ほんとうのさがしもの
冬童話2021参加。皆様の心が少しでも温まりますように。
とても冷たい木枯らしが吹く、ある晴れた日のことでした。
男の子は、道端でさがしものをしている小人に会いました。
「なにをさがしているの?」
男の子は、小人にたずねました。
「さがしものをしている人をさがしているの」
小人は答えました。
小人はさがしものをしている人の、さがしものを見つけてあげないと、おうちに帰れないというのです。
男の子はこんな寒い日に、一人でさがしものをしている小人をかわいそうに思って、一緒に「さがしものをさがしているひとさがし」をはじめました。
しばらくすると、自分の服のポケットをガサゴソとさがしているおじいさんを見つけました。
「おじいさん、もしかしてさがしものですか?」
男の子がたずねると、おじいさんはサイフがなくなったと言いました。
少し離れたところに、茶色の革のサイフが落ちています。
小人はそれを拾うと、おじいさんに渡しました。
「はい。もしかしてこれですか?」
おじいさんはサイフが見つかると喜んでお礼を言って帰っていきました。
「良かったね。これでおうちに帰れるね」
男の子がそう言うと、小人の姿はキラキラと光り、美しい妖精の娘に変わりました。
「ありがとう。あなたが手伝ってくれたおかげで、本当の姿に戻れました。
これでうちに帰れます。
私が本当にさがしていたのは、優しい心の持ち主です。
声をかけてくれて、最後まで探してくれたのはあなただけでした。
もし、あなたがなにかをなくしたときは、わたしが見つけてあげますね」
妖精はそういうと、空へと消えていきました。
それから何年か経ち、男の子は成長して、立派な青年になりました。
しかし優しかった青年は、あるとき悪い人にだまされて、とても貧乏になってしまいました。
貧乏になった青年は人を信じられなくなり、いつしか優しい心を忘れてしまいました。
ある日、青年が町を歩いていると、女の人がなにかをさがしていました。
寒い北風の吹くなか、誰もその女の人に声をかける人はいません。
青年は、昔、自分が子供のときに、小人と「さがしものをさがしているひとさがし」をしたことを思い出しました。
青年は急に懐かしい気持ちになり、思わず女の人に声をかけました。
「なにをさがしているの?」
青年が声をかけると、女の人は答えました。
「ずっと見つからないと思って、長い間さがしていたの。
でも見つからないのは、どうしてか分かったわ。
あなたは優しい心をなくしたんじゃない。
ちゃんとまだ持っていてくれた」
振り返って笑った女の人は、昔、青年が子供だったときに一緒にさがしものさがしをした妖精でした。
妖精に抱き締められた青年は、すっかり忘れていた優しい気持ちを取り戻すことができました。
それからというもの、青年はもう一度人が信じられるようになり、誰にでも親切にする素敵な青年になりました。
素敵な青年の傍らには、いつも幸せそうに笑う妖精の娘の姿があったそうです。
おしまい。
読んでいただきありがとうございます。