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死体、贋作、同窓会

作者: 六地蔵

「お題:死体、贋作、同窓会。制限時間:2時間」


三題噺形式の小説を書いてみようと思いつき、インターネットの適当なお題メーカーに出題を任せたところ上の通り表示された。


三題噺。


古く落語から発生したもので、演目を忘れてしまった真打が、苦し紛れに客席から題を募集して噺をやったところ大ウケにウケて盛況したという。


現代では落語、漫才、トーク番組にとどまらずこうやって小説や果ては大手広告メーカーの採用試験で出題されるまで普及したのだからわからない。


本来はオチにどれかを使わなければいけないとか、お題は人、物、場所の3つで構成するルールがあるのだが蛇足だろう。


椅子にゆったりともたれかかり、お題をどう調理するかを考える。


妻も子供も居て今の仕事にもやりがいを感じるし満足しているが、もともとは作家希望だった。


字を覚えるより早く弟に物語を作って聞かせてやっていたし、字を習ってからはそれこそ毎日書いていた。


SF、ファンタジー、ミステリ、エンタメにホラーと目につく全てのジャンルで執筆した。


読んだものは書きたくなった。


書いても書いてもそれは無くならなかった。書くこと以外になにもしてこなかった私が大学の文芸サークルで妻に見つけてもらって結婚まで出来たのは僥倖だろう。


ありがたいと思わなければならない。うつむき奥歯を噛み締める。ありがたいことなのだ。


たとえ、その妻が私から執筆を取り上げようとしていても。


学生時代、才能に惚れただの調子の良いことを言っていた妻ではあったがあの頃はアバタもエクボというやつで結婚し新婚生活の熱も冷めた今となっては、どこかで見たような話ばっかり書いてないで買い物に連れて行ってだの家事を手伝ってとせがむようになった。


平日は激務、休日は部屋にこもって執筆作業というつまらない夫に嫌気がさしたのだろう。


その妻が「次の応募で賞を取れなかったら断筆して。そうじゃなきゃ離婚よ。」と、言い放ったのが半年前。


そこまで追い詰めてしまったことの申し訳なさから言われるままに約束を取り付けた。


結果から言うと落選した。


人生をかけて取り組んだ作品は一次選考も通過せずあっさりとその生涯を閉じた。


画面にチラつく3つのお題を睨みながらこめかみをもむ。


調子が悪いのは今日に限ったことではなく妻が喋らなくなってからずっとだった。


落選したくせに離婚をするでもなく、相変わらず机にかじりつく夫に嫌気がさしたのだろう。


妻との会話はとんと減った。


来月の同窓会には妻と行くつもりだが、喧嘩中かと冷やかされるかしら。


件の文芸サークルのメンバーの中には作家として大成したものもいれば、諦めたものもいる。


趣味として続けているものも当然にいるのだが私のような熱量で取り組み続けているのは異端だろう。


異端であることが作家の資格たり得れば良いのに。そもそも妻も私の性質をわかっていて結婚したのではないだろうか。


今更、私を捨てるのか。


人として許されるのかそれは。いや、許されないことをしたのは私だ。妻を深く傷つけてしまった。喋らないくらい許してやらなくては。





調子が出ないので三題噺のページを切り上げて同じ文芸サークル出身の作家の小説を読むことにする。


昨日の続きから目を通すがやっぱり私の話が掲載されている。


思わず頭に血が上り机を蹴り上げ、勢いのままゴミ箱にも八つ当たりする。


俺が頭の中で構成していた話そのものじゃないか。アウトプットはまだしてなかったが見ればわかる。これは俺の作品だ。悔しさに奥歯を強く噛みこめかみを揉みしだくが、そんなことをしている場合ではない。


私の作品であると世間に知らしめねばなるまい。


テキストエディタを開きこれもまた昨日の続きから執筆していく。これは俺の文章だ。これも、これも。これもだ。本のページを繰りながら次々に文字をパソコンに移していく。


俺の作品は俺によって発表されなければならない。それなのに中身も読まず落選させやがって…読めばわかるのに審査員もバカだ。


「来月の同窓会では誰が本物かわからせてやるからね。そうすればお前も出て行くなんて言わないよな?」


振り向き、床で冷たくなった妻に声をかける。


返事は、ない。

読んでいただきありがとうございます。




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何卒よろしくお願いいたします。

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