第1話
新連載2話目!
このままお付き合いくださいねー
「よう、ショーゴ。お前今日からホストファミリー変わるんだってな。」
12月1日、南カリフォルニアは半袖短パンでも過ごせるほどの暖かさをまだ残していた。
「ああ、そうだよ。」
僕は話しかけてきた友人の方を見た。
「考えてみればショーゴが来てもう三ヶ月かー。」
「うん、そうだね。先生の言うことも大部分を理解できるようになってきたしサウスハイに来れて本当に良かったと思う。」
そう言って昼休みになり人で溢れているカフェテリアを見渡した。
"何にするの?"
順番が来てたらしく食堂のおばさんが注文を聞いてきた。
"ベーコンチーズバーガーで"
紙製のトレーにベーコンチーズバーガーとフレンチフライが盛り付けられたのを受け取ると出口のところの列に並んだ。無料で取れる水のボトルを一本とってポケットに入れ、財布から1ドル札を4枚取り出した。順番が来たのでスクールIDを機械に入力すると会計係のおばさんが口を開いた。
"3.75よ"
手に持っていたお札を4枚渡すとクォーター硬貨1枚がお釣りとして渡された。
"どうも"
礼を言ってカフェテリアの外に出て友人を待つ。
「ありがとうショーゴ。」
「気にすんなって。」
カフェテリアの外で友人と合流するとテニスコートの方に向けて歩き出した。
"ようショーゴ!"
突然呼ばれて振り返ると近くの席に座っている数人が手を振ってきた。
"ようお前ら!"
両手が塞がっていて手を振り返すことができないので微笑んで返事だけを返した。
「ショーゴ、あれって野球の友達?」
友人からの問に僕は答えた。
「そうだよ、JVの。」
野球部に限らずサウスハイの運動部はVarsity、JV、Freshmanに分かれていてVarsityが学年問わず上手い人達、JVがJunior(第三学年)以下で上手い人たち、FreshmanがFreshman(第一学年)でVarsityにもJVにも入ってない人たちとなっている。
「おう、ショーゴ、ナオ!」
テニスコートでは僕とナオこと東城奈央がついた時には既に10人程が昼飯を食っていた。10人はいずれも日本人か日系人だ。留学当初からナオに誘われていた僕はここで昼飯を食べることが多くなっていた。飯を食べてからテニスをしたりおしゃべりしたりしてたが今日の話題は僕のホストファミリーが変わることだった。
「留学生ってホストファミリー変わるんだなぁ」
ここの日本人グループで一番の先輩である那珂川勇太郎が口を開いた。皆彼のことをナカマルと読んでいる。
「まあ、国際サークルクラブの留学生は基本的にそうだね。基本的に1年間に三~四家庭に行くみたい。俺も三家庭の予定だよ。」
そういうとスマホのロックを解除してラインを開く。同じ日本の高校から同じく国際サークルクラブを通じてスイスに留学している同級生ユータからのメッセージにぱぱっと返信した。彼もどうやらスイスで元気にやっている。僕も負けられない。
「今日の夜帰ってから次のホストファミリーの家に行くって言ってたよな。今日スパルタンベースボールの練習来れるんか?」
これは野球部で一緒の井納庄司からだった。
「ショージ、俺が野球の練習行かないはず無いじゃん。6時間目のアルツー終わってからだけどちゃんと行くから。野球の練習から帰ってからも時間はあるし荷物はもう既に詰めてある。」
そう言って笑った。
「本当さ、ショーゴ0時間目取って最初から練習来れるようにしたらいいのに。」
今度は同じ野球部の飯岡玲音からだった。
「いいんだよレオ、0時間目は7時からだしその時間にホストファミリー起こすのは迷惑になっちゃう。それに…」
「それに?」
「いや、何でもない。」
何かを言おうとして辞めるとナカマルの茶々がはいった。
「なんだロッテ、お前ホモでレオに告白でもするんか?」
「んなわけないだろ。」
そう笑いながら返す。ロッテというのは僕がロッテファンだからついたここの日本人グループでのあだ名だ。もっともそう呼ぶ人はあまりいなくてほとんどの人はショーゴと呼ぶが。
馬鹿話に興じているとジリリリリリとベルの音が鳴り、テニスをしていた連中もボールとラケットをしまった。僕もリュックを背負って立ち上がった。5時間目はHealthの授業、リキと一緒に歩いてる。リキはちょっと変わったところもある。
「そう、それでねその言葉も猛獣先輩が初めて使った…」
またその話かと思って軽く相槌を打っていた。リキとは偶然だが6時間の授業のうち5時間が一緒だった。彼はどこかで見たビデオに出てくる人の言葉を使いたがる。ネットユーザーがかなり使っているようだが僕にとってはそれより視界の片隅に入ったヤツの方が重要だった。
"ショーゴ!"
