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最終章 吸血鬼はじめました その4

 翌朝。何故か全然眠れなく、目の下に盛大なクマを作った颯に見送られ、颯の家を後にした。ゲーム自体は日付が変わる前に僕が眠くなったので止めた。その後すぐに電気を消して寝ることになったのに、颯はどうやら一睡もできなかったらしい。本人は否定するが、あのクマを見せられてはまったく信じられなかった。いつも一人しかいない部屋にもう一人いると眠れなくなるのだろうか。そんなに繊細なヤツだっけ?

「ただいまーって、誰もいないのか」

 真っ暗なリビングに入り、電気を付けてローテーブルにあった書き置きを手に取る。

『部活の友達と遊びに行ってきます。美衣』

 朝から元気なことで。

 その時、突然鞄の中で携帯が震えた。相手はティルラからだ。

「もしもし」

 ……あれ。返事がない。電波が悪いのかな。

「もしもし」

『…………颯は預かりました。返してほしくば今から言うところまで司一人で来て下さい』

 ……はい? 今のティルラ、ティルラの声だよね?

「えっと……変なものでも食べた?」

『昨日は美衣特製の鶏肉のない親子丼を食べました』

「それ玉子丼」

『失礼。玉子丼を食べました』

 ちゃんと言い直した。これは間違いなくティルラだ。

「ティルラ、どうしたんだよ。さっき颯がどうのって聞こえたんだけど」

『はい。颯を拘束しました。助けたければ司一人で指定した場所まで来て下さい』

 聞き間違えではなかった。どうやらティルラは行き違いに颯の家を訪れ、方法と目的は分からないが、颯を拉致したようだ。何してるんだアイツは。

「……ティルラ、正気か?」

『私はいつでも司ラブです』

「なるほど。いつも通り狂ってる」

 ただ僕を脅して遊んでいるだけなのだろうか。しかし、ティルラが僕相手にそんなことをするとは思えない。となるとだ。

「……そこに颯いる?」

『声を聞かせましょうか?』

「よろしく」

 そう言うと受話口から雑音が聞こえ、しばらくして

『司!』

「うわっ、ホントに颯だ」

 若干音がぐぐもっていたが、それはたしかに颯の声だった。

『悪い! まさかこんなことにな――っ』

『はい、ここまでです。私が嘘をついていないことが分かりましたか?』

「……一体なにを考えてるんだよ、ティルラ」

 声に怒気を含ませる。効果は薄いだろうが、ティルラには僕が怒っているということくらいは伝わるだろう。

『来れば分かります』

「来ればって、せめてもう少し――」

 プツッ。ツー、ツー。

 ティルラのヤツ、切りやがりましたよ。ホント何だよ。朝からこんなことして。新手の遊びか? そのわりには声に余裕がなかったような気が……。

 まあ行ってみれば分かる。というか行くしかない。颯の命が、とかそこまで大事にはならないだろうが、僕達家族の問題に外部の人間を巻き込むわけにはいかない。

「一言言ってやるか」

 携帯をポケットに突っ込み、僕は玄関へと駆けだした。

 ……で、場所どこだっけ?

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