12話
最後の日、前編です
勝負の月曜日、エイミーは僕に家で大人しくしているようにと言い残して早くから会社に出かけていった。ここまでは想定通りの流れでいる。親もこれまでの様々な虐待を理由にコーチクラークがやって来る2時にサークルクラブ側に保護から外れる旨を通達する予定だった。
11Am、僕はエイミーが戻ってくる気配がないことを確認するとスーツケースを玄関へと出した。そして部屋のベッドを整えた。虐待はあっても布団に罪はない。いままでいい寝心地を提供してくれた布団にはかんしゃせねばならない。そしてコーチを待った。もちろん昼飯などないが仕方ない。空腹など忘れるくらい僕にとってはコーチの迎えが待ち遠しかった。一分一秒が一時間にも感じるとはこのような事を言うのだろうか、などと考えていた。本当に文字通りそのように感じていたのだ。やがてエイミーのではない白い車が家の前に止まった。そして緑のジャケットを着た人がおりてきた。
コーチクラークだ!
そう思うが否や僕はドアを開けた。
"ハイ!コーチ!"
コーチも手を挙げて応えた。
"荷物があるからトランクを開けてください。"
そういって一つのリュックと二つのスーツケースを家から持ち出した。
"わざわざ迎えありがとうございます。"
"いいんだよショーゴ、ようやくこの辛い環境から脱出できるな。"
荷物をトランクに入れながら話していた。
"はやいとこここを離れるに越したことは無い。急ぐぞ"
"わかりましたコーチ"
家にも罪はない。僕は感謝の言葉を家に述べてから扉を閉めた。
"ショーゴ!鍵はいいのか?"
"自動で鍵がかかるとか言ってましたよ"
"ならいい。行くぞ!"
僕は車に乗って扉を閉じた。扉が閉じるがはやいかコーチは車を出した。
"ショーゴ、荷物はどうする?"
"練習後に友達の家に行きます。なので練習後に降ろさせて下さい。"
"わかった。"
サウスハイにはすぐついた。僕は脱出成功した旨をみんなに伝えた。そして背負ってきたリュックをダグアウトに置くと、一旦スクールオフィスに向かった。理由は簡単、僕の教科書はあるはずなのに取られたお金を取り返すためだ。ちょうど僕がグラウンドを出た時に5時間目が終わった。多くの人が出てくる中で僕はEJと出会った。フィリピン人の彼はエンジニアリングで一緒だった。
"ショーゴ!"
彼はいきなり後ろから抱きついてきた。
"おう、最後に野球のみんなにだけでも挨拶しようと思って来たんだ。"
"もうショーゴとは会えないんでしょ、ならメールアドレスを教えてよ。"
もちろん僕は快諾した。彼とはFacebookでの付き合いがあったがこの機会にメールアドレスも教えといた。
"EJ、またいつか会いたい"
"僕もだよ、ショーゴ"
"じゃあ、またいつか!"
熱い抱擁を交わして彼とは別れた。次に目に入ってきたのは野球部5人組だった。目が合った瞬間互いに表情が明るくなった。
"ヘイガイズ!"
"ショーゴ!"
ハグした状態で全員を回された。
"また、練習にすぐいくから。その前にスクールオフィスに行かなくちゃならなくてね。"
と言って僕は急いでスクールオフィスに向かった。
"こんにちは。"
挨拶して僕はスクールIDを見せた。
"僕のホストファミリーが教科書代を払ったのですが教科書は教室においてあるはずなので返金してもらいに来ました。"
対応してくれた事務員が頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。
"あなたのホストファミリーですが教科書代は払っていません。あなたの教科書は既に学校で見つけて図書館に返却しています。お金は受け取ってないですしあなた方から受け取ることもありません。"
僕が頭にクエスチョンマークを浮かべる番だった。
"わかりました、ならその事を録音の前で再度お願いします。"
彼は快く録音に協力してくれた。
"ありがとうございました。"
"ええ、もちろんです"
僕はスクールオフィスを出てグラウンドに向かった。そこは僕の素晴らしい仲間達がいる所だ。スパルタンベースボールにおける僕の最後の練習、胸を躍らせながら僕は足取り軽く走っていった。
最後の日は色々あったので分割します。