そう大声で呼んだのはヴァーシティーに所属しているイーアンだった。微笑み返すとイーアンと2人だけのハンドシェイクをした。アメリカに来る前はこのようなことに慣れてなかったが今では複数人とそれぞれのハンドシェイクを持っている。
"また後でね!"
そう言ってイーアンに手を振ると前を行くリキに追いついた。
「さっきのは?」
「うん?イーアンだよ。野球で一緒なの。」
Healthを教える教室入ると日本にいたら間違いなく不良認定されそうなダーレンと目が合った。最初あった時はなんだこいつ?とも思ったが野球に所属していることを知ってからはうちとけている。割と顔が怖いのだがランニングをちょろまかそうとして"3ラップス"というあだ名もついてるやつだ。
"よう3ラップス、今日フレッシュマンも練習あるだろ"
"おうショーゴ、あるぞ"
再びベルの音が鳴ると日本人グループに影で「鏡餅」とあだ名されてる教師が授業を始めた。
ジリリリリリ、2:52にベルが六時間目の終わりを告げると僕の恋人はアルツーの教室から出た。6時間目に数学科であるアルジブラ2が来るのは割とつらいと最初は思っていたが内容はどれも日本で中学時代やったものばかりだった。ただ数学の専門用語を英語で言われるのに相当苦戦はしていたが。
「じゃね、リキ。俺野球行くから。」
「うん、また明日ね。」
軽く挨拶すると小走りになる。サウスハイの中で一番楽しいところはなんだ、と聞かれたら真っ先に野球グラウンドを挙げるだろう。最初のころなかなか友達を作れなかった僕に友達が一気に増えたきっかけでもあった。
「お願いします」
グラウンドに入る時に帽子をとって一礼する。日本の野球部にいた時からグラウンドへの挨拶は欠かさない。日本語での挨拶だがスパルタンフィールドが理解してくれると嬉しい。バッティングケージの中でコーチキースが投げ、ジェシーがバットを振っている。脱いだ帽子を左手に持ったままコーチ達がいる方に歩いていった。
"こんにちは、コーチ!"
"ようショーゴ!"
コーチ陣との挨拶は日本式の帽子を取ってのお辞儀とアメリカンタイプの握手を同時にしている。入ったばかりの頃になんで帽子を取るのかとコーチ達に尋ねられた時に日本では尊敬している人には帽子を取って話すと伝えたらいつの間にかコーチも僕と挨拶する時は帽子をとるようになっていた。帽子をとってダグアウトにリュックを下ろしてブルペンに行く。そこにはヴァーシティーの正捕手で僕と一番仲がいいキアヌ・ヤマナカがいた。
"キアヌ!"
"ショーゴ!"
お互いに呼びあってプロテクター越しに軽くハグした。ブルペンで投げてたケヴィンとハイファイブして奥にあるフレッシュマンが練習してるフィールドに行く。
「お願いします。」
また帽子をとるとフレッシュマンを見ていたコーチのところへ行く。
"こんにちはコーチクラーク!"
"ようショーゴ、今日はフレッシュマンを見るのか"
白い髭を蓄えた50台後半のクラークが笑ってこっちを見た。眼鏡をかけて優しそうな顔をしている。
"はい!ここにはショージもダイチもいますんで"
ダイチは小和田大地のこと、まだフレッシュマンだがJVの試合にもショージと一緒に時々呼ばれてる。小柄ながら走攻守の三拍子が整ったフレッシュマンのリードオフマンだ。
"あの2人が塁に出た時は本当にお前嬉しそうだもんな"
アシスタントコーチとしてスパルタンベースボールに所属してる僕はフレッシュマンの試合では主に一塁ベースコーチをやっている。
"日本語だと指示がしやすくて、英語は上手く話せないので"
これは事実だ。謙遜でも何でもない。けれどコーチや友達は皆謙遜だと受け取る。
"そんなことはない。ショーゴはここに来たばかりの時より英語が遥かに上手いし普通に話せてる。"
"ありがとうコーチ"
慰めだろうがそれでもこう言われると嬉しい。話が切れたところでグラウンドに目をやるとランナー付きのバッティング練習をしている最中だ。ワンナウトランナー二塁というケースを想定しているらしい。
"サードベースコーチやってきます"
そういって僕は駆け出した。ランナーはショージ、バッターはダーレン。すばやく外野の守備位置を確認する。ダーレンの打球が一二塁間を破る。ライトは浅いから回せないが一応大きくオーバーランをさせると内野に返ってきたボールをセカンドがファンブルした。その瞬間僕は声を出した。
「行け!」
ショージは止まりかけた足を再び加速させて本塁までたどり着いた。
「ナイスラン!」
「指示ありがとう。」
セカンドベースに戻ろうとするショージとグータッチする。
"ショーゴ!いい判断だ!"
