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第七章 メールのやり取り

第七章 メールのやり取り


 何と、あの田辺が、服毒自殺をして死んでしまったと言うのだ!



 それのみならず、その服毒自殺直前に、田辺は今年に入ってからの不可解な事件のいわば種明かしような内容の遺書をパソコンで打って警察に送付していたと言うのである。


 その中身については、私が、帰りの北陸新幹線の中で推理していたトリックと、そう大きく違ってなさそうであった。


 次の日の新聞記事によれば、要は、田辺が偽名を使って中南米から個人輸入した強力な幻覚作用を持つ特殊なキノコから幻覚成分のみを抽出、それに、これも個人輸入した日本では使われていない強力な中枢神経系に作用する薬剤を混合して新たな「精神錯乱剤」を作り出し、催眠術をも併用。最初に私の施設の入所者で実験。その最初の犠牲者が丁度十番目に亡くなったあのお婆さんであったと言うのである。


 ちなみに、田辺は、施設内の残りの九人の殺害については否定している。それは単なる偶然が重なっただけだと…。


 次に、私の施設にボランティアで訪れた奥さんや、私の近所の女子大生に飲ませると同時に、極度の被害妄想を誘導するような催眠術を掛け、一時的に精神を錯乱させて自殺や他殺を実現。


 また、施設の職員にもその精神錯乱剤を極秘で飲ませ、松浦宏美や石嶌聖美の殺害を謀ったのだが、その幻覚成分の量が少なすぎて殺人まで至らなかったと言うのだ。


 更に、石嶌聖美の場合は、ガス発射方式の市販のエアガンを改造して極細の針を発射できる銃を作り出したと言う。このエアガンには六連発シリンダー方式のガスガンを採用し、シリンダーに装填するカートリッジ毎に針を詰め込み、シリンダーを回転して連射する。六連発で合計六十本の針の発射が可能。


 針が無くなれば次々とカートリッジを交換して、数分で、数百本の針を発射できる針ガンを開発。


 そして、最初の一本のみを石嶌聖美の喉元深く打ち込んで、殺害したと言う。その後、今ほどの針ガンを連射。そして殺害後の石嶌聖美を物品保管庫に隠し、夜の帰宅時間になってから石嶌本人の車に乗せ、自らのアリバイ工作を行ったと言う。


 結局のところ、田辺がこんな奇妙な「針いっぱい」での殺害方法を思いついたのも、またそれ以前に何人もの人間を自殺や他殺に追い込んだのも、この私から『針いっぱいの密室の部屋』というホラー小説を書く、と言う話を聞いた事が最も大きな切っ掛けだったと言うのだ。


 と言うのも、自分の顔に似た猟奇殺人犯の話しを私が小説にすると聞いて内心は激怒!


 この時点で完全に思春期以来じっと押さえてきた自制心が無くなり、ともかく美人を片っ端から殺害しようと言う気になったのが、最も大きな動機であったのだと言うのだ。

 警察に送られてきた遺書の中身は、確かにこのような真犯人しか知っていないような内容が羅列されていたと言うのだ。


 更に、その石嶌聖美の遺影のトリックについても言及してあったと言うが、熱で溶け出す赤色の蝋と特殊な赤色塗料、発火剤をうまく利用した作りで、皆が遺影に近づいて行ったため、鮮血のトリックの暴露を恐れ咄嗟に遠隔操作により発火装置に点火したと言う。


 そして、当該犯罪の立証のため、田辺の遺書に書いてあった山の中の元小学校の廃屋に警察が踏み込んだところ、青酸カリや、ニコチン等の毒薬は無論の事、以前勤務していた私立大学病院から持ち出したり、個人輸入したであろう強力な中枢神経系薬剤の数々や、例の幻覚作用を持つキノコ類とその成分抽出及び薬剤合成用の器具、更に田辺が作り出したガスガンも一丁隠してあったと言う。


 この点で、今までの全ての怪事件の原因はほとんど解明され、この一年間の数々の怪事件の真犯人として、田辺は断定されたのである。

 

 ただ、さすがの警察も、田辺の愛用してしていたS社製のB5版のノートパソコンやスマホだけはどうしても発見できなかったのだが、多分、自殺前に何処か人目の付かない所に処分したのだろうと言う結論であった。


 こうして、202○年に北陸の地に勃発した連続猟奇殺人事件は、田辺の渾名(あだな)を採って、『腐乱件腫多淫』(フランケンシュタイン)殺人事件として、全国的に 喧伝されたのである。



ようやく総ては、解決したのである。



 クリスマスイブを明日に控え、私は、12月23日の祭日の日も職場で勤務していた。


 若い職員になるべく休暇を取らせたかったからでもある。たまたま、事務職員も日直しており、その相手は例の美人ではあるが私のあまり好きでない松浦宏美であった。その日、松浦は、妙に機嫌が良かった。松浦のノイローゼはいつしか直っていた。


