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舞台が異世界の短編集

悪堕ち支援職

作者: 清水薬子

「追放されたぁあぁぁああぁぁぁあぁぁあッ!!」


 街の一画、冒険者で連日賑わう酒場から飛び出した少女は土砂降りの空に向かって吠える。

 酒場の奥では、憑物が落ちたような晴れやかな表情を浮かべて酒を呷るかつての仲間。少女を気にかける様子もなく、歓談に華を咲かせていた。

 それを一瞥した少女は目尻に浮かぶ涙を手の甲で拭い、街の外へ通じる門に向かって駆け出す。


 少女はとある魔術の研究に生涯を捧げていた。

 身体を強化し、強靭なものへと変化させる魔術ーー支援魔術。

 弱き者でもたちまちに歴戦の戦士をも圧倒する能力を手に入れる。それが支援魔術の目的である。

 領土拡大のため領土侵犯を繰り返す魔族の飛び抜けた身体能力に対抗するため編み出された魔術であり、その歴史は他の魔術に比べて浅い。

 生涯の研究課題としているだけあって、少女の支援魔術は効果が凄まじかった。


 素人が施した支援魔術の効果を一、精鋭が施した支援魔術を十とするならば、少女の施す支援魔術は百。

 赤子に施せば『赤子に手を捻られる大人』という光景が見られるし、力自慢の青年に施せば建物一つ投げ飛ばすことも可能だ。


 凄まじかったのだ。


『お前の支援魔術……その、ちょっと別の場所の方が活躍できるんじゃないか?』


 あまりの効果に順応できる人間は見つからなかった。折角の研究成果も、役に立たなければなんの意味もない。

 必然的に効果を絞ってかけることになったのだが、人に順応できるレベルなど程度が知れている。仲間の間で不満が噴出し、あろうことかリーダーは咎めるどころか不満を擁護して少女を非難するばかり。

 耐え兼ねた少女が飛び出しても、誰も後を追いかけないことから仲間としての己の価値をまざまざと突きつけられた。


 土砂降りのなか、外を出歩くという酔狂な輩はない。人気のない通りを抜け、感情のままに街の外に出れば、一匹の魔族を見かけた。

 蹲って他の魔族をやり過ごそうとしているらしい。魔族の間では角の大きさや地域によって格付けがあるそうで、その魔族はちょこんとした角が生えているだけの見るからに虐められそうな外見をしていた。

 その姿があんまりにも今の自分にそっくりで、他人事とは思えなくて……


「やめなさい!!」


 気がつけば、少女はその魔族を、敵であるはずの“ソレ”を庇った。振り上げた魔族の爪が紙を裂くように、柔らかい少女の頰に赤い線を引く。

 斬りつけた魔族はというと、突然の乱入者の存在に驚いて、悲鳴を上げながら頓珍漢な方向へと逃げ出してしまった。その情けない背中を鼻で笑いながら、頬を伝う血を手の甲で拭う。


「ふん……私の支援魔術を使うまでもなかったわね」


 手の甲についた血もたちまちのうちに雨に洗い流される。振り向けば、未だに蹲る魔族の姿があった。小さな角に黒い眼球と赤い瞳孔。そして紫色の肌。自分とは違う存在なのだと一目で分かるが、それでも少女は手を差し伸ばす。


「ほら、大丈夫?」

「?」


 言葉が通じず、目を丸くする魔族。よくよく見れば、線はほそいものの、体つきは雄のそれだ。それでも、少女は辛抱強く手を差し伸ばす。恐る恐るといった様子で魔族の少年は少女の手を握った。引っ張って立ち上がらせると、少女は少年の肩を掴む。


「復讐しましょう!」

「ふ、ふく、しゅー?」

「復讐!! 見下してきたやつらをぎったんぎったんのめっためたにしてやりましょう!!」

「????」


 パチクリと瞬きをする少年を他所に少女はほくそ笑む。

 そう、簡単な話だった。支援魔術は元を辿れば魔族の身体能力に追いつくためのもの。技術を応用すれば人間に施すよりも何倍も高い効果が期待できるだけでなく、それを制御して戦えるはずだ!!

 人間に使う方が間違っていたのだ!


「こうなりゃ特訓と実験よ。目指せ、大魔王!!」

「ダイマオー!? ダイマオー、ダイマオー!!」


 拳を突き上げた少女の姿を見て、少年は顔を綻ばせる。言葉は通じずとも、大魔王を目指すという心を理解したのだ。互いに固く手を握ると、いつの間にか晴れていた空の下に広がる草原へと駆け出していく。


 こうして、『成長すれば手がつけられない』と噂のオーガと壊れ性能を有した支援魔術の使い手という異色かつ無敵のコンビが結成した。


 なお、少女を追放した仲間は知らない。これから街を恐怖に陥れる『災厄のオーガ』のバックにはかつての仲間がいたことを。

 勿論、オーガの少年を虐めていた魔族も知らない。遠くない未来に、弱肉強食の理によってぼっこぼこのめっためたにされることを。


 世界が恐怖に満たされるまで、あと……。

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