クラークからも褒められた。アメリカのベースボールは日本の野球より良くも悪くも豪快だと思っていた。そこで隙あらば次の塁を積極的に狙うことを意識して貰えるように言ってきた。
練習が終わってグラウンド整備が始まったヴァーシティー、JVが練習してたグラウンドを整備するトラクターに乗せてもらった。ジェシーが運転する横に座って話をする。ジェシーはSophomore(第二学年)でジュニアの僕の一個下の学年だが誕生日は二ヶ月しか違わない同い年だ。そんな彼はまだソフモアなのにヴァーシティーのレギュラーだ。メジャーのスカウトもジェシーを見に来るとコーチから聞いたこともある。誰かがグラウンドに水撒きをしててそれが少し顔にかかって笑いながらやめるように伝えた。グラウンド整備と片付けが終わるとミーティングがある。最初の頃はちんぷんかんぷんだった内容も今では分かるようになってきた。最後にヴァーシティーのキャプテン、マットが掛け声で締めた。髭を蓄えてとても18に見えないマットだがすごい優しい。
"じゃあねショーゴ!"
ダグアウトでリュックを背負うと後ろからキアヌの声がした。
"また明日!"
そう言うと練習中ケータイに重要な着信が来てないか確認して短パンのポケットに戻した。
"ありがとうコーチセイン。"
ヘッドコーチ(監督)のセインに帽子をとって握手する。
"こちらこそショーゴ。"
そう言ってると横からコーチブルームが現れた。
"セイン、そうじゃない。これが挨拶だ。"
といったブルームは帽子をとってショーゴの手を取るとこう言った。
"Arigato"
どこで覚えたのか分からないその発音は日本人のそれとは程遠かったが僕はコーチの優しさがすごい嬉しくなって満面の笑みを浮かべて日本語で答えた。
「ありがとうコーチブルーム!」
そのあと英語で言い直す。コーチクラーク、コーチキースとも挨拶をした僕は明日からサークルクラブの行事で他の留学生達とサンディエゴに行くため今週末野球に来れない旨を伝えて、コーチ達にサンディエゴ楽しむようにと言われた。そしてグラウンドを後にしようとし、出入口でグラウンドに向き直ると一礼した。
「ありがとうございました。」
帽子をとって深く頭を下げる。待っててくれたショージと2人で校門のところまで歩いて別れた。ショージは親の迎えを待ち、僕は歩いて帰るためだ。アメリカらしい広い道を歩いてると後ろから呼ばれた。
"ショーゴ!これからスターバックス行かない?"
いつもなら二つ返事で学校の隣にあるスターバックスに行くのだがこの日は断った。
"俺今日帰んないと行けないから。ごめんね!またね!"
振り返って手を振ると振り返してくれた。15分ほどの道のりを歩いてファーストホストファミリーの家に着いた。ここのドアを開けるのも今日が最後、アメリカにきて約2ヶ月の思い出を振り返りながら鍵を開ける。思えばこの家族ともたくさんの出来事があった。最初の日には元コックのホストファザーが家にある釜でピザを焼いてくれた。来て二日目には僕が野球好きなのをしってドジャースタジアムに野球を見に連れていってくれた。毎日英語が上達したのは家で話してたからだと思う。ホストファミリーがおはようという日本語を覚えた時オハイオと発音が似てるから覚えやすいと言ってたのも思い出す。僕もお返しとして料理は得意ではないが日本料理を2回作った。一回目はちらし寿司と味噌汁、2回目はお好み焼きを作って出したら喜ばれた。思い出が次々と走馬灯のように走る。
"ただいま!"
"おかえりショーゴ"
入ってすぐ右にある1階のドアを開け、自室に入る。キャリーバッグ二つに纏められた荷物に忘れ物がないか今1度確認した。そして2階に上がりホストファミリーに最後の挨拶をして6時にセカンドホストマザーとなるエイミーが来る約束なのでそれを待った。インターホンがなりそれに合わせて飼い犬のオスカーが玄関のドアに向かって階段を駆け下りて吠える。いつもの光景だがこれも今日で見納めとなる。玄関にはエイミーが来ていた。前に一度だけあった事がある。エイミーはファーストホストファミリーと一言二言交わすとこっちを振り返った。
"行くわよ"
頷いてファーストホストファミリーに今までの感謝を込めて言った。
"ありがとう"
家の鍵を返し、扉を閉めて家を出るとエイミーの車に乗った。どんどん遠ざかる家に心の中で手を振った。夜の海を眺めていると突然エイミーが口を開いた。
"ショーゴあなたは特別なの。私達はあなたをサポートしない。"
僕はその言葉の意味がわからず目を瞬いた。
私にとって新ジャンルな小説です。2話目終えて如何でしたか?
是非このままこの作品を読み続けて頂けたら幸いです。