 私の業務日誌の記載が終わり、仕事が一段落した後、私は、今年一年に起きた怪事件の数々を思い起こし、


「田辺も死んで、これで、総てが終わったな」と、そう呟いた、その時である。


 一緒に同席していた松浦が、ほんの一瞬だったが、般若のように冷たくニヤリと笑ったのを私は見逃さなかった。……私は、その笑いを見た時、本当に背筋に脂汗が流れた。

 まるで、松浦宏美のその笑いは、猟奇殺人犯そのもだったからである。



 まてよ…?いや、もしかしたら…?



 ここで私は、初めて、完全に悟ったのだった。


私は、例の廃屋や、田辺のアパートから、あれだけ田辺が皆に自慢し続け愛用していた最新型のノートパソコンやスマホが発見されなかった事に、どうしても府に落ちない究極の疑問を抱いていたからである。


 ………だれか別の人間が証拠隠滅のために処分したのではないか?。何しろ、例のキノコや、ニコチンや、ガスガンが、全く処分されていなかったのに、それだけが処分されたと言うのは何処か変ではないか?


 その時、たまたま、第三十三号室の入所者から、ナースコールがあったので、松浦が部屋へ行って見てくれる事となった。


 私は、これは法律に触れるかもしれないと思いながらも、松浦のスマホを見る絶好のチャンスに恵まれたと思った。松浦のスマホと私の持っているスマホは、全く同じS社製の同一機種であり、また、緊急用に松浦からパスワードを聞き出していたのだ。


 つまりそのスマホは直ぐに見れたのである。直ぐに松浦の鞄からスマホを取り出し、受信・送信メール欄を見てみた。



 おお、しかし、こんな事があって果たしていいのであろうか!一体、私は、今まで何を推理してきたのであろうか!



着信y「もうこれ以上はできません。いい加減堪忍して下さい」



送信y「何を言っているの?田辺、あなたは何人も殺しているのよ、それに聞いた話では、東京の病院でも何人も殺してるんでしょ。これは、私の最後の命令でもあるのよ。今度のクリスマスイブに事務係長の一人娘の竹本彩をどんな方法でもいいから殺してくれれば、一回ぐらいはやらせてあげるから。ともかく、私は自分より美しい女の存在は誰でもいいから総て抹殺したいの!」



着信y「東京の病院の件は、あれは総て病院側のミスだって言っているでしょ。僕ちゃんは只の一人だって殺してません。あれは病院が犯したロボトミー実験失敗の医療ミスの責任を、全て、その頃に結婚を申し込んで断れたばかりの僕ちゃんをスケープゴートにして責任をなすりつけたためだと何度も言ってるでしょ。


 確かに、僕ちゃんが犯罪マニアなのは事実ですけど、マニアだけに犯罪は実行しません。実際に僕ちゃんが作り出した精神錯乱剤を、入所者のお婆さんや女子大生等に投与したのも、石嶌さんにあの針ガンを乱射したのも、みんなみんな松浦さん自身じゃないですか。それに、今年の正月から夜間の個室暖房をわざと切って九人もの入所者を肺炎で皆殺しにしたのも、みんなあなたじゃないですか?」



送信y「何寝ぼけた事言ってるの、あなたとは共犯者なのよ、わかる?あなたが犯罪のトリックを考えて私が実行した。あなたが薬剤を作って私が飲ました。あなたが催眠術を私に教え私がそれを実践した。あなたが針ガスガンを二丁作り、その一丁の引き金を私が引いた。お互いりっぱな共犯者じゃない。でも、そのおかげであなたのアリバイは証明されたし、私も三日間も絶食してノイローゼを演じカルテも残してあるから、私も被害者の一人として全く疑いはかからない。お互い絶対安全なのよ。あなたは、例のシンクロ何とかの理論で皆を煙に巻いていればいいの。あなたは私の最後の命令を聞けばいいの!」



着信y「いやいやもう勘弁して下さい。これ以上やったらきっとバレます。あの精神錯乱剤だって、厳密な血液検査をされたら、日本で売られていない薬剤を使用しているとは言え、今度こそはバレます。これでも僕ちゃんは元薬学部在籍でしたからね。だから僕ちゃんはもうこの件から下ります。どうしてもと言うなら警察にあなたの事を訴えますよ。自首しますよ。松浦さんの好きにしたらいいですよ」



送信y「それ以上言うなら、また例の催眠術をかけさせて貰うわよ。私の言う事を聞かなかったら、あなた地獄に堕ちるわよ!私は、『大蛇神教』(だいじゃしんきょう)の巫女なのよ!」




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