私は『……たい』と思った。
私は『……たい』と思った。
その理由は……なんてことはない。簡単なこと。
解っているのだけど、少しだけ葛藤があった。
でも、今は……。
この作品は『遥彼方』さまの「紅の秋」企画参加作品です。
私は『死にたい』と思った。
この世の中にこんなにも哀しく、こんなにも切ないことがあるものだろうか。
始まりはなんてことはない。ただの偶然の繰り返し。
いつしかその偶然は必然だったのかなんて思いだし。
話題豊富で話すうち、私の頭の中を一杯にした。
優しい仕草を見るにつけ、心の中を一杯にした。
恋に落ちるなんて案外簡単なものだ。そして滑稽なものだ。
もみじの葉と同じく緑から始まり温かさと冷たさを繰り返し、
やがて紅に彩づき、いつか散ってゆく。
どんなに情熱的な出来事も、甘い恋の囁きもすべては泡沫。
やがては散りゆく運命と知ってはいながらも、愛さずにはいられない。
誰にでも優しいあなたの微笑みが、私ひとりに向けられたものと。
力になってくれるその頼りがいのある姿が、私だけに向いてると。
恋の魅力にその気になって見えなかった実。
恋の魔力にとりつかれて見失っていた自分。
独りよがりのその先にはお決まりのラストシーン。
私にはお似合いの、たったひとりのラストショー。
舞台に上れば拍手を浴びてみんなから賞賛されて。
ありがとうと微笑んでも返ってこない想いたちに、
ただ虚しさだけが通り過ぎ、心に雨を降らせてる。
舞い上がっていたのは私だけ。観客はみな後ろ姿。
切なさだけが溢れ出し、哀しみだけが盛り上がる。
大好きだったのは私だけなの?
あなたも少しは好きだったの?
もう返事もない暗転の舞台にひとり佇むこの瞬間に、
全てを諦める決心をした。
あなたの愛を、微笑みを。
優しい言葉を、眼差しを。
明るい笑顔を、その仕草。
あなたの全てを。
だから私は『死にたい』と思った。
だけど、『死のう』とは思わない。
だから強くなって『生きて』やる。
毎日を元気に過ごしてやる。
せめて『さよなら』は、自分から言ってやる。
そう思えればきっと明日も生きてゆける。
新しい舞台を夢見て。
私は『生きたい』と思う。
お読み下さりありがとうございました。