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第3話(サンディエゴ編2)

サンディエゴ編の後編です。

ぜひ楽しんでいってくださいね。

昨日寝たのは夜遅くだったが普段の生活通り六時に目が覚めた。皆はまだ夢の中だが先に部屋を出てキッチンに向かった。

"おはようございます"

"あら、おはよう。早いのね"

朝食を用意していた分宿先のおばさんが微笑んできた。

"ええ、昔からこの時間に目が覚めるので。"

"君がどこから来たか当ててあげる。日本人でしょ?"

彼女は自信満々な顔をして僕の顔を指しながら言った。

"あれ、僕日本人だって言いましたっけ?"

唐突にあてられた僕はなんでかわからず聞いてみる。

"聞いてないわ"

"僕と同じ名前の友達でもいるんですか?"

"まさか、私にショーゴなんて名前の知り合い他にいないわよ"

"なんでわかったんですか?"

僕は理由がわからず降参した。

"早く起きてきたからよ。日本人は時間にルーズなのが嫌いってよく言うじゃない。"

僕は何人か時間にルーズな日本の友達を頭に思い浮かべたがそれを言って日本人のイメージを壊すのはやめた。

"そうなんですか。"

納得したような顔をした僕を見て彼女は微笑んだ。

"ええ、私も時間にルーズなのは嫌いなの。"

僕はそれを聞くとジョークで返した。

"ということはドイツ系ですか?"

それを聞くと彼女は笑った。

"その通りよ。"

そして二人は同時に言った。

"ドイツ人も時間にルーズなのは嫌いなの"

"ドイツ人も時間にルーズなのは嫌いらしいですね。"

お互いに声を出して笑った。

"シャワーをお借りして宜しいですか?"

"いいわよ、シャワーが終わったらでいいから他の子達を起こしてもらえる?"

"わかりました、急いで浴びてきます。"

僕はさっさとシャワーを浴びると皆を起こした。皆が寝惚け眼をこすっているころ僕はおばさんに呼ばれた。

"準備が出来た子からご飯食べなさい。"

と言われ席に着いたのだが友達は支度なんて出来ていない。結局一人でソーセージのパンケーキと牛乳を胃袋に収めて席を立とうとしたところでようやく何人かが朝食をとろうとしていた。まだ寝てる奴もいたからそいつを起こして僕自身は出かける用意を整えた。確か今日は空母ミッドウェイの見学がメインだったはずだ。

"あー、疲れたー"

僕達は初めて見た巨大な空母に圧倒された。格納庫、飛行甲板はもちろん、艦内の施設を歩いて皆疲れていた。僕はもともと軍事系に興味がある方だったので楽しかったが他のみんなが楽しめたかは謎だ。この後は夜にミュージカルを見に行くらしい。それまでは自由行動になり、小グループに別れて昼のサンディエゴを歩いた。僕は最初スペイン語圏の友達と一緒にいたが途中でペイシンと二人になった。リトル・イタリーを歩きながらイタリアから来た留学生とも一緒に来ればよかったとすこしだけおもった。ただペイシンと二人で過ごした時は楽しかった。もちろん今この時が二人で過ごせる最後の時だと自覚していたがそんなことはとても言い出せなかった。彼女も昨日の件を気にしてなのか特に変な話になることもなく普通に時間が過ぎていった。僕ら2人にとって普通の時間というのはくだらないジョークを互いに言って笑ってる時間だった。

"さて、そろそろ行くか"

二人で時間を確認してから集合場所へと向かう。笑いの絶えない三時間はとても楽しかった。

"うーん、早すぎたか?"

待ち合わせの15分前についた僕とペイシンは誰もいない待ち合わせ場所で互いに顔を見合わせた。

"ショーゴは急ぎすぎなの"

ペイシンがそう言って笑う。

"迷ったらこまるからさ"

と僕は言った。

"迷うはずないじゃないの"

それもそうだと心の中で頷いておく。たしかに僕らはケータイのグーグルマップに地図情報を入れてそれを頼りに来た。が、ただ単に頷くのが悔しかったので憎まれ口を叩いておいた。

"僕はね、でも君が迷いそうだったから"

ペイシンはそれを聞くと笑った。本当に僕と彼女の間には笑いが絶えない。

"女の子を助けるのが男子の役目なんじゃないのかな?"

にやにやしながら見上げないでほしい。

"彼氏にでもやってもらえ"

僕は続けてこうも言った。

"君に彼氏ができたらね"

そう言われた彼女は声を出して笑い、僕を指さして自信満々に言った。

"少なくともショーゴよりはモテるから!"

たしかに彼女は性格もいいし男子にモテそうな気はする。

"でも、ペイシンは俺の恋愛事情知らないよね"

この年頃だと恋愛話というのは盛り上がるものだ。ペイシンも食いついてきた。

"なに?ショーゴ彼女いるの?"

かなりいい食い付きだった。

"さぁ、秘密だよ"

彼女はそれを聞くと頬を膨らませた。

"もう、いいじゃん教えてくれても。私の恋愛事情も教えるから"

"どうせ君は今彼氏いないんでしょ"

そんなことで教えるバカはいない、とばかりにさっさと切り捨てる。

"私のことバカにしてる?"

ペイシンはそう言っているが顔はまだ笑みを浮かべたままだ。

"まさか。誰も君に16年間彼氏がいなかった、なんて言ってないでしょ"

彼女は図星だという顔をした。

"それで、俺の恋愛事情?"

