駄女神の諸事情
少し残念な女神から追加の特典をもらえることを確約させて、色々と話を詰めていくと、唐突に他の女神のことが気になり質問することにした。
「女神様、世界創造の女神なら、貴方に異論を言う女神もいないと思うのですが、そこらへんはどうなのですか?」
「あ~、そのことですか。実は言うと世界創造の女神って私以外にも何人もいて、それぞれ別々の世界を管理しているので、あまり特定の個人を優遇していると、他の世界にも影響が出る可能性があるので、文句を言われたり情報の開示を求められたりと、色々面倒事になるんですよ。だから、あまり無茶な要求を転移・転生者には記憶を消して違う世界に行ってもらうんですよ。」
「なるほど。そうなると俺の待遇ってかなり特殊なんですね。でもそうなると、これ以上要求を求めると、他の転移者や転生者と同じように記憶を消されて、送り出されかねないのですね。」
「いえ、貴方の場合はもう少し特殊で。本来死ぬはずじゃなかった貴方をシステムの誤作動で死なせてしまったので、他の人と同じように異世界に送り出すと、上司に叱られてしまうので、部下の不始末はその上司である私の責任なのです。」
話を聞く限り、この女神の上司がいて、その上司に叱られたくないから恩恵を渡して円満解決として、俺を送り出そうという魂胆か。
しかし、理不尽に死んでしまった俺としては、ある程度の恩恵を貰わないと、異世界での生活に不安が残っているので罰は当たらないだろう。
この女神の事情は理解できたが、それでも自身の保身のためにこうして配慮してくれているのは助かる。
「それじゃあ、さっき話した要望は叶えてくれるんですね?」
「ええ、1度言った言葉を否定するほど落ちぶれていないので。他にも要望があるのであれば、今のうちにすべて言ってください。それを精査して、私のほうで無理かどうか決めますので。」
「分かりました。それじゃあ、先ほどの話の続きで、スキルをもらえるのなら料理スキルで固めてほしいんです。」
「それだけですか?もっとこう、富と名誉、丈夫な身体がほしい!とかないんですか?
「そこまで変な願望を持ち合わせていないので、言いませんよ。」
転移・転生する人はこんなことを言ってたのかと思うと、我ながら普通の考えしか思い浮かばないな。
「じゃあ、貴方の要望は先ほど言ったものと今のスキル関係で最後ですか?それなら転移の準備を開始しますよ。」
「まだ、色々聞きたいこと、言いたいことは山ほどありますが、そろそろ時間が押しているんですか?」
「そういうことじゃないですが、あまりここに長時間いると、現世に下りたとき肉体と精神の同調が不安定になり、肉体の崩壊が起こりえます。」
「じゃあ、早めに転移したほうがよさそうですね。」
「それでは、最後に貴方の要望をまとめると、最初の資金提供、スキルは料理系で固めること。後は、レシピ本の提供でよろしかったですか?」
「ええ、それだけ貰えれば、異世界でいきなり死ぬことはなくなると思ってます。」
「しかし、魔物があまりいない湖畔といえど、多少なりとも魔物が寄ってくる可能性はゼロではないのですが、本当に戦闘系のスキルは必要じゃないんですか?」
「そこは、従業員に任せるつもりですし、最初のうちは逃げることに専念することにします。」
「それだけで、済むのかは分かりませんが、貴方の意思が強いようなので、このままのスキルにしますね。それではこれより転移を開始します。」
そう言うと、足元に魔方陣が形成されていき、だんだんと意識が遠のく感じがしてきた。
そして最後に女神は微笑みを向けてきた。
「貴方の第二の人生が幸あらんこと願います。いずれまた会えることを楽しみにしてます。」
その声と共に意識が完全に途切れた。