお姫様を見ていた執事は、綺麗なお姫様を一人残して部屋を出て、呟いた。
「そうやって毎日毎日泣き泣き過ごす姫様は、私にはとても汚いものに見えます」
童話風に挑戦。だが無理だった結果。
補足
人間は皆優しいと信じて、汚い部分を信じない。綺麗な部分だけを人間だと認識しているお姫様には、皆が理解できないし、自分も理解できない。
他の人たちは汚い部分を含めて人間だと思っているから、お姫様が泣いている理由が分からない。
ちなみに、国の上に立つ人が汚い部分が無いわけが無いですよね。
これはお姫様が目を逸らしているだけ。
執事は自分たちに何もしてくれずに、毎日をただただ泣いて過ごすお姫様に愛想を尽かしている。
社会に適合できない人は長生きしないし、良い思いをしない。
可哀想なお姫様のお話。