彼女は縦に首を振った。

"うーん、彼女が100人位?"

と指を折りながら言ってみるもののその冗談を逆手にとられた。

"へぇ、ショーゴプレイヤーなんだ!"

大声で彼女がそう言った。徐々に集まってきてた友達が好奇の目をこちらに向ける。

"ショーゴは彼女が…"

ここでペイシンを止めた。

"待って、止めて"

"なら本当のこと教えてよ"

ペイシンが笑いながら言う。言わなければまた彼女は僕がプレイヤーだと言いふらすだろう。

"今はいないからさ"

そう小声で言った。

"ん?なんだって?"

にやつきながら聞き返してくる。仕方ないから少しだけボリュームを上げる。

"今はいないよー"

"聞こえないね、もっと大きな声でー"

それを聞くと彼女の耳元で大きく息を吸った。

"待った、聞こえたから"

僕が大声を出そうと口元に手を当てるとペイシンはそれを止めた。

"なら良かった"

そう普通の顔で言った。彼女はもう少し僕をからかおうとしているらしい。

"ショーゴは彼女欲しくないの?"

と聞いてきた。僕は別に、と言いかけたがただ言ってもつまらない。

"周りの女子に恵まれないからね、特に君みたいな子ね"

と言った。途端彼女の表情が一瞬曇ったのを見て地雷を踏んだかとヒヤヒヤした。しかし彼女はすぐに明るい顔になった。

"ふーん、こんな可愛くて優しい子がそばに居るのに見る目ないねー"

僕はそれを聞いて吹き出しかけた。

"優しいってなんだよ、優しいの意味知ってるの?"

彼女はたしかに優しい。それでもからかっていくのが僕ら二人の間ではいつものことだ。

"あれ?可愛いって認めたの?"

そう言って嬉しそうに笑う。

"流石に女子に直接可愛くないなんて言うほど性格悪くないよ"

"なにその私が可愛くないみたいな言い方"

あ、少しまずいかと思った。

"そんなこと言ってないでしょ"

僕はそう言って誰かが話を切ってくれることを期待した。そしてその期待はすぐに現実となった。

"おーい、これからミュージカル見に行くぞ"

皆がそれで集まって話は途切れた。ミュージカルは席がくじで決められて僕は列の左端、前にはスペインからきたベルタ、横はペイシンだった。ミュージカルの内容はクリスマスを家族と次々やってくる来客で祝うみたいなものだった。前半が終わって後半が始まるまでの休憩時間にベルタとペイシンと3人でおしゃべりしていた。

"なにかさ、スペイン語教えてよ"

と僕がベルタに頼んだ。彼女は一瞬悩む素振りを見せたがすぐにいい言葉を思いついたらしい。

"スペイン語でstupidのことをEstupidと言うわ。日本語ではなんていうの?"

留学生達は皆そういった言葉ばかり知りたがる。僕も例外ではないが。

"Stupidは日本語ではバカっていう"

と教えてあげるとベルタは

"バカ"

と復唱した。ペイシンは僕にそれをどう漢字で書くのか聞いてきたので馬に鹿だと教えた。他の子達もどんどん集まってきて気がついたら僕は様々な国の言葉で悪口が言えるようになっていた。彼らも日本語での悪口を覚えたようだが。

"お客様、第二幕が始まります。席にお戻りください。"

劇場内でのアナウンスで皆各自の席に戻った。

第二幕が終わり、劇場の外で分宿先ごとに解散してからラインの通知に気がついた。それは今回病気でサンディエゴに来られなかった日本人留学生の佳子からだった。実は僕とカコの2人は同じサークル地区からの留学生である。ラインにはこう書かれていた。

「上手くいった?」

何を言っているのか全くわからなかった。むしろ帰国に関してなら昨夜最悪の状態に陥っている。しかしカコが僕の帰国を知るよしもないのでそれはない。では何に関してなのか皆目見当もつかない。

「なんのこと?」

こう返しておいた。すぐにアイフォンが音を立てた。

「わかんないならいいや、可哀想」

何をいきなり言ってきたのだかよくわからないのでカコに返信はしなかった。明日それぞれのホストファミリーがある家に戻るため朝早い。僕達はその日は夜遊ぶでもなくさっさと寝袋に入った。翌日サンディエゴの駅にて乗る電車が違う連中と別れた。その中にペイシンもいた。

"じゃあね、皆また今度"

皆また今度があるような振る舞いだった。もちろん僕以外の連中にはそれがあるのだろうが。僕も皆とハグして行く、これまであった時より少し長く。最後はペイシンだった。彼女の背中に手を回し、暫くそのままハグしていた。心の中でこれまでの感謝を述べて放した。ハグが終わるとペイシンがカバンから一枚のメッセージカードを取り出してきた。それはペイシンから僕へのクリスマスカードだった。

"ペイシン、ありがと"

ペイシンは笑って言った。

"別にいいの。また今度返してね!"

僕は多少罪悪感があったが言った。

"また今度会ったらね"

ペイシンは冗談に受け取ったらしい。

"すぐ会えるでしょ。またね!"

僕は彼女の笑顔を直視出来ずにいった。

"さよなら"

ちょうどその時時間なので同じ電車に乗るメンバーが全員プラットホームに行くことになった。やがて電車の扉が閉まり、サンディエゴから列車は離れていった。

次回からいよいよ主人公に危機が迫ります。

乞うご期待

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