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8.人の営み (2)


 魔物たちは山の中腹あたりに巣食っていた。


 魔物化していたのは狼の群れだった。単体ではそれほどこわい相手でもないが、下手に飛び込めば数の暴力で思わぬ事故を生むかもしない。

 ガロンは平気にしても、リティシアが怪我をするのは避けたいところだ。


「相手はたぶん、狼が魔物化したものだな」

「ここからわかるんですか?」

「ああ、なんとなくだが」


 感知した気配を勘で分析して判断したことだが、おそらく間違ってはいない。


 狼がめんどうな点は連携がとれていることだ。

 リティシアには離れてもらいガロンが単独で突っ込むというのが一番話は早いが、リティシアがそれを許さない気はした。

 それにリティシアが単独になる、というのはそれはそれで危ない。


「狼、となると厄介ですね。たぶんそれは群れごと魔物になっているかもしれません」


 リティシアは考え込む。


「迂回するという手もあるかもしれませんが、反対側から登るのは時間がかかりますそっちも通れるという保証はありませんし……」


 ガロンは勘違いをしていた。

 今回の依頼は討伐ではなく、山頂付近にあるはずの薬草を採取することなのだ。

ようするに狼を討伐する必要は何もない。


 狼は賢い生き物であり、たとえ魔物化していようとも絶対に敵わない相手には向かってこない。

 つまり、戦いをさけるならば絶対に敵わない相手であると認識させればいい。


「いい考えがある、任せてもらっていいか?」

「いい考えって?」

「まあ見てろ」


 ガロンは眼をつぶっておおきく深呼吸した。一拍おいて眼を見開き、山頂まで薙ぎ払うように殺気を飛ばした。


 素晴らしい成果が得られた。


 魔物化した狼であろう、キャインキャインという情けない鳴き声が大量に聞こえた。ガロンは狼が逃げたことを確信する。


 しかし狼の鳴き声は、よく耳を凝らさなければ聞こえなかった。

 山は、天変地異でも訪れたかのような大音響で満たされていたのだから。


 当たり前なほど当たり前な話ではあるが、魔物が逃げる、ということはそれ以下の動物にはもっと影響がある。


 異様な光景だった。


 ガロンが殺気を放つと同時に、山の木々に止まっていたであろう鳥が一斉に飛び立った。

 あらゆる種類の鳥たちが半狂乱で飛び回り、恐怖の波に汚染された鳴き声を山中に響かせるその光景は、この世の終わりでも知らせるかのようであった。


 やってしまった。


 リティシアの方を見ると、驚き半分、呆れ半分といった顔でガロンを覗き込んでいる。


「ガロンさんって実は、有名な冒険者で身分を隠してたりします?」

「いや、間違いなく新米だ。一ヶ月のな」


 嘘は言っていない。有名な冒険者ではないのだから。





 山頂に向かうと、たしかに目当ての薬草はあった。


 あったにはあったが、その状態は惨憺たるありさまだった。


 踏み荒らされていたのだ。


 なぜ踏み荒らされていたのかについて考えるのはやめよう。

 不運というのはどこにでもあるものだ。


 幸い依頼に必要な量は無事なものをさがして確保できた。が、売ってウハウハする量などは当然なく、得られたのは依頼の報酬だけというオチがついた。





 依頼をおえた数日後、リティシアから依頼主の旦那が回復したという話を聞いた。

 それを話すリティシアは自分のことのように嬉しそうで、ガロンまで釣られて笑ってしまいそうになるくらいだった。

 なんでも、旦那は大工の棟梁だったらしい。




 ガロンが今いるのは、街はずれの小高い丘だ。


 天気は快晴で、春の日差しが心地よい。丘に咲く植物の香りは春から夏への移り変わりを予感させた。

 ここからは街の様子が一望できる。ガロンはそんな中で人間の街並みを眺めてのんびりと過ごすのが気に入っている。


 中でも特に気に入ってるのは、街から丘へと続く道の入り口付近にある、建設中の建物だ。


 ここ数日建設がすすまない日が続いていたが、どうやら今日から再開らしい。

 

人間の建物が出来るのを一から見るのは初めてなので、ガロンは密かに完成を楽しみにしている。

 

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