ナンデミタ
フィリピンパブがフィリピンである意味はなんだろうか。フィリピンである理由はなんだろうか。
私は人生二回フィリピンパブに行ったことがある。つい先日二回目を終わらせたばかりだ。個人的にフィリピンパブに行きたいと強い思いを抱いたことはない。人生二回とも会社の上司に連れられて行ったことがキッカケだった。そのフィリピンパブの名前はフィリピンらしからぬ「カウボーイ」である。なぜカウボーイなのかは謎である。フィリピンなのにカウボーイであることにツッコミを入れた方がいいのだろうか。でも、このカウボーイが下ネタ要素であり、馬乗りになるということであればそれはそれで違うモノをツッコミたい。
フィリピンパブの嬢達は意外にも流暢に日本語を話し、理解する。そこにはシンプルに敬服する。なぜ日本に来てまで夜の仕事をせざる得ないのか、そんな野暮な質問はしないし、聞いたところでどうすることもできないし、する気もない、多分。
カウボーイの嬢達は結構な年齢であり若い子はいない。体型もなかなか太めな人が多い。そこに群がるのはおじさんよりは歳のいったおじいちゃん手前かおじいちゃんだ、他のフィリピンパブを知らないがなぜそんなにもおじさん以上の人達に人気なのか。日本のキャバクラとあまり変わらない接客で簡単にやれそうな気配もない。若い子がいるキャバクラより歳がいってる方がいいのであれば、今や熟女キャバクラみたいなものもある、にも関わらずフィリピンパブでなければならない理由は皆目見当もつかない。
このカウボーイだけなのか、他のフィリピンパブがどうなのかはわからないが、カウボーイのフィリピン人は私の抱いていたフィリピンパブのイメージとは全然違っていた。私のイメージするフィリピンパブは
「シャチョサーン」
を繰り返し、香水をこれでもかというぐらい香らせて、激しいボディタッチがあり、簡単にワンチャンがありそうなイメージだったが、真逆だったのだ。シャチョサーンも言わない、香水も普通、ボディタッチもない、ワンチャンのワの字すら無く、おっぱいを触らせてくれそうにもない。ボディタッチでいえば、日本のキャバクラの方が多いぐらいだった。そんな中で過ごす時間は苦痛でしかない。暑さを理由に寒い中何回外でタバコをふかし、夜の街を歩く女性をエロい目で見たか。
カウボーイに着くやすぐに部長からカラオケを歌えと言われた。しかも、USAを踊れとも言われた。部長も結構な歳なくせによくそんな歌を知っていたものだ、まして踊れと指示してくるということは踊りを知っているということだ。服装は笑ってしまうほどにおじさんそのものなのに、中身は若く、そのギャップに引きながらも、USAを歌い踊った。フィリピン嬢もUSAは好きらしく一緒に踊っていたが、サビの部分をどうしても先に歌い始める
「カモンベイビーアメリカ〜」
が私が歌うよりも、曲よりも早く先行していくのである。どんだけアメリカに来てほしいねん、そう思いながらも部長のために全力で歌い踊りあげたが、踊り方を指摘されて、さらに引いた。歌えとの指示はとまることを知らない。おじさん達が知っているB'Zの「今宵月が見える丘で」を歌ってあげようと思い店の真ん中に立ち歌っていたのだがフィリピン嬢はその歌を知らないであろうに、私の横に立ちタンバリンで曲に合わせてリズムを打つ。このフィリピン嬢の横に立つ意味はなんなんだろうか、一人で歌わせてほしい、月が見える丘には今は一人でいさせてほしい。
カラオケブームも過ぎ去ればそれぞれの時間が始まる。フィリピン嬢達が上司達の横につき話している。フィリピン嬢がいない上司にはフィリピン嬢ではないが私が話し相手をする。この繰り返しなのだが、カウボーイをこよなく愛し、ヘビロテしている上司はお気に入りのフィリピン嬢がいなくなればひどく不機嫌になる。それをまた、上司がからかう。
「せっかく、来たのにすぐ指名でどっか行くんじゃ、わしゃ帰るで」
「そんなに言うなら帰ろうや」
「いや、ほんまに帰りはせんスけど、、、」
そう言って笑い合っているが、全くおもしろくない。お互い帰る気なんて無いただの茶番である。これは茶番なのに、不機嫌になるのは本気なのがこれまた嘆かわしい。そして、ここまで本気にさせるフィリピン嬢の魅力が私に届いてこないのが、これまた嘆かわしい。フィリピン嬢が私に魅力を届けようとしてないとすればそれも嘆かわしい。
夜の世界で丈の短いドレスは制服みたいなものなのだろう。キャバクラなどでは短いスカートから見えそうになるパンツをハンカチでしっかりと遮っている。しかし、フィリピン嬢は視線というパンチをノーガードで受け止める。今宵パンツが見える店で、が始まるのだ。今回は二人のフィリピン嬢のパンツが見えた。黒のパンツと紺と白のシマシマのパンツだった。紺と白のシマシマのパンツは幼稚だなと思いながら見ていたが、シマシマパンツの履き主は私の視線に気づかなかったらしい、本当にノーガードだ。黒のパンツの履き主は私の視線に気づき
「ナニミテル〜」
と笑って隠そうとするが全然パンツは隠れようとしない。こんなに自己主張の強いパンツなら世の女性全てに履いてほしいものだ。この黒のパンツの履き主はスタイル抜群で顔立ちもキレイで、口元にホクロのあるエロ要素を持った四一歳だった。
「よぉ!黒パンツ」
「クロジャナイヨ」
「いや、黒いの丸見えやから」
「ハイテナイヨ」
「いや、おもいっきり黒のパンツ履いてるやん!ほんならそれ毛ってこと?なかなか広範囲に毛生えてるけど」
「ケジャナイヨ、ワタシノケチャイロダヨ、ホラカミノイロトオンナジ」
全然わからない。パンツだと認めるのか毛だと言い張りたいのかわからない。それに、髪の色とおんなじと言っているが、あなたの髪の色は茶色ではなく、金髪に近い。さらに、黒パンツという私の発言に対してビンタをしようとするモーションの後に頬を優しく撫でられるその動きもわからない。意味もわからず頬を優しく撫でれるぐらいなら、そのモーションのままにビンタされたいぐらいだ。そのままに黒パンツフィリピン嬢が
「ナンデミタ〜」
と笑って言った。なぜ見たのかと問われれば、見えていたから見たまでよ。そうとしか答えようがない。パンツがカモンベイビーと言っていたとでも言えば良かったんだろうか。なんにしろ、ノーガードでパンツを見せているのに、ナンデミタと問われてもそれは愚問である。その愚問を最後に店を出た。
フィリピン嬢の魅力を感じることはなかったし、リピーターになることも無さそうだが、ビールの美味しさに歳を重ねて気づいたように、私も歳を重ねればフィリピンパブの虜になっているのかもしれない。ただ、今の私には見えたパンツ、見せられたパンツ、に興奮しなかったというわだかまりだけが残った、そんなわだかまりを残しつつツイッターの売り子の使用済みパンツの画像を見ている今日この頃。