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第一章 自慢話


 この物語は、主人公の私が、ホラー小説を書くべく、色々と、ホラー小説の題材を集めていた事が、この、物語の発端となる。


 主人公は、老人の介護施設を管理する社会福祉法人に勤務している。


 しかし、主人公の周りで、次々と、自殺も含め、人が死んでいくのである。


 そこで、有名私大の心理学部を卒業したと言う部下に相談する。その部下は、実は、異様な外見をしている。まるで、フランケンシュタインのようだ。


 この部下は、このような奇怪な事件が次々と起きるのは、C・G・ユング博士の唱えた「シンクロニシティ」が、原因だと、断言したのだが……。つまり、「オカルト」が原因だと言うのだ。


 しかし、この話は、あっと驚く、意外な方向に、話が進んでいくのである。

第一章 自慢話 


「あれっ!この小説の題名、これ、確かに総務係長のでしたね?」


「そう、ほらこの通り、確かにこの総合文芸誌『K』202○年12月号の新人賞の中間選考に受かっとるやろ」と、私は、得意げに話しをしていた。


「確かにそうですね、そもそもこんな変な題名の小説って他に無いですからね。『腫れぼったい顔の愚者の石』なんて、ヘンテコな題名の小説なんか」


「まあ、そう言われたら返答できんがいけどな。それに、その題名こさ、世界的に大ヒットしたあの小説『ハリーポッターと賢者の石』から思い付いたというか、拝借しただけながいけど」


「いやいやいや、参りました。何はともあれ、新人賞の中間選考だけでも通ったのなら、総務係長の小説もまんざら捨てたもんじゃ無いという訳ですね。もうあと一踏ん張りすれば、あわよくば新人賞だったかもしれませんよ。


 それにこのペンネーム「橘勇(ゆう)」と言うのも、総務係長の本名の竹本治より、よっぽどカッコいいじゃないですか」と、田辺純君。


「いや、それ程娑婆は甘くないちゃ。そんな簡単には新人賞等、貰えんちゃ」と、私は、部下の田辺君と、職場の昼休みの時間に、雑談をしていた。


 私は、北陸のとある介護老人福祉施設に勤務しているそろそろ五十歳になろうとしている一係長であり、田辺純君は私の直属の部下で役職は事務主任、三十代前半の独身男性である。


「でも、総務係長。総務係長が応募したこの雑誌は、同人誌とは言え全くの純文学雑誌ですね。確か、事務係長は、ミステリー小説か推理小説を書きたいとか言ってませんでしたっけ?文学雑誌じゃ高尚な文章表現力が求められるから、新人賞を取ったりするのは難しい、と言うのが、総務係長の口癖だったはずじゃ……」


「うん、まさにそこや、いいところに気が付いたの。実は、まさにその通りで、その小説は、最初はミステリー小説や推理小説のつもりで書いていたがや。私の愛読している某推理雑誌に新人賞の募集が出ていての、それに応募してみるつもりやったんや。何しろ賞金が一千万円やぞ。さいけど、この小説はミステリー小説や推理小説としては、とても書けなかったがや」


「それは最初から、犯人が分かっているからですけ?」


「そう、その通りなんや。投稿する前の下書きの原稿を田辺君にも読んでもらったように、この小説に登場する私の同級生の荒木某が、インチキ宗教団体に騙されて殺される筋書きだから、いわゆるミステリー小説や推理小説につきものの、犯罪トリックの持ち込む場面がほとんどないのや。

 それに他人があっと驚くような犯罪トリックにしても、どれだけ考えてもなかなか思いつかなかったんや。


 そこでな、当初のミステリー小説仕様から文面や内容を大幅に改めて、同級生の荒木某が、ドロ沼のようにインチキ宗教団体に騙され溺れていく心理描写を中心にした準文学的作品に書き直してみたと、まあ、これが本当のところやて」


「それで、その雑誌に応募したとそんな訳ですか。でも、総務係長、今の話やったらミステリー小説や推理小説でさえ、そう簡単には書けんがじゃないですか?」


「うん、確かに本当にその通りやと思う。で、私としては、ミステリー小説や推理小説をパスして、実は自分の一番好きなホラー小説で最後の勝負をしてみようと、密かに考えていたんや。


 何と言っても、高校生の夏休みの時、江戸川乱歩先生の全集を図書館から借りて全冊読破したのやが、あの時の衝撃と言うか、感激が今でも忘れられないんや……。


 あの当時は、ホラー小説と言うよりは、確か、怪奇小説とか伝奇小説とか呼ばれていたと記憶しておるんやけどの。『押絵と旅する男』『人間椅子』『芋虫』『陰獣』等々、どれもこれも最高傑作ばっかりやないか。多分、私自身、約三十年近くも前からホラー小説を書きたいと、自分の潜在意識の中では思っていたのやろうなあ。


 今回、やっと、この総合文芸誌『K』の新人賞一次選考にも受かった事やし、自分の小説に対してもほんの少しやけど自信が持てるようになったんや。そっで、これを機に、私の永年の夢、つまりホラー小説の執筆に乗り出す決心をしたんや」


 ここまで話しが進んだ時、東京の有名私大文学部卒だった田辺君は、私が考えているであろうホラー小説に対しもの凄く興味を示し始めた。何しろその目が異様に輝いているではないか!私は、少し勿体ぶって、私なりのホラー小説論を話し始めたのである。


「ところで、田辺君や。あんた、アメリカのホラー映画なんかを見てて、何か腹立たしい事、感じた事ないけ?」と、ゆっくりと切り出した。


「えっ、何の事です。ぼ、僕ちゃんも、良く有料動画配信サービスで、ホラー映画を見ますけど、別に、大体があんなもんじゃないがですか?」


「いやそれは違う。甘いちゃのう、田辺君!大体、アメリカのホラー映画の筋書きちゃ、次のようなものばっかりやろ。

 

 まず、トビッキリの美女がいて、その近辺で猟奇的な殺人事件が起きる。


 と、こんなところから映画は始まるやろう」


「確かに、そんなところですかね」


「そうやろ。まあ、元々ホラー映画なんやから猟奇殺人犯が出てきて当然や。

 そこまでは良いとして、その次からの場面展開が、私には気にくわんのや。


 まず、先程の絶世の美女が、夜、一人で家にいると、裏の物置や台所付近で変な物音がする」


「ええ、ホラー映画では、極、普通にありがちなパターンですちゃね」


「そこで、その美女がやぞ「懐中電灯」一つ持ってその物置や台所へ様子を見に行ってキャーと叫ぶ、つまり、そこで、その猟奇殺人犯と、無事(?)遭遇という訳や。


 例えば、実例を挙げさせて貰えば、アメリカでB級ホラー映画の傑作とされるトビー・フーパー監督作品の『悪魔のいけにえ2』は大体この通りの筋書きでスタートするんや。


 ところで、この映画かビデオを田辺君は見た事があるかいや?」


「ああ、それなら僕ちゃん、最初の作品とパート2、の二つとも見ましたよ。本当に事務係長の言う通りの単純明快な粗筋ですちゃね」


「そうやろ。でも、田辺君や。こんな馬鹿な話があると思うか?これこそまさに映画のためのシナリオやないか?自分の付近で既に何件かの猟奇殺人事件が起きているがいぞ。それもその映画『悪魔のいけにえ2』では、チェーンソーで滅多切りにされた死体と言う猟奇的殺人の物的証拠があるにも関わらずな。


 常識的に考えれば何処の誰が「懐中電灯」一つ持って下見に行くなどそんな危険な事をするもんか!


 もし、私が本人やったらピストル程度は持って行くやろうな。何しろ映画の舞台はアメリカなんやからな。完全な作り話や、観客を馬鹿にするのも程々にしろ!と言いたいぐらいやわ」


「そう言われればそんな気がしてきました。でも、最近の映画は進歩してますよ。今では、最初から主人公に武器を持たせるとか、結構、しっかりと現実を見据えた映画が多くなったような気がしますけども…」


「そうやろな、映画のシナリオも進歩しなければ観客も納得せんやろ。そこで、私の書こうと思っている小説では、例えホラー小説であっても、しっかりしたリアルさと言うか科学性を追求しなければと思っているんや。


 ただ、これは言うのは簡単やけど、実は、大変に難しい事でもあるんや。


 科学性を厳密にし過ぎると死体が蘇生して暴れ回ると言う「ゾンビ」を題材にした小説等は絶対に不可能になってしまうしのう。逆に、いい加減に書き飛ばすと今度はアメリカ映画の『十三日の金曜日』の主人公「ジェイソン」のように、殺しても殺しても死なないような化け物が主人公になってしまうちゃのう」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 怪奇小説のアイデアを練る部分、会話形式で描かれていて、凄くリアルに感じます。会話自体のテンポも良く、ユーモラスなので惹き込まれますね。 [気になる点] 特にありません。 [一言] 私にも江